第6話 相談されちゃった♪


俺達三人しかいなくなった放課後の教室──。浅川が打ち明けた相談とは優女の予想通り恋愛相談だった。意中の相手は折田。お願いは彼との仲を取り持って欲しいとのこと。可能なら付き合えるように協力して欲しいと……。


「一年の頃の体育祭でわたしが足を挫いて歩けなくなった時に、肩を貸してくれたのが折田君なんだ……」


「ふむふむなるほど……それがきっかけで折田君を意識するようになって、いつの間にか好きになってたんだね」


訳知り顔で頷く優女。


「そうなの、気づいたら好きになってて……きゃっ!」


恥ずかしそうに頬を押さえてモジモジする浅川。女子の「キャッ!」って言うセリフにイラッてくるのは俺だけか?俺が汚い心を持ってるからか?優しそうな顔を浮かべているように見えるが……浅川さん、ごめん、優女の奴楽しんでる。


「わたし、折田君とその時しか接点がなくて、どう話しかけていいかわからないんだ」


「見ず知らずの女子を助けるとか折田の奴イケメンだな……」


「お兄ちゃんには絶対にできないことだね」


優女黙れ。俺にだって女子を助ける気持ちはある。ただやらないだけだ。なにせ俺が女子を助けようものなら都合のいい一時の駒として見られるか、「なにこの人、わたしに気があるの?キモっ」と思われるのがオチなだけだ。時に人は純粋な優しさを優しさとして受け取らない。


俺もかなり捻くれた思考の持ち主だと自覚があるが、周囲の人間も結構歪んだ視野を持っていると思う。時に怪我の手当てをしても、トラブルを解決しても優しさとして認識されない。裏に打算や計算があるのではないか?また、あまり他人の行動に関心がない人間からすれば「あっどうも」の一言で片付いてしまう現象だ。


それが今回、折田の行動は浅川の心にちゃんと届いたようだ。まあ、折田は浅川に本当に興味がなくてやった行動だと思うが。あいつは誰にでも優しい。人望が厚く友人も多い。そんな人間だからこそ優しさを確かに受け取ってもらえたのだろう。羨まし限りだ。あっ、また恵奈の顔が浮かんでくる……ぐすん。


「一年の体育祭だけが接点となると……折田が浅川のことを覚えているか怪しいな」


「確かに、あのイケメン、助けた人間を一々覚えてないイケメンだからね」


「そうなんだ……そう言うところもいい」


ケッケッ! 折田なんてとっとと浅川さんに食われて死ねばいいのだ。俺は親友に軽く妬みを抱いた。まあ、その妬みも折田の顔を見るだけで洗い流されるからすごい。俺は妬んでも恨みはしても復讐はしない。そんな無益なことは無駄だし自分の人格が相手に劣っていると感じてしまう。だから心の中だけで叫ぶのだ……折田爆発しろ! 昔からの幼馴染である親友の人格を思い出す。


「折田は俺が育てたんだ」


「お兄ちゃん何言ってるの?」


「青木兄君?」


「いや、何でもない」


俺は折田にあらゆる心の浄化書──ラノベと漫画を読ませまくり、主人公とはこうあるべしと叩き込んだ過去がある。それが影響しているかわからないがあいつは俺が想定していた以上の良い奴に育った。俺と同じオタク仲間として。


「じゃあまずは折田が浅川のことを覚えているか確認した後、情報収集だな」


「ああ、わたしのこと覚えていなかったらどうしよう……泣きそう」


そう悲しそうな顔しないで欲しい。きっと折田にさりげなく話題を出せばすぐに思い出させることができるさ。あいつは思い出すという行為をしないだけで思い出そうと思えば思い出せる。記憶力も悪いわけじゃない。俺は中学の同級生のこと覚えてないけど……テヘッ☆。


「お兄ちゃんに任せておけば大丈夫だよ、安心してね浅川さん」


「うん、よろしくね青木兄君」


すると小言で優女が囁きかけてきた。


「……お兄ちゃん、ここで浅川さんの好感度稼いで折田君から奪い取る?」


「……お前、なんてゲスイこと考えてるんだよ」


この妹は最近発売された寝取られ系のラノベを買ったばかりだ。きっと読んだのだろう。さっそく影響されてやがる……。


「どうしたの?」


「「なんでもない」」


俺たちは笑って誤魔化した。すまん浅川。うちの妹が邪念を抱いてしまって。


「とにかく、浅川は報告を待っていてくれ」


「わかった」


「じゃ、今日のところは解散するか」


「かいさーん!」


優女が嬉しそうに叫ぶがそこまで喜ぶなよ。浅川にお前が退屈だったと感じさせてしまって失礼だろ。鞄を取った浅川は手を振りながら教室を先に出て行った。俺は武先に出されたスペシャル課題を提出するため今から職員室に向かわなければならない。


「俺、ちょっと武先のところに行ってくる」


「じゃあわたしは下駄箱で待ってるね」


そう言って優女は鞄を持って下駄箱に向かった。俺は教室の扉を閉めた。歩いて職員室に向かう。職員室に入って武先のところに向かえば武先は居た。


「武先、課題持ってきました」


「おう、採点するからちょっと待ってろ」


俺から問題用紙を受け取った武先は赤ペンをペンケースから取り出し採点していく。この人は採点するとき解答用紙を見ない。回答と解き方を事前に暗記しておいてるのだ。それだけでこの人が優秀なことがよくわかる。次々と俺の出した回答に丸を付けていく武先。しばらくして武先がため息をついた。


「はあ……全問正解だ」


「嬉しくなさそうですね」


「ああ、普通の生徒であれば歓喜に震え褒めてやるが、お前はただムカつく」


「それ、生徒に言っていいんですか?」


「別にいいだろ。お前は他の女性教員に慕われているからそれの腹いせだ」


「ほんとに言っていいんですか?」


確かになぜか俺は昔から女性教師に目をかけて貰える謎の特徴がある。特に現国と英語の教師が女性だったらかなり可愛がってもらえる。たぶん俺が変わった思考で文章に味があることと、英語がペラペラであることが理由だろうが……。


「まあそれはともかく、これからは他の生徒の模範となることを心掛けるんだな」


「任せてください。反面教師なら俺の右に出る者はいません」


「そう言う模範じゃねえよ……それより、浅川から話は聞いたか?」


「浅川?」


俺は浅川の相談内容が漏れないようとぼけて見せる。が、


「隠さなくていい、もともと俺が浅川に相談されたことだからな」


「そうなんですか」


浅川が武先に相談なんて意外だな。俺は武先が生徒に慕われていることを改めて実感した。

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