第14話 この女神、自重を知らない!


優女と俺のカミングアウトから数日──。俺と優女はリアサに朝のホームルーム後、お昼休みに生徒会室に来るよう言われた。なんの用かはあまり気にならなかった為その時は聞かなかった。だが、もしかしたら優女のようになにか事情のありそうなリアサがカミングアウトする可能性もある。あまりリアサが俺にカミングアウトするところは想像できないが……。


「なんの用だろうね?」


お昼休みになり昼食を取った優女と廊下を歩き生徒会室を目指す。生徒会室に着き扉をノックするとリアサからの入室許可の声が聞こえた。扉を開き中に入ると、リアサの他にも浅川がなぜかいた。他には誰もいない。


「リアサ、他の役員の人たちは?」


俺が聞くとさも当然のことであるかのようにリアサが驚くことを、


「他の役員はいないわ、今の生徒会役員はわたしだけよ」


「は?」


生徒会役員がリアサだけって……去年ちゃんと生徒会役員の紹介が全校生徒の前でされていたはずだが。


「他の役員は半年と経たずに業務に疲れてやめてしまったわ……あと、副会長はわたしに迫ってきたから教員にやめさせられたわ」


「じゃあ今まで一人で生徒会を運営してきたのか……どんなバケモンだよお前は」


すごい。すご過ぎる。こいつここまで優秀だったのか。それにしても各役員がする業務を一人でこなすって嘸かし大変だっただろう。仮に教師が手伝ったとしても仕事が追いつきそうもない。


「だけど……今日からは一人じゃないわ」


「へえ、そうか、新しい役員でも見つかったのか? それなら心配いらないな」


「そうね、青木君、今日からあなたの役職は、生徒会副会長兼執行よ!」


なにを言ってるんだリアサは?俺がいつ副会長兼執行って?


「お前はなにを言ってるんだ?」


「そこは浅川さんが説明するわ」


リアサが浅川に手を向け視線を誘導する。俺は浅川を見てどういうことなのかと胡乱な目を向ける。浅川は頬をかきながら可愛くテヘ☆ と頭を叩く。可愛いけどそんなものはどうでもいいから説明してくれ。


「まず説明すると、リアサさんはわたしが女神だってことは知ってたんだ」


そこで浅川は優女に目を向ける。


「優女さんにも昨日わたしから説明したよ」


俺が優女を見るとうんと頷く。


「それで折田君の件のお礼をリアサさんと優女さんにも聞いたら……リアサさんはわたしと青木兄君と優女さんを生徒会に入れて欲しいって頼まれたの」


「でも俺は生徒会に入る気はないぞ?」


「あっ、ごめんけど、もうわたしたちは生徒会役員なの」


浅川まで何を言ってるんだ?


「わたしの女神パワーでこの学校の全校生徒と教員に今の生徒会はわたしたち四人のメンバーで固めてる……って記憶を植え付けたの」


「なんてことしてるんだよ……」


この女神……自重を知らないようだ。つまり俺はこれから生徒会の仕事をしないと仕事をサボってるダメ人間のレッテルを貼られるってことか?本当になんてことしてくれるんだ。俺は働く気はないのに、のんびりスローライフを送るつもりだったのに。


「だからこれからよろしくね? 副会長?」


「副会長はともかく……執行ってなんだ? そんな役職聞いたことないぞ?」


「そこはわたしが説明するわ」


リアサが手をあげ俺達の視線を集める。


「まず簡単に役割分担するけど……優女さんは会計、浅川さんは書記ね。それでこの学校特有の執行の役割だけど……これも簡単に言えば、生徒の悩みを解決する仕事ね」


「生徒の悩みを?」


「そう……今回折田君の件であなたの活躍は見せてもらったわ。だからあなたにうってつけの仕事だと考えてるの」


「俺は折田の件でほとんどなにもしてないぞ?」


「いいえ、わたしはこの件で一つ嘘をついた……」


確かに、折田の件でリアサは嘘を吐いていた。実は折田と浅川さんの関係を怪しんだ女子の仲に陰口を流し折田に接近しようとしてる女子生徒がいた。俺はそれに気づき、知り合いの男友達に牽制してもらった。


「あなたの人を観察する目と人を使う能力は魅力的よ? これは勧誘しないわけにはいかないと思ってね」


「そうか……というかなんでそんな面倒な役職を作ったんだよこの学校は」


それもリアサが説明してくれた。なんでも数十年前の生徒会長があることに気づいたそう。目安箱で集める生徒の要望は全て叶えてあげらあれないだろうかと……。目安箱で集める生徒の要望の中には的を射てるものも時々ある。だが生徒会の仕事では精々一つか二つの要望を叶えることが限界。なら、生徒の要望に直接応えることのできる特別な役職を創ろうと……。


「それで執行って役職が生まれたの」


その考えた生徒会長、さぞ生徒思いで優秀だったんだろうな。ただ当事者になった身からすれば面倒なことしてくれたと文句を言いたい。今の時代目安箱を設置しても生徒の意見はなかなか集まらない。仮に生徒に希望や要望があったとしても目安箱を利用しようとは考えない。俺、生徒会に入る必要ある?


「浅川、俺、辞退したいんだけど……生徒の記憶を元に戻せない?」


「戻せるけど……なんども記憶を書き換えすぎると頭がパアになる可能性があるんだよね、しばらく時間を空けないと」


最悪だ。逃げ場がないじゃないか。しかし優女が大人しい。反対とかしないのだろうか。


「優女はこれでいいのか? 働かなきゃいけなくなるんだぞ?」


「わたしはいいよ、忙し過ぎたらリアサさんに仕事を手伝って貰うし」


「ならわたしは浅川さんに手伝って貰おうかしら……」


「ならわたしはそのすべてを青木兄君に押し付けようかな?」


「お前ら……」


こいつら最低だ。結局俺がすべての業務することになってるじゃねえか。生徒会の仕事なんて詳しいことは何もわからないのにいきなり任せられるのは困る。俺はただの一生徒でいたかったのに……。


「俺だけ負担が多くないか?」


「安心して、仕事はお互いでフォローし合うから、あなたの執行の仕事もわたしたちも一緒に案を考えるわ」


「ならいいけど」


「そうね……相談されたときに男子だけだと女子の相談者の時困るかもしれないわね……優女さん、あなたを執行補佐に任命します」


「お兄ちゃん……なんか普通に仕事が増えたんだけど……」


優女が目を細め「うそおん」と言う顔をする。リアサはそれを見てクスクス笑っている。浅川が手を合わせ音を鳴らす。皆の視線が浅川に集まり、


「じゃあ次は優女さんにお礼を渡すね」


「キターッ!」


優女がガッツポーズを力強くとりテンションを上げる。なにをお礼に頼んだのか……。浅川が移動し一つのナニか白い布で隠された物体に手をかけた。布を勢いよく取って現れたのは、


「じゃあーん! 優女さんのオーダー通り、青木兄君の等身大フィギュアを用意しました!」


「やったー!」


……そこにあったのは本物そっくりな俺のマネキン、もしくはフィギュアだった。なんてもの作ってんだ浅川……。

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