第2話 きっかけ
死ぬと決めた日には、もう何も感じなくなっていた。
今からちょうど1年前、
俺の父さんは蒸発した。
母さんも、それからすぐに父さんを追って出て行った。
初めはすぐに帰ってくると思っていた。
母さんが残していった食費の1万円は、1ヶ月もしないうちに無くなってしまった。
カラオケ、ファミレス、居酒屋、コンビニ。
はじめは、食費を賄うためだったはずのバイトが、心の隙間を埋めるかのように増やされ、夏休みの予定は、バイトで埋められていく。
夏休みの中盤。
丁度、家族旅行に行くはずだった頃。
8月1日は、俺の誕生日。
いつか母さんが、俺の誕生花はアサガオだと教えてくれた。
あの時は、花なんてどうでもいいと思っていた。
なのに、あの日は、どうしても思い出してしまった。
花言葉は、「愛情」。
父さんや、母さんは、今も僕を愛してくれているのだろうか?
そもそも、俺を見捨てたからどこかへ行ってしまったのではないか。
信じられないけど、信じていたい。
矛盾する気持ちが、俺を苦しめる。
家族ラインの既読はつかない。
最後に会話したのはいつだろう。
1スクロールでは収まりきらないほどの、俺の言葉が独り言となって連なる。
「俺、16歳になったよ。」
コンビニで買った、30%offのショートケーキを買う。
母さんが作ってくれた、不恰好なクリームのショートケーキ、おいしかったなぁ。
綺麗にできなくてごめんねって、いつも母さんは笑って言った。
ねぇ、帰ってきてよ。
母さん。
俺のために、もう一度。
2つ入りのケーキには、プラスチックのフォークが2つ入っていた。
店員さんが、気を利かせてくれたのだろう。
せめて、一緒に食べてくれる人が1人でもいてくれたらどんなにいいだろう。
16回目の誕生日に、1人で歌うハッピーバースデーがむなしく響く。
全く、「ハッピー」なんかじゃなかった。
それから、俺は、俺が何をして生きていたのか知らない。
ただ毎日が辛すぎて、何も考えたくない。
楽になる為なら、もうどうだっていい。
辛い。
終わりにしたい。
初めは救いだった、家族との楽しい思い出も、今は重しとなって俺にのしかかる。
あぁ、辛い。
父さん、母さん、大好きだよ。
俺のことを、誰よりも大切に思って可愛がってくれた両親。
俺のことをひとりぼっちで残して消えた両親。
ごめん、
もう、どうでもいいんだ。
ごめん、
もう、思い出が引き留められない程に辛いんだ。
ごめん、
もう、俺…
だから、
あの日、俺は飛び降りようとした。
風と一緒になってしまえば、幸せな世界が待っていると信じて。
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