第3話 王家との茶会②

「王陛下、王妃様、お久しゅうございます。こちらは娘のセレネディアと、息子のアステリスクです。」

パパに少し背中を押され、私はリクと共に前に出た。

優しそうに微笑む王妃様と王様は、少しパパに似てる気がした。

私にもお母さんがいたらこんな感じだったのかな。

「おはちゅにお目にかかります。セレネディア ルナ リュンヌです。」

やばい。噛んだ。

いや、でもカーテシーを決めれば!

ワンピースの端をつまみ、体制を低くしようとした瞬間、私は転んでしまった。

「ディア!」

「お姉様!」

多分真っ赤になっている顔を片手で隠し、私はリクの腕に掴まりもう一度立ち上がった。

「パパ、大丈夫だから。」

パパを止めた後、私はさっきよりはマシなカーテシーをした。

恥ずかしさを噛み締めながら、チラッと王様と王妃様の顔を見ると、2人は優しい顔で微笑んでいた。

「こんにちは。リュンヌ嬢、今日は来てくれてありがとう。ほら、全員挨拶して。」

王様が穏やかな声で後ろのテーブルでお茶を飲んでいた人たちに声をかけた。

もしかして、この人たちが王女様と王子様かな?

すこし、緊張するなぁ。

「ディア、大丈夫だよ。」

兄に耳元で言われ、私は頷いた。

「一番最初は私たちですね。リュンヌ嬢、リュンヌ令息、お初にお目にかかります。大和から来ました、咲絢奈と申します。そしてこちらが。」

「咲絢奈の婚約者で、この国の第一王子、ジュアンです。ライオス、久しぶり。」

この国にはいない、茶髪の女性。綺麗だなぁ。

愛おしそうにお互いのことを見つめる二人を見ていると、こっちまでキュンキュンしちゃう。

「次は、僕ですね。リュンヌ嬢、はじめまして。リュンヌ令息、久しぶりですね。第二王子のルークと申します。」

黄金の髪にサファイアのような青い瞳、この人がルーク第二王子か。

最後に、咲絢奈様の隣に王国一の美女と言われる王女が立った。

あれ?確かこの国には二人王女がいたはず。もう一人はどこに行ったんだろう。

「リュンヌ嬢、初めまして。第一王女、アンナと申します。後ろに隠れてないで、エミも挨拶して。」

アンナ様が後ろを見て言うと、幼い少女が後ろから顔を出した。

そろりそろりとアンナ様の後ろから出てくると、ペコッと頭を下げた。

「第二王女のエミです。よろしくお願いします。」

同い年くらいかな?

エミ様は恥ずかしそうに顔を隠すと、またアンナ様の後ろに隠れてしまった。

あんな様はエミ様の頭を撫でると、ちょっとずつ近づいてきた。

「ごめんなさいね。セレネディア大公女。この子は大の人見知りだから…でも、従姉妹同士、仲良くしましょう。」

くっ…まるで女神のような笑顔!

というか、従姉妹!?

「従姉妹とは、どういうことですか?」

え、血でも繋がってるの?

「もしかして、知らないのですか?私達の父、この国の王の弟がセレネディア大公女のお父様ですよ。」

「…え?えええええええええっ!?」

驚いてパパの方を見ると、パパはにっこりと微笑んだ。

父よ、なぜ教えてくれなかったのだ。

「セレネディア大公女、大丈夫ですか?」

少し困っているアンナ王女を再度見て、私もパパと同じようにニコッと微笑んだ。

「大丈夫ですよ!あと、せっかくなので、私のことはディアと呼んでください。エミ王女様も。」

従姉妹同士なのに、毎回大公女をつけたら堅苦しすぎる。

「そうですね!じゃあ、私のこともアンナと呼んでください。王女はなしでお願いします。タメ口でもいいですか?」

明るく聡明なアンナ王女様を見て頷くと、私はエミ様の腕をそっと掴んだ。

「はい!エミ様も、あっちで一緒に遊びましょう!私たちはもう友達ですから!」

エミ様の手を引いて、私はアコのところまで走った。

「ディ、ディア様!」

「エミ様、ダイジョーブですよ!アコちゃん!見てみてー!」

振り向いたアコちゃんの目の前に、エミ様を持ってきた。

「どうしたの?って、王女殿下!お久しぶりです。」

ペコっとお辞儀するアコちゃんを見たエミ様は、慌てた表情で私の後ろに隠れた。

「こ、こんにちは。アコ嬢。」

恥ずかしそうに挨拶するエミ様を見るに、友達になりたくないわけではないそうだ。

「お二人とも面識があるのなら、三人で遊びませんか?鬼ごっこでも!」

気まずい空気を破り、二人の手を握ると、エミ様が初めて顔を輝かせた。

「鬼ごっこは危ないですが、本の話でも…!本は楽しいですし、図鑑なら私の部屋にありますので、そこで遊べるかも!って、あ…」

エミ様は何か悪いことをしたかのような顔で口を塞いだ。

「す、すみません。喋りすぎました。王女が図鑑だなんて…すみません。」

何度も謝るエミ様を一瞬見て固まったが、私はすぐに首を振り、しゃがんだ。

「大丈夫ですよ。エミ様、そんなに謝らないでください。素晴らしいじゃないですか。図鑑に詳しいだなんて。」

エミ様を見ていると、リクを思い出す。

毒魔法を扱うのが大好きなリクは、良く自分の部屋で毒の解剖をしていた。

しかし、毒魔法を使うという理由でいじめられ、エミ様のような状態になっていたことを今でも鮮明に覚えている。確か、2年前くらいだったかな。

「そうだー、そうですよ!素晴らしいじゃないですか!」

アコも隣で首を縦に何回もふった。

「エミ様、自分が得意なことに自信を持ってください。自分の将来を、潰さないでください。自分のことを一番信じられるのは、自分なのですから。」

顔を覆っている手を優しくどけて、一緒にゆっくりと立ち上がった。

「ディ、ディア嬢…」

「ディア嬢なんてやめてください。ディアで大丈夫ですよ。」

瞳が涙で濡れているエミ様は、安心したかのような笑顔で頷いた。

「…!はい!」

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