第13話 中二病じゃないもん!
俺は異世界に行き、ただいま帰ってきた。異世界では数十年暮らした。女神である浅川のおかげなのか年は取らず、ずっと若いままだった。今は現代の浅川と折田が付き合うことになった日の放課後にいる。
異世界にはスキルと魔法と言う現代にはない技術が発展していて、俺は『次元跳躍』スキルを手に入れたことで現代に帰ってくることができた。『時空間操作』スキルで時間もばっちり。無事元居た世界の元の時間軸に戻ってこれた。
俺は自分の教室に向かい鞄を取りに行く。まだ校舎にも人がいてちらほらと声が聞えてくる。外では運動部が声をあげながらジョギングしている。段々と人が少なくなっていく学校にならい俺もとっとと帰ることにする。
教室に着くと優女が自分の席に座り寝ていた。俺は自分の鞄を机からとり優女を揺り起こす。
「起きろ優女」
「うんん……ここはどこ? お兄ちゃんのベッド?」
「学校だ、その態勢でベッドなわけないだろ……」
優女は大きなあくびをしながら伸びをして、ぼおとした後俺を見て時が止まったような顔をした。
「お兄ちゃん……雰囲気変わった?」
もしかしたら数十年異世界で暮らしていたことが影響しているのかもしれない。俺の精神年齢は五十歳ぐらいだ。ただ自分でもあまり自分の心が変化した気はしない。若い心を持ったまま年を取ったと言った感じだ。
「まあな……実はお兄ちゃん、異世界に行ってきたんだ」
さて、事実だが頭のおかしい人発言。優女の眠気がまだ残っていた優女の目に力が入りキラキラし出した。
「お兄ちゃん……それほんと?」
あれ?思ったより好感触だぞ?うちの妹とうとう夢と現実の区別がつかなくなったのか。
「ああ……魔物との戦いの冒険の末、俺は異世界に一つの国を興したんだ」
嘘ではないないけど……。
「そう……ならわたしもお兄ちゃんに言わないとだね」
「なにを?」
ゆっくり立ち上がった優女は俺の正面に立ち見つめてきた。優女の目を見るとその黒くて力のある瞳に吸い込まれそうな気がしてくる。少し微笑んだ優女はなにを言うつもりなのか。
「お兄様……わたしには前世の記憶があります」
俺の呼び方が突然様付けに……それに前世持ちのカミングアウト……。纏う雰囲気もガラリと変わる。
「わたしはかつて異世界に住み、魔女と呼ばれ恐れ敬われてきました……わたしの前世の名前はティシャ・シャキナート・ルグルステンド。もうすでに滅んだ国ですが……ルグルステンド王国の女王でした」
ふむふむ……なるほど。それはさぞかし言い出しづらかっただろう。俺は優女の肩にポンと手を置きこういうのだ。
「お兄ちゃん……中二病は卒業しなさいって言ったよな?」
俺がそう言うと目元に涙を浮かべプルプル震えだす優女。おっとなんだ? 中二病を指摘されて恥ずかしくなったか?
「中二病じゃないもん……」
「え?」
「中二病じゃないもん!」
そう言って人差し指を立てた優女の下に異世界で見覚えのある魔力が収束し始めた。そしてあら不思議、一気に大火球が生まれ教室が熱風に包まれる。これはあれだ……お兄ちゃんが間違っていたから許してくれないだろうか……。優女がその大火球をどうするつもりなのか考えたくない。
「わかった! 俺が悪かった! だからその魔法解いてくれ!」
「本当に信じた?」
「信じます、はい、全面的に俺が悪かったです」
「……ならいい」
手を絞るように動かして大火球を消失させた優女。教室の天上が焦げている。
「火災報知器が鳴らなくなるようにするって……意外と冷静だったな」
「まあ、これでも向こうじゃ千年以上生きてたからね、お兄ちゃんよりよっぽど冷静だよ」
「俺より年上なのか……お姉ちゃんって呼んだほうがいい?」
「わたしにとってお兄ちゃんはお兄ちゃんだから普通にお兄ちゃんがお兄ちゃんでいいよお兄ちゃん」
お兄ちゃん連呼すんなよ……途中からなに言ってるのかわからなくなったぞ。それよりそっか、優女も異世界経験者か。身内が仲間だということに少し安心を感じる。そう言えば浅川が別れる前に何か言ってた。順当に行くとリアサも異世界経験者の可能性がある。
「とりあえず、天井のあれ、なんとかしないとな」
天上を見上げ焦げた部分を見る。周辺に人の気配がなくてよかった。目撃者が居たら記憶を消さなければならなかったかもしれない。
「それならわたしが魔法で時間を巻き戻すよ」
そう言って手元に魔法を構成し発動させた優女が時間を操作し天上の焦げがみるみるなくなっていく。俺は風で散らばった紙を一枚一枚拾っていく。そして集めた紙束は教壇に置く。
「それよりお兄ちゃん、異世界はどうだった?楽しかった?」
「うん?まあ、最初は戸惑ったけど楽しかったよ、冒険とか仲間ができたりとか楽しかったな」
「へえ、国を興したってどんな風に?」
俺の異世界でのスタート地点は森の中だった。そこで森の住人のエルフとかドワーフとか妖精族と出会い保護された。そこで俺は手に入れたチートスキルと前世の知識を生かして貢献し、森での立場を手に入れた。それからいろいろあって街づくりをしてたらいつの間にか住人も増え街と言うか一つの国ができていた。
「へえ、そうなんだ」
「まあ国って言っても自称で、どこの国とも交流はないけどな」
「そうなんだ、どうせならわたしも一緒に行きたかったなあ」
「そうだ優女……浅川が女神だってこと、知ってるか?」
俺がそう言うと優女が不思議そうな顔をする。
「浅川さんが女神?それって折田君にとってはそう言うって言う比喩的な?」
「いや、俺が異世界に行くことになったきっかけって折田と浅川をくっつけて、そのお礼で浅川に異世界送りにされたんだよ」
「つまり浅川さんが一般人を異世界に送れる女神ってこと?」
俺が頷くと顎に手を当て考える優女。俺も考えてみる。やっぱり不思議だ。同級生の正体が本物の女神で、妹が異世界の魔女だという現実に。俺はこんなに面白おかしい現実を感じたことがない。異世界の経験のおかげで俺は人間離れした身体能力とスキルを手に入れた。浅川には本当に感謝している。あとで会ったらお礼を言おう。
「まっ、いいや、帰ろ、お兄ちゃん」
「そうだな」
俺たちは鞄を手に教室を出て自宅に向かった。
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