第11話 報告よろしく!


折田攻略作戦会議から数週間たち──。二学年最初の実力テストの結果が張り出された。張り出された紙を見ようと廊下に人が集まっている。今回のテストの勉強時間はゼロ時間だ。


ただ困ったことにテストを受けて、スラスラと回答することができ、正直学年一位の自信しかない。俺と優女も人込みをかき分け張り出された紙を見る。上のほうから視線を向けてみると……。


「お兄ちゃん……今回勉強してないんだよね?」


優女がジト目で見つめてくる。どうやら一番上に載る名前を見たらしい。俺も確認してふっとため息をつく。そしてわざとカッコつけるように髪をかき上げて見せた。


「ふ、俺の頭脳は相変わらずらしいな……ふ、ふ」


今回の学年一位も俺だった。自分の賢さがまぶしいぜっ。周りで悔しそうにハンカチ噛んでる諸君……ごめんね! 今回も俺が一位を取ってしまった。しかも今回は勉強時間ゼロ。地頭の良さが勝因だ。必死に勉強していた人には悪いが……俺、頭良いんですう♡。


「優女が二番でリアサが三番か……変わらんな」


一年の最初のテストから三位以内の名前は変わっていない。俺は全教科満点を取っているから一位なのは確定。次に数点差で優女、リアサと続いている。そこから下の名前は毎回変わっている。点差もそこそこある。


「今回こそ満点取りたかったのになあ……二問間違えただけでお兄ちゃんに負けた」


「俺に勝つには満点取らなきゃいけないぞ……それでも同列一位だけど」


「これは気晴らしに聖典を買い漁らないと気が済まない」


聖典……ラノベのことか。俺もいま読んでいる本が終われば休み時間が暇になる。なにか暇つぶしになる本を探すか。


「じゃあ、帰りに本屋に寄るか」


「相変わらずすごいのね、二人は」


そう言って声をかけてきたのはリアサだった。すごいというのは俺と優女のことだろうか。学年三位のリアサもすごいと思うが……。


「よっ、学年三位」


俺は尊敬の二文字を捨て煽る煽る。おらおらおらあ!俺の言葉にピキッと眉をひそめたリアサは一瞬後ニコッと笑った。ああこれ反撃してくるやつ。


「どうも学年一位さん?今日も武先生に課題を貰っていたのかしら……ああ可哀そう、わたしにはあんな問題解けないわ……まあ、賢ければそんな目に合わないのだけど」


そう言って小馬鹿にするように口元を押さえるリアサ。こいつなんで今日も武先に課題を出されたこと知ってんの? というか武先も居眠りしてても見逃してくれるんじゃなかったのかよ……普通にアイアンクローと課題のダブルアタック決めて来たぞ。


「あはは、あんな問題も解けないのか……さすが学年三位」


「あなたさっきから三位三位って、それしか言えないのかしら?語彙力に欠けること……わたしが辞書でも貸してあげようかしら」


「いらねえよ、それよりリアサ、浅川にちゃんと協力できてるんだろうな?俺は不安だぞ?折田との会話の中でぼろ出すんじゃないかってな」


「大丈夫よ、それに順調……浅川さんは無事折田君の友人ポジションを築きつつあるわ」


「本当か?優女、どうなんだ」


さっきから黙っている優女を見ると呆れたように俺達を見ていた。やれやれと手を振りつつ口を開く。


「大丈夫だよ、それよりお兄ちゃんとリアサさん、目立ってるよ?学年三位以内が揃ってるからみんな注目してるよ?」


周りを見渡せばヒソヒソとこちらを見て話している男女が複数。どうやら学年上位の俺達が集まって言い争っているのを見ていたらしい。ちょっと恥ずかしくなってきた。俺はゴホンと咳ばらいをして気を取り直す。もう人前でリアサを煽るのはやめよ。煽ったら間違いなく煽り返してくる女。それがリアサだ。


「場所を変えよう、屋上で近況を報告してくれ」


俺は先導して屋上に向かう。廊下を進み階段を上がり屋上に出ると無人だった。ちょうどいいと思い設置してあるベンチに座る。隣にあるベンチに優女とリアサが座り会話再開。


「それで折田の様子はどうだ?浅川はちゃんと会話できてるか?」


俺が聞くと優女がピシッと手をあげ報告してくる。


「折田君の様子は普通です……浅川さんもちゃんと折田君と目を合わせて会話できているであります!」


「ふむ、良い報告だ……それで他に報告は?」


「はい! なんだか段々仲良くなっていく折田君と浅川さんを見て……なんだか折田君を奪いたくなってきたのはわたしだけでしょうか!」


「やめろやめろぶち壊す気かお前は!」


「冗談であります!」


コイツ笑って済みそうもない冗談を……。優女が言うと謎の現実感があるから信じてしまいそうになる。それより良かった。浅川が折田の前で緊張して挙動不審になる可能性も考えていたが順調そうでなによりだ。これで浅川がなよなよしてたら腹が立って投げ出したくなっていたがそうならなくて安心した。


「リアサから見てどうだ、折田は浅川を意識しているように見えるか?」


「いいえ、そんな様子はないわ、折田君も慣れてるのか気にしてないみたい」


ムカつくイケメンめ。女子に話しかけられるのが日常的になってるとかどこのラブコメ主人公だ。まあ俺もリアサに話しかけられてる時点で人のことを言えないかもしれないが、それでも折田は話かけられ過ぎだ。まあ別に羨ましいと思ったりしないけど。


「じゃあ周りの女子の様子はどうだ? 変な噂が立ったりしてないか?」


周りの女子の様子が気になる。優女とリアサは成績も顔も優秀で妬みはしても挑んでくる者はいないだろう。だが浅川は違う。顔はいいが成績で目立っているわけでも委員会に所属しているわけでもない。普通の女の子だ。


そんな普通の女子が折田と会話することで憶測と妄想が渦巻き、変な噂や陰口がたっていなければいいが……。


「その点は大丈夫、他の女子に噂を集めて貰ってけど、噂は一つもあがってないわ」


俺の心配のし過ぎか。まあ心の中では何か思っていても直接文句を言ったりはしに来ないだろう。それに人に人の悪口を言うのは自分の品格を下げる行為。進んでやるのはバカだけだ。周囲の人間はそう言った積極的に他人の悪口を言う人間に敏感だ。


気づいていないのは悪口を言う本人だけ。周囲の人間からどう思われているかなんてわかってない。悪口を言えばそれは周囲の人間によって悪口を言った相手に伝わることもある。その人間は悪口を言った人間を笑うだろう。何言ってんだコイツてね。


「まあ、何もないならいいんだ。そのまま浅川には頑張ってもらおう」


俺は心の中で浅川にエールを送った。

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