第8話 あっ、あそこにお尻が……。


まず手始めに折田の話を聞くことにした俺は、お昼休みに折田を屋上に呼び出し、一緒に昼食をとった。ベンチに座りパンと飲み物を準備した後、話を聞く。


「急に話があるってなんだ?」


そう不思議そうに折田が尋ねてきた。俺は聞きたいことがあると簡単に誘った。下手に誤魔化しや誘導をしないほうがいい。


「ああ、実は俺……折田のことが気になって……」


「……」


折田が少しの沈黙を置いて、俺から距離を取った。しまった、言葉を間違えた。


「俺、女の子が好きなんだけど」


「俺もだよ、だから折田、逃げないでくれ、傷つく……」


折田が怪しむ顔で俺を見ながら距離を戻してくれた。気を取り直して聞く。


「折田って、今好きな子いるか?」


まずは特に重要なこと。今現在意中の相手がいるか聞く。


「どうしたんだ急に恋バナなんて」


「いや、俺恋に失敗しただろ?だからモテモテの折田を参考にしようと思って」


「ああ、なるほど」


コイツ……自分がモテモテなことは一切否定しなかったぞ?腹立つなあ……。


「今は好きな人、いないぞ」


「そうか……ならもしいい感じの相手が居たら付き合う気はあるか?」


「うーん……やっぱ相手に寄るかな? 好きな人だったら付き合いたいだろうし……」


「なら、俺がおすすめした相手なら試しに付き合って見たりするか?」


「まあ、春斗の推薦なら考えるかな……ただやっぱ俺にも好みがあるからな」


なるほど。おそらく浅川の顔は合格だろう。スタイルもまあまあいい。あとは折田の好みに合うかが問題だがこれもたぶん問題ないだろう。勘だが。


「折田って、経験豊富そうだけど交際経験あるのか?」


「いや? 今まで誰とも付き合ったことないな」


「ハッ、童貞かっ」


「春斗、ハッ倒すぞ?」


めっちゃ睨まれた。


「ごめん……」


調子に乗った……。俺も童貞だから人のこと言えないけど。


「なにか理想の女性像ってあるか? 好みでもいいけど」


「うーん……優しい人かな、それがあれば特に他はない」


「巨乳が好きとか? メガネっ子が好きとか……特殊な性癖は……」


「ない」


俺の言葉が終わる前に切られた。こいつ……変な性癖隠してないだろうな?俺が言い終える前に言ったところが少し怪しい……。怒っただけかな?


「そう言えば、俺のクラスの浅川から聞いたぞ? お前体育祭で怪我した浅川を颯爽と助けたらしいじゃん。ほんとイケメンかよ」


できるだけ、今の恋バナと関係ない風に話題を出す。折田が浅川のことを話題に出しやすいように、そして知らない振りができないように言葉を選ぶ。


「……ああ、そんなこともあったなあ」


どうやらちゃんと覚えているらしい。ここで折田が少しでも浅川を意識するよう誘導する。それも自然に……浅川と交流するようになった時を想定して。


「浅川も折田に惚れたんじゃないか? だってイケメンに助けられたら誰でもトキメクだろ? 女子ならさ」


「いやあ、それはないんじゃないか? 顔がいいからって女子が誰でも好意を抱いてくれるわけじゃないからな」


顔がいいのは認めるんだな……。それに折田の意見には賛成だ。俺も自分が顔がいいほうだと自覚があるが恵奈にはまったく響かなかったようだ。あれだけ尽くしたのに悲しい……ぐすん。


「そうか……それでも折田が羨ましいなあ」


俺は心にもないことを菓子パンをかじりながら呟く。俺は俺。今の自分を気に入ってる。恵奈には振られたが……俺は自分を否定するつもりはない。今までの自分も、これからの自分も、自由でありたい。


「俺は春斗が羨ましいぞ?」


折田が驚くことを言う。


「俺のどこが羨ましんだよ……」


自分でも変わり者の自覚はある。同じく変人の優女が居るおかげで寂しくはない。他人じゃないからなおの事、繋がりと言うかシンパシーを感じる。


「頭の回転が速くて成績がいいこと、運動神経がずば抜けてるとこ、誰よりも周囲の人間を見てること、可愛い妹がいるとこ」


「優女はやらんぞ」


きっちり言っとく。


「いらないよ……ただの一般論だ……って! 俺のコーヒー牛乳飲むな!」


腹いせに折田の飲み物を奪ってやった。ふむうまい。他人の物はどうして美味しく感じるんだろうな?


「優女はやらんが……他のところはあんま意味ないぞ? 恵奈にはどれも見向きもされなかったからな」


「俺はほんとに羨ましいぞ。それとまだ恵奈のこと気にしてんだな」


「いや、吹っ切れたけど……ただ、まだ振られた理由がわかんなくて」


「俺も春斗が振られるとは思わなかった。なにがダメだったんだろうな……」


腕を組み手を顎に当て考え始める折田。俺もなんで振られたのか考える。一番最初に思いつくのが……単純に、


「「タイプじゃなかったとか」」


どうやら折田も同じ予想らしい。単に恵奈のタイプの男じゃなかった。顔がタイプじゃなかった。それぐらいしか思いつかない。


「どうしようもないことだな」


折田が諦めたように嘆息する。俺もため息を吐いた。どうしようもないことを考えても仕方ない。それにもう終わったことだ。気にすることはない。俺は恵奈に未練はないのだ。


「新しい恋でも見つけたらどうだ?」


「それ、優女にも言われたけど、考えられないな」


「まあ、あれだけ恵奈に夢中になってたらな、すぐには難しいか」


「というか恋がもう面倒になった」


正直、これ以上女に尽くすつもりはない。俺は自分のために生きる。誰の為でも誰の意思でもない、俺の意思で、俺の為に考え行動する。


「なら、もう自由だな」


「ああ、俺は俺の為に頑張る」


「そうか……」


「俺は陰キャになる」


「……うん? なんで?」


「いや、陰キャって陰で大人しくしていて争いごとに巻き込まれにくいじゃん?女子からも無駄に話しかけられることもないだろうし」


「それ、本音では女子と話したがってる陰キャに喧嘩売ってるぞ」


むむっ。確かに現在進行形で陰キャの人間の思考については考えていなかった。これからはクラスの陰キャも観察しよう。


「まあ、陰キャになれなくても、恋愛は当面なしだな」


「そうか……」


隣で折田が一度相槌を打ち空を見上げた。しばらくしても折田の視線が空に固定されていたので俺もつられて空を見る。するとそこには、なかなかのいいお尻の形をした雲が浮かんでいた。


「折田お前、お尻が好きなの?」


「違う」


強い否定……どうだかなあ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る