第20話 この四人のやり方


拳と拳がぶつかり衝撃で空気が震える。

次々と拳を繰り出しながら、迫りくるエルグの拳を捌く。

俺は右拳を繰り出すと見せかけてエルグの左手を掴み、左足でエルグの体に蹴りを入れる。


そこそこの力を入れたのでエルグは右に吹き飛んだ。

吹き飛ばされながらも空中で態勢を整えたエルグは難なく地に着地する。

俺は急ぎ足で接近しさらに回し蹴りを放つが、これはエルグが絶え、吹き飛ぶことはなかった。


エルグは俺の足を掴むとその腕力でぶんぶん俺を振り回し、地面に叩きつけようとした。

俺は腕に力を込め叩きつけられる前に地に手を突きバランスを取ると一気に体を捻り、空いてる足で俺の足を掴むエルグの手を蹴る。

それによって解放され俺はバク転しながら距離を取った。


「エルグ、大人しく捕まれ」


「嫌なこった……それよりあの三人の美少女はなんだ? お前の彼女かなんかか?」


「一人は妹、残りは俺の知りあい」


「そうか……お前と違って素直そうで可愛いらしい子たちみたいだな……俺にくれ」


「告白なら自分でしろ、あっ、もうリアサにはさっき断られるような発言されてましたね、ぷぷっ!」


「よし殺す、お前を俺とこの森の養分にしてやる!」


エルグが両手を広げると、周囲の木々から鋭い枝が何百何千と伸びてきて俺に迫った。

俺はスキル『火操術』を発動し、自分の周囲に炎の矢を何百何千と生成し、迫りくる枝たちに向けて放つ。

枝と火の矢がぶつかり一気に燃え上がり迫る枝の勢いが落ちていく。

俺のところまでたどり着く枝はなく、俺は再びエルグに迫った。


異空間から俺の愛刀である黒百丸を取り出し、抜き放った刃をエルグにぶつける。

黒百丸を受けたエルグは上半身と下半身にわかれ真っ二つになったが、すぐに切り口から幹が伸びくっつく。

相変わらずの再生能力に内心呆れながら刀を返し切り込む。


今度はそれを硬化させた右の木拳で受け止めたエルグは左の拳を伸ばしてくる。

俺は手首を柔軟に使い刀を手首の周りで回しながら拳をそれで受ける。

それから俺の刀とエルグの拳がぶつかる攻防が続く。

俺は周囲から魔力反応がしたのでそちらをチラっと見て見ると、優女が魔法を森に向けて放つ場面を見た。

優女が放った魔法はかなり高温度且高濃度の魔力体で、一気に火が付き森が燃え上がった。


「なんだか熱くなって……って! なにやってんだ嬢ちゃん!」


エルグも気づいたのか手が緩む。

そのすきを見て俺はエルグを近くの巨木に向けて蹴り飛ばした。

吹っ飛び巨木にぶつかったエルグに向けてスキル『鋼糸』を発動し、一瞬で巨木にエルグを縫い付ける。

さらにスキル『水操術』で鋭さをイメージした水の槍を生成しエルグの幹に向けて放つ。

槍はエルグを貫通して巨木と繋ぎ合わせる。

すぐに水の槍を操作して氷化させた結果、完全にエルグを巨木に縫い付けた。


「ふう、これで良しと」


「放せこの野郎!」


エルグの声を無視して三人の様子を見る。


「優女さんの言う通り、なにも世界樹本人を掴まえる必要はないのよね……」


そう言いながらリアサは手から怪しげな紫色の煙を発生させ森にばらまいた。

煙に触れた木々はどんどん枯れていく、というか腐食していく。

とても聖女とは思えない能力だ。


「やめろ! 俺の愛するベイビーたちがあー!?」


エルグが涙目で悲鳴をあげてるが、俺には三人を止めるつもりはない。

悪いなエルグ……もう少しそのままでいてくれ。


「優女さんが火事、リアサさんが腐食なら……わたしは空間ごと切り取って見ましょうか?」


「やめてくれ! さすがにそれは修復が難しくっ……」


「それえ~!」


「やめろおー!」


万能型の浅川は女神パワーで森を空間ごと切り取ってどんどん消失させていく。

ああ、これだけ綺麗な森が悪魔三人に蹂躙されていく。

良い景色だなあ。

俺は腕を組みながらその様子を眺める。


「ひゃっはあー! 燃えろ燃えろー!」


「少し臭くなってきたわね……帰ろうかしら」


「お掃除、お掃除♪」


俺は悲鳴をあげてもがいているエルグに少し同情した。

あの後先考えない三人娘を好きにさせたらああなることは、俺、予想できた。

もがくエルグの前で中腰になり語りかける。


「どうする? お前が大人しく捕まるならあの三人を止めるが?」


「この鬼外道クズカスゴミ! それがお前たちのやり方かあー!」


「いや、正直俺もあの三人はやり過ぎだと思うけど……いうこと聞かないお前も悪いからな?」


「くっ! こうなったら俺の真の力でっ!」


「あ、悪いんだけど、お前のこの森のすべての木を操る能力だけど……ここに来る前に超強力な除草剤を森の土全体にスキルで練り込んだんだよね……」


だからまあ……すでに操る木々も力をなくしてる。


「こ、こいつほんとに元代表か!?」


その意見はもっとも。

この森の所持者でもあった俺がこんな手段に出るとは考えもしなかっただろう。


「まあ安心しろ、お前が言うこと聞くなら浅川に女神パワーですべてを元通りに戻してもらうから」


「……俺に選択権はないんだな……」


「そうだな」


「お願いしますハルト様、見逃して♡」


「おっさんの猫撫で声とかキモいから……」


背筋がぞっとしたぞ今。


「はあ……わかりました、わかりましたよ! 言うこと聞くから俺を解放して森を戻してくれ……」


「わかった」


俺は刀を鞘に戻し異空間に収納する。

氷の槍を解き、鋼糸も解く。

解放されたエルグはすぐに体を修復し一息つく。


「はあ、ありがとうと見せかけてえ~!」


「浅川がいること、忘れてないよな?」


殴りかかろうとしてきたエルグがピタッと止まる。


「確かに、あの女神はまずいな……めんご☆ 今のなしにして♪」


「調子の良い奴……」


俺は森をボロボロにしていく三人に声をかけて落ち着かせた。

三人が俺のところに合流し、遠く離れたところに居た妖精族の男性も集まってくる。


「浅川、森を元に戻せるか?」


「戻せますよ、はい」


浅川が手をパンッと合わせると一瞬で景色が元の幻想的で綺麗な森に戻った。

これを見て俺を含めた一同が感嘆の声をあげる。

浅川の女神パワー、超常識外れ。


「さて、妖精族の皆のところに戻りますか」


俺の号令で森の住人たちの居る場所に向かう。

はあ、もうこんな異世界騒動はこりごりだ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る