第3話 屋上

もう、どれくらい時間が経っただろうか。

額には、お互いに汗が滲む。

制服に涙が、滴る。

俺は、まだ生きたかったのだろうか?

生きたいという欲求は、もう消えていると思っていたのに。

汗と涙が混ざってぐちゃぐちゃになる。

初めに口を開いたのは、あいつだった。

「なんで助けちゃったの。」

なんでだろう?

「せっかく、楽になれると思ったのに‼︎」

俺も、本当なら…

今この瞬間、ここに存在しなかっただろう。

「自分勝手だよ」

「ねぇ、なんで?」

あいつが、俺を強く睨みつける。

「ごめん、ごめん…」

あいつの気持ちが、俺には痛いほどわかる。

今も、心臓が痛い。

俺だって、死んでしまいたかったのに。

俺だって、楽になりたかったのに。

俺らは、もう十分頑張ったよな?

だから、知りたくないんだよ。

本当は、生きたい。

本当は、幸せになりたい。

本当は、昔みたいに…

どんどん制服をぐしょぐしょに濡らしていく俺を、あいつは睨み続けた。

ごめん。

止められたら、思い出してしまうよな。

あいつも今、俺と同じ思いなのだろうか。

忘れたはずの気持ちに、苦しめられているのだろうか?

視線を前に向け、あいつのことを見つめる。

あいつの目に、驚きが一瞬映し出される。

崩れるのは、一瞬だった。

鋭い目つきから、涙が堰を切ったように溢れ出す。

あいつは俺を睨んでいなかった。

ただ、こぼれそうな涙を必死に耐えていた。

俺が、あいつの気持ちがわかったように、あいつも、俺の気持ちがわかっていたのかもしれない。

同じだ。

あぁ、俺とあいつは、同じなんだ。

希望のない、絶望のど真ん中にいる。

俺と、同じ人がこの世界にいる。

たったそれだけのことが、どうしようにもないくらいに嬉しかった。

絶望の中で、俺らは見つめ合い、

笑い合った。

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鈴山 想葉花  @soyoka

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