第18話 世界樹はおっさん


店長に挨拶して店を出る。

なぜかお代は俺が全員分払うことになった。

俺、なにも食べてないのに……。

異世界用の財布を異空間にしまいながら前を歩く三人について行く。


「これからどこ行く?」


優女がリアサと浅川に聞く。


「青木君、なにかこの国に観光名所的な物はないの?」


リアサが振り返り聞いてくるので残り二人の視線も俺に向いた。

この国は他国との交流を目的とした施設を造ってない。

だからすぐに思いつかない。

この国の周辺はあたり一帯森だし、特にこれと言ってないのだが……いや、一か所あったか。


「妖精の森にでも行ってみるか?」


優女の目がキラリと光る。

たぶん妖精の森と聞いて綺麗で優美な幻想の森らしきものを想像したのだろう。

まあ確かに、その通り、観光名所にしたら売れそうな感じの綺麗な森である。

ただそこに住む妖精たちが森を荒らす人間をあまり好いていない。

彼らの心をほどかない限り、観光名所にする計画は進まないだろう。


「行く行く!」


「名前からして妖精の住む森なのかしら?」


「そうですね~久しぶりに世界樹を見るのもいいですかね」


「浅川は知ってるんだな、世界樹」


「ええ、何度か妖精の森にはお邪魔したことがあるので」


世界樹とは妖精の森に生えている小さな木だ。

大きさは世界樹と言う呼び名の割りに成人男性の平均身長ぐらいの高さで、毎年違う種類の葉や花を咲かせる不思議な木だ。

妖精たちはその木を、崇め奉り、神のような存在だと考えている。

俺はあの木を神だなんて思ったことは一度もないが……。


「じゃ、行くか、妖精の森はこの街の中心に入り口がある。まあ別世界にでも行った気分になれるから楽しみにしとけ」


俺がそう言い、街の中心に案内する。


◇ ◇ ◇


街の中心にある入り口を通り、妖精の森に着いたのだが──。


「世界樹様! どこに行かれたのですかー!」


「世界樹さ~ま、出ておいで~! 出ないとお水を抜きにしますよ~!」


「世界樹様どこですっ! 我らをお見捨てなさったのですか!」


妖精の森が妖精たちの騒ぎになっていた。

どうやら世界樹が行方不明になっているようだ。

この騒ぎを見て理解していなさそうなのが約二名。

優女とリアサだ。


「お兄ちゃん、世界樹って木だよね?どこかに行ったりするものなの?」


「というか、最初に見る妖精たちの顔が涙や恐怖に染まってるのは意外ね」


「ああ、最初に説明しておくと、世界樹には意思がある」


「「意思?」」


「ああ、かなり変わったおじさんの意思がな……それから普通に二足歩行で動く」


「「動く?」」


二人がまだ理解できていなさそうのでさらに説明する。

昔々、あるところに一人の青年が居ました。

青年は妖精の森で出会ったある木に一目惚れする。

青年は妖精たちの許可を半年かけて取り、なんとかこの森に住み、その木の世話をしていいことになりました。


「もしかして、その木が世界樹?」


優女の質問に頷く。

青年が一目惚れした木は、その当時からご神木として崇め奉られてきた世界樹と呼ばれる寿命を知らない木だった。

青年は毎日毎日、世界樹のお世話を誰よりも真剣に、丁寧にした。

その様子を数年間見続けてきた森の妖精たちも次第に青年を受け入れるようになっていった。


「そして青年は余生をそこで過ごし、森の妖精たちに看取られた」


「へえ、良い話だあ」


「そうね、でも今の話とこの状況、どう繋がるのかしら?」


「簡単に言うと、青年の魂が世界樹に寄生したんだよ」


「へ?」


優女が不思議そうな顔で見てくるからさらに説明する。

青年は死ぬ前に、なんとか今後も世界樹と過ごせないかと考え、狂気の行動に出る。

青年は自分の魂を無理やり世界樹の中に定着させる魔法を、残りの余生をかけて編み出した。

それから青年は死後、世界樹の中に宿る意思として生まれ変わり、青年の死に悲しむ妖精たちの前に現れた。……地面から抜き出て二足歩行で歩く変態的な木として。


「うわあ~」


「さぞ妖精たちは恐怖絶望したでしょうね、大切なご神木が、青年に汚されたんだから」


「だろうな」


まあなんとか妖精たちも状況を受け入れ、というかもう変えることはできないから受け入れることしかできなかったんだろうが、彼らはそれから平和に暮らしましたとさ。

説明を終えたので騒いでいる森の妖精の一人に声をかける。


「なあ、今度はなにがあったんだ?」


「あっ! ハルト様! それが──」


なんでも森の中に生息するレッドドッグと言う野犬が、夜中に眠る世界樹の根元にション便かけたらしい。

それで機嫌を損ね、安心して眠れる場所がないと怒った世界樹が土から抜け出して逃げ回っているらしい。

なんてバカバカしい話だ。

他人事だからそれぐらい我慢しろと言いたくなる。

だって他人事だし、あいつ木だし。


「ほんとどうしたらいいか……」


「そうか……」


俺もどうしたものか悩む。

この森の住人は元とはいえ俺の国民だったのだ。

住民の悩みには応えてやりたい。

だたどうしてもあのおっさん、世界樹には関わりたいと思わない。

だって面倒臭いんだよあのおっさん。

変態で、変わり者で、木々オタクで、変態だ。

森の木々の世話もおっさんがしているが、あのプリっとしたお尻を振り振りしながら木が木にお水を振りまいているところを見ると気持ち悪い。


「お兄ちゃん、その世界樹って人を捕まえればいいの?」


「優女?」


「やろうよお兄ちゃん、困っているのはお兄ちゃんの知り合いなんでしょ?」


「そうね、面白そうだしわたしも協力するわ」


「じゃあわたしも手伝いますよ」


「三人とも……」


感動……したいところだが……三人の「これ面白そう!」っていうキラキラした目を見てると不安になる。

この三人がさらに余計な問題を作らなければいいが……。


「さて、世界樹って確か魔力を帯びていましたね」


「ならわたしが魔力探知で位置を調べてみるよ」


「念のため、わたしも調べようかしら」


三人がそれぞれのやり方で世界樹の居る位置を調べる。

俺は任せたあーと手を上げる。

丁度いい切り株があったのでそこに座り三人の反応を待つ。

それにしても世界樹のおっさん、騒ぎが絶えない人だな。

俺がこの国の代表をやっていたときも何度か大騒ぎがあった。


「はあ、早く終わればいいけど」


きっとこの望みは叶わないのだろう。そう予感するのだった。

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