第9話 どうも、社会のごみです。


放課後の誰もいない教室。俺と優女と浅川は集まって報告会を開いた。今日一日でそれなりの情報を得た。お昼休み後合流した優女もほくほく顔でなにかわかった様子だった。


ほくほく顔なのはどうやらリアサの手作り弁当のご相伴に預かったかららしい。感想はとても美味しくてリアサの味がしたと。うむ、意味わからん感想だし、コイツ女子に餌付けされてたのか羨ましい。


「それで俺からの報告は以上だ。今回のことで一番の成果は、俺の紹介なら少なくともお試しで付き合ってくれる可能性があることがわかったことだな」


俺の話を聞いて浅川がほっとしたような顔をする。意中の相手が交際経験がなく身綺麗だということに少し喜んでいるのだろう。それに俺が紹介すればお試しで付き合うことができるかもしれない。


無理なプレッシャーを感じなくていい。もしアプローチに失敗しても俺の紹介という保険があれば安心して折田に接することができるだろう。


「優女、報告は?」


「まず、わたしからの報告は……リアサさんの作った唐揚げが美味しかったです……」


「ほう……ちなみに味付けは?」


「普通の味とカレー味のがありました。それとわたしが美味しいと言った後ににっこり笑ったリアサさんが可愛かったです」


「そうか……俺も食いたかったなあ」


「以上」


俺は優女にチョップした。何コイツどうでもいい報告をさも重要情報みたいに言ってんだ。


「なに遊んでんだよ、もっと大事なことあるだろ」


「それもそうだね……卵焼きも美味しかったよ?」


「お前は何しに行ったんだ?」


ほら見たことか……隣で浅川が「どういうこと?」って疑問の顔で戸惑ってるじゃん。ちゃんと折田に関する情報言えよ。俺がその頭にアイアンクローを食らわせて情報を搾り取ってやろうか? 物理的に……。


「青木妹さん、折田君に関することを教えて欲しんだけど……」


ほら見たことか。浅川さんがそんなことどうでもいいから折田君の事教えて! って言ってるじゃん。


「そうだね……ほぼお兄ちゃんと一緒かな? 後はちょっぴり残念なお知らせがあるけど……聞く?」


残念なお知らせとは……不穏だ。なにか良くない情報でも手に入れたのか……もしそうなら浅川が聞いていい話かどうか迷う。そこら辺の分別は女子である優女のほうがわかっているだろう。


わざわざ残念なお知らせがあることを伝えたのは、もし伝えても一応問題ないことだからなのだろうが。


「うん、聞く、聞かせて」


「わかった、わかったことはね……折田君、中学生の頃、リアサさんに告白した経験があるらしいんだよ」


なるほど。そんなことがあったのか。それは少し難しい問題だな。リアサの容姿、性格はともに女性の理想と言うかのようなものだから……折田の理想が高くなっている可能性がある。


二人の関係が幼馴染であることから二人はお互いのことをよくわかっていてもおかしくない。少し話しただけで俺もリアサがいい女であることがわかったのだ。折田は嘸かしリアサにぞっこんだっただろう。


「そっか……なるほどね」


浅川が今どんな気持ちなのか俺にはわからない。嫉妬、妬み、憧れ、失望。いろんな感情が渦巻いているかもしれない。それとも振られて交際したわけじゃないからセーフ……とでも思っている可能性もある。聞きたい、聞きたい、今どんな気持ちなのか。


「ちょっと残念だけど、仕方ないことだよね、だってあのリアサさんだもん」


どうやら浅川はリアサが相手なら仕方がないことと納得したらしい。なるほど、そうくるか。浅川が精神的に強くてよかった。ここでぐちぐち言うものなら俺は浅川に付き合うのが面倒になっていただろう。そうならなくて安心した。


「それと、今はもう、折田君はわたしに興味はないだろう、って言ってたよ」


「そっか、ならいいんだ、気にしないことにする」


「そのほうがいいよ」


ふと優女が俺を見つめてきた。


「なんだ?」


「別にい」


「他にはなかったのか? 重要そうな情報」


「なら……リアサさんのスリーサイズ!」


「ほう……それは売れるな、男子に情報量百円ぐらいで売れそうだ」


「お兄ちゃん最低……女子の秘密を売ることと言い、価値が百円とか、リアサさんが聞いたらキレるよ?」


「あはは、大丈夫だってそんな簡単にバレるはずが……」


「なにがバレないって?」


「「「……」」」


俺たちは黙り込んだ。俺が今聞きたくない声が教室の外から聞こえてきたからだ。声のしたほうを向くと教室の扉の角に寄り掛かり腕を組んだ態勢のリアサが居た。あれれ~、いまのおれのおはなしきいてました~? 俺は背中に汗が流れるのを感じながら伺う。俺は努めて笑顔で、気合で汗を無視しながら爽やかに、


「リアサ、久しぶりだなあ、会えて嬉しいよ」


「ええ、わたしもあなたに会えて嬉しいわ、個人情報を売られる前にね」


そう言ってにっこり笑ったリアサは全然笑っているようには見えなかった。ああ、聞かれてた。俺の学校生活が終わるかもしれない。明日には「ねえ、あの男、女子のスリーサイズ売ろうとしてたらしいよ」と女子の間で噂され俺が叩かれまくるかもしれない。味方になってくれるのは情報を売った相手だけだろう。今からでも売らねば! ……冗談だ。


「さて、改めてこんにちは、浅川さんに優女さんに社会のごみ」


……しゃ、社会のごみ。


「こんにちわ! お昼はお弁当分けてくれてありがとうねリアサさん」


「こんにちは……いつから話を聞いてたんですか?」


浅川がリアサに問う。確かにいつからいたんだろうな? まったく気配を感じなかった。


「優女さんがわたしから聞いた話をするところぐらいから……」


「あはは……ごめんねリアサさん、どうしても浅川さんには教えておきたかったから」


「いいわよ、気にしてないわ……それより、面白そうだからわたしも混ぜてちょうだい」


俺と似たようなことを考えていそうなこの女は、頭がきれる。一年生の頃から生徒会に所属していて実績もある。俺と優女に続き、学年三位の成績を誇り、そのフィンランド人の母親から譲り受けた銀髪に青い瞳は人目を引く。それでいてプロポーションもよく男が求める理想の女性って感じの女だ。男子によく告白されていてあしらっていると聞く。それでも男子はその天使な容姿と性格のリアサに夢中だ。だがなぜか、


「リアサって、恋バナとか興味あったけ?」


「そうね、出歯亀のあなたには劣るけど、人並みに興味はあるわ」


そう……リアサは俺に対して口が悪いのだ。

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