第16話 それチョコ理論……。


リアサが聖女と聞き疑う俺と、


「ぷははは! リアサさんが聖女? ないよーないわー」


爆笑してまったく信用しない様子の優女。リアサには悪いが俺もあまり信用できない。だってこの性格だぞ?毒を吐いて高慢さを持った彼女が聖女と言われてもなんだか納得いかない。俺達の反応を見てため息を吐いたリアサは生徒会長の椅子に座った。


「あなたたちが信用しようとしまいと、これは事実よ」


「まあ、そういうことを言いたいときもあるよな」


「そうだね、リアサさんも年頃の女の子だもんね」


「あなたたち、本当にぶん殴るわよ?」


おお怖い。キリっとした目で睨んでくる。というか俺は一度優女を疑った手前、少しはリアサを信じたい気持ちもある。なにか証拠でも見せてくれれば助かるんだけど。そのことに思い至ったのかリアサが思案気な様子をする。


「そうね……青木君、試しに死んでみてくれない?」


「なんで?」


「わたしの聖女としての力を見せるためよ。わたしは回復や癒しを司る聖女、死者を生き返らせることもできるわ」


なら少し怪我したらいいだけじゃん。もしくはこの学校で怪我した奴を探して治療するとか……それだと力がバレるから無理か。とにかく死ぬ必要まではないはずだ。俺は『亜空間収納』スキルで異空間からナイフを取り出す。それで軽く腕を切って見せた。少しだけ血が滲み出る。


「これでいいだろ、治療してくれ」


「死なないの?」


「死なねえよ」


なんて不思議そうに見つめてくるんだこの人。そんなに俺に死んでほしいのか?まるで「あなたが死ぬのは当然の摂理でしょ?」とでも言いたげの様子。渋々と言った感じで立ち上がったリアサが俺の怪我した部分に手をかざす。すると白い光が溢れ見る見るうちに俺の傷口が塞がっていった。俺が取り出したハンカチで滲んだ血をふき取ると、そこには綺麗な腕があった。


「これで信じてくれた?」


どう?と見つめてくるが正直微妙。だって俺も回復系スキルを持ってるし、優女も回復系の魔法を使える可能性がある。その証拠に今の優女も微妙な顔して唸っている。だがここまで見せてくれたのだ。ここは友人として信じてみよう。


「信じるよ」


「優女さんは?」


「うーん、正直どっちか迷うけど……一応信じることにするよ」


「そう、それだけでもいいわ」


そう言って俺から離れ椅子に戻るリアサ。どこか納得いってない様子だった優女も気持ちを切り替えたような顔をしてる。俺も深く考えないことにする。正直なところ、ノリで聞いただけでリアサの正体にはあまり興味なかったのだ。リアサが聖女でも聖女じゃなくても何も変わらない。これまで通り接するつもりだ。


「ジュース買ってきたよー」


ノックもせず生徒会室に入ってきたのは飲み物を抱えた浅川。行儀悪く足で扉を開き閉めた彼女は机に飲み物を三本置く。四本目の飲み物は俺の元まで来て手渡してきた。


「はい、エナジードリンク」


「サンキュー」


俺は受け取り缶が温かいことに気づく。うん? 見て見ればそれはエナジードリンクじゃなかった。


「浅川、なんでおしるこ買ってきてんだ?」


「うん? エナジードリンクと言えばおしるこでしょ? わたしよく疲れた時に欲しくなるんだ」


さも当然の事と言った風に語るがツッコミたくなる。


「バカじゃないの? おしるこをエナジードリンク扱いしてるなんて初めて聞いたぞ」


「そんなっ……わたし疲れた時よく飲んで楽になるんだよ?」


「それ疲れた時にチョコ食べる理論だろ……俺が欲しかったのはこっち」


俺はスマホでエナジードリンクを検索して画像を見せた。


「あっそっち! あちゃー、ならそう言えばよかったのに……まったく困ったさんだな♪」


俺のおでこをつんつんしてくるのをやめてくれないか? なんで俺が悪いみたいなことになってんの? 缶のラベルにもちゃんとエナジードリンクって書いてるよね? おしるこ缶のどこにエナジードリンクって書いてんだよ……。


「まあいいや……それで他に何買ってきたんだ?」


「あっ、こっちはわたしたちの分、はい優女さん、リアサさん、好きなの取ってね」


浅川に言われ優女が手に取ったのが俺が求めていたエナジードリンクに見えるのは気のせいか?俺は目をゴシゴシと擦り、改めて優女が手に取った飲み物を見る。うん……やっぱり俺が頼んだ奴だ。浅川は余った二本の飲み物の内一本をリアサに渡す。……浅川を殴りたくなるのは俺だけか?


「さて、これからの活動について話し合いましょうか」


リアサが手を叩き皆の注目を集める。活動って言っても資料の整理や計理などだろうか?


「生徒会の細かい仕事はすべて浅川さんの女神パワーでちゃっちゃと片付けることにしましょう」


おっと、いきなりの手抜き発言したぞ。というか浅川の女神パワーって、そこまで応用が利くのかよ。


「浅川さんの女神パワーがあれば仕事を終わった状態に変更できるわ、だから残る仕事は執行ね」


「執行って言っても生徒の相談ってそんなに集まるのか?」


あまりこの学校の生徒が困っている様子を見ない。みんな陽キャワッハー!と言った感じで楽しんでる。一部の陰キャも読書なりするなり、同じ趣味の仲間で集まって会話している。この学校は至って平和だ。


「あなたの想像通り、滅多に相談者は現れない、だから暇になるわね……」


暇になるってことは仕事をしなくていいってこと!やっほーい!仕事をしないで済むならそれに越したことない。俺はのんびりラノベでも読んで休み時間を過ごしたい。


「だから暇な時間を使ってわたしたちは……異世界を探検するわ」


「それすごい面白そう!」


リアサの提案に目を輝かせる優女。浅川は呑気にイチゴ牛乳を飲んでいる。俺はと言うと正直微妙だった。確かに異世界を探検するってことは心躍る夢あることだ。だが俺はもうすでに何十年も異世界を経験した。正直、半分くらいのんびり現代で暮らしたいって気持ちもある。だからリアサの提案には少し悩む。


「わたしたちは異世界でも最高レベルの実力者よ、浅川さんの話では優女さんは魔法、魔術で右に出る者がいなく、青木君は一国を築いた実力者、浅川さんは大抵のことは何でもできる女神だし、わたしも皆に劣らない経験と実力がある……なら、皆で冒険しない?」


「したいしたい!」


「わたしはどっちでもいいよー」


三人が賛成派。まだ何も答えない俺に視線が集まる。俺の答えは──。


「俺は──」

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