第21話 浅川ママ~。


エルグを元の鞘に戻して妖精族の人たちに感謝された翌日。

場所は現代に戻り、お昼休みの生徒会室。

俺は椅子に座り机に伏せていた。


「暇だ」


さっきまでは片付ける必要のある資料や備品の整理の仕事があったのだが……。


「浅川の女神パワー……限度をしらないのか」


そう。

浅川の謎の女神パワーであっという間に仕事が片付いた。

用意する必要のある資料は机の上に束になって置かれ、備品はあるべき場所に瞬間移動していった。

だからやることがなくなった。

まあ、働く気のなかった俺には嬉しいことなのだが、あまりにもやることがなさ過ぎて逆に困る。

そろそろ優女が菓子パンとコーヒー牛乳を買って持ってきてくれる。

ぐぎゅる~となるお腹を押さえ俺はリアサを見た。

リアサは生徒会長の椅子に座り、アイマスクをつけて眠っていた。

視線を横に逸らせば俺の向かいの席でスマホを弄っている浅川がいる。

ガララッ、と音と共に生徒会室に入ってきたのは優女。


「お兄ちゃん、買ってきたよ」


「サンキュ~」


優女からパンと飲み物を受け取り俺はしっかり起き上がる。

あくびを堪えながらパンの袋を開け食べ始める。

優女が隣の席に座り自分の分のパンを食べ始める。

ああ、なんて平和な時間なんだ。

俺はそうしみじみ呟く。

適当にパンを食べていると浅川がこちらを見る。


「優女さん、青木兄君」


「なんだ?」


「どうしたの?」


「もっと栄養ある物食べたほうがいいよ? 昼食が菓子パンだけなんて、お腹が満たされないよ」


なるほど、どうやら浅川は俺達の食生活を心配しているらしい。

俺も優女も小食派だからこれぐらいの食事でも十分なんだが……確かに周りの生徒はお弁当を持ってきていたり、学食でちゃんとした料理を食べている。

菓子パンだけで済ませる俺達のほうが少ない派閥だろう。


「俺たちはこれだけで十分なんだけどな」


「そうなの? お弁当を作ってくれる人はいないの? それか学食で済ませるとか」


「まあ、確かに、優女は料理できるし、学食で済ませようと思えばそれもできるけど」


俺と優女は見つめ合い。

頷く。


「わたし、学食のあの賑やかさが苦手なんだよね。それに料理はできるけど面倒だし」


「ああ、俺もあまり人が密集するところはあまり好きじゃないんだよ……優女の料理は美味しいが、時々、アレンジ加えて余計な味を作るから怖いな」


「なるほど~……うーん、でもちゃんと食事はとったほうがいいし……」


浅川は腕を組み悩むような仕草を取る。

俺は心配しなくていいと、


「気にしないでいいよ、浅川さん」


優女に先に言われてしまった。

すると浅川がポンと手を打ち合わせた。


「ならこうしよう、わたしが二人のお弁当を作ってくるから、二人は毎日わたしに食費を払ってね?」


「なにそれいいの!?」


浅川の提案に優女が机に乗り出す。

俺は申し訳なさで断ろうと思うんだが優女が乗り気だ。

ここで優女が断らなければ俺だけ断るのもおかしな話だ。


「いいのか? 手間じゃないか、朝早起きしないといけないだろ」


「早起きには慣れてるしね、気にしないでいいよ」


「じゃあお願いします! わあ~、浅川さんの手料理楽しみだなあ、折田君の自慢話がウザくて一度食べてみたいと思ってたんだよね」


「ああ、俺もそれあった、折田の奴、最近ウザいんだよな」


彼女の自慢をしたくなる気持ちはわからなくもないが、恵奈に振られた俺の気持ちも考えて欲しい。

まあもう気にしてないし折田の話も流して聞くことはできるが、ウザいものはウザい。

あれ彼女が可愛い、彼女の料理が美味しい、彼女の声が綺麗と……はあ、浅川、少し折田の前で可愛さ押さえろよ。


「折田君はなんて?」


折田が他人に自分のことをどう言っているのか気になるのか、不安そうに浅川が聞いてくる。

そんな不安そうな顔をしなくていいのに。


「ふむ……うちの彼女、最近調子乗ってるじゃねって言ってたような?」


「えっ」


優女さんなに言ってるの?

浅川が驚いて停止してるじゃないか。


「自分が可愛いと絶対思ってるし、まあ顔はいいけど、あんまりやるとぶりっ子みたいなって」


「そ、そんな……」


浅川がこの世の終わりみたいな顔になってるから、やめてやれよ。


「浅川、優女の冗談だ、落ち着け」


「じょ、冗談? 本当に? 折田君、そんなこと言ってたりしない?」


「優女、お前からもちゃんと言え」


「ごめんね浅川さん、冗談が過ぎたよ、テヘッ☆」


まったく反省しているようには見えないが、一応謝った優女。

それを聞きほっとする浅川。

さて、本当のことを教えてあげよう。


「このビッチめって言ってたぞ?」


「そんなっ!?」


隣で優女がやれやれと首を振ってる。

だって面白いんだもん、浅川の反応が。


「冗談だ」


「だ、だよね? だってわたし……」


そのあとのセリフは聞かなかったことにした。


「本当は毎日惚気てるよ、浅川は可愛いとか、弁当が美味しいとか」


「ほんと聞いてるこっちはうんざりだよ、良かったね浅川さん、彼女思いの彼氏ができて」


「そっか、折田君、わたしのこと世界一可愛いって言ってくれてるのか……」


若干浅川の願望がねじ混ざった気がするが、おおむねそんな感じだ。

俺はコーヒー牛乳を飲み切りゴミ箱に向けてポンと投げる。

見事ゴミ箱にインしたのを見届けて視線を浅川に戻す。


「まあいいや、それよりお弁当、楽しみにしててね、頑張って美味しいの作ってくから」


「「よろしくお願いします浅川ママ」」


「ママはやめて」


もうお弁当を作ってくれるとかママだろ。

今度から浅川ママと呼ばせてもらおう。

俺は席を立ち空になった菓子パンの袋をごみ箱に捨てる。

結局立つならさっき投げたパックも一緒に捨てればよかったと思いながら席に戻る。


「それより暇だな、なにかやることはないのか?」


「おっ、珍しくお兄ちゃんがやる気に」


「そうだね、二人の仕事は執行だから生徒の悩みでも集めてみたらいいんじゃないかな?」


「集めるって言っても、生徒が自分の悩みを早々他人に話すか?」


「それにこの学校平和だしね、そうそうトラブルとか起きないし」


「そうかな? 意外と知らないだけで結構あると思うけど……そうだ、ならわたしが女神パワーで生徒に自分の悩みを目安箱に入れるよう、暗示をかけてみようか」


「でた、女神パワー」


「ほんと浅川さんってなんでもできるねえ」


浅川の案で目安箱に、女神パワーで生徒の悩みを集めることになった。

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