第5話 めっちゃタイプ!


武先から貰ったスペシャル問題はいろんな教科の難問をブレンドしたものだった。俺はこれを五限目の授業を使い解き切った。少し難しかったが問題なく正解を答えられただろう。俺はやればできる子なのだ。これぐらいの問題朝飯前。


「青木兄君、ちょっといい?」


五限目終わりの休み時間。クラスメイトの浅川ひこみが話しかけてきた。クラスメイトが俺に話しかけてくるなんて珍しい。それに一年の頃の浅川とは少し話しただけの仲だったはずだ。


「俺になにか用か?」


「うん……今は話しにくいから、放課後青木妹さんと一緒にこの教室に残っててもらえる?実は他の人には内緒で相談したいことがあって」


「別にいいけど……その相談事を俺たちに持ち掛けていいのか?」


隣を見れば優女は両手を伸ばし足を伸ばした状態でふて寝していた。さっき授業が終わったばかりだからまだ寝てないはず。この会話も聞こえているはずだ。


「うん、二人なら信用できるかなって……」


「そうか……まあ相談の内容によるけど、力になれることがあれば協力するよ」


「ありがとう!」


華が開くかのように笑顔になる浅川。そこまで喜ぶこともないのに。まだ相談内容を聞いてないから俺たちに応えられることかわからない。協力できることかもわからないのにそこまで期待されると困ってしまう。


「あまり期待はしないでくれ」


「うんわかった、話を聞いてくれるだけでもいいから」


そう言って自分の席に戻っていった浅川。そこでやっと優女は顔をあげた。そして顎に手を当てこういう。


「ふふふ、わたしの乙女センサーが反応してる……これは、恋の予感!」


「よだれ出てるぞ、あと寝ぐせ直せ」


涎をハンカチで拭き寝ぐせをせっせと直した優女は再びムフフと笑いキメ顔した。


「これは、恋の予感!」


「お前それ言いたいだけだな……恋の予感ってなんか根拠でもあるのかよ」


浅川が誰かに恋をしているかなんて判断俺にはできない。よく漫画で女の子の顔してるって恋した女の子に対して使ってる言葉があるけど、現実でそれ言われるとどんな顔だよってツッコみたくなる。


「知ってる? 浅川さんって時々折田君のことを見つめているということをっ」


「知らん」


「知ってる? 浅川さんってバスケ部のマネジャーでいつも折田君に甲斐甲斐しくお世話してあげているということをっ」


「知らん」


「知ってる? 実は浅川さんって……」


「もういいわかった。お前が浅川のことをよく観察してることはよくわかった」


「ねえ知ってる……?」


「うぜえ……」


コイツどれだけ浅川のこと見てるんだ。いや、別に浅川に限った話じゃないだろう。優女はよく周りの人間のことをよく観察している。俺も時々人間観察を嗜むこともあるが趣味の範疇だ。だが優女は生徒会の広報や新聞部に情報を流したり、女子の情報網を牛耳ったりいろいろやってる子だ。


優女は兄の俺から見ても容姿は整っている。綺麗な長い黒髪に俺と似たまん丸とした瞳。出るところも出て引っ込むところも引っ込んでる。そんな優女が男子に人気になるのも女子の人望を集めることも自然の流れで、一部の者たちからは学校の魔女なんて呼ばれて恐れられている。


ちなみに兄の俺に特にあだ名はない。これだけ顔が良くて成績が良くて運動神経がいいのに女子からアプローチを受けたことが一切ない。俺は誰から見ても都合の良い相手としか映らないのだろう。あっ、恵奈のことを思い出して涙が出そうっ……。


「お兄ちゃんどうしたの? なんか苦しそうだよ?」


「なんでもない……それより浅川の相談事が恋絡みなら俺にできることはあまりなさそうだな……」


「まあ、お兄ちゃんは恋に完敗した人間だもんね。これで他人にアドバイスとかしてるとこ見たらわたし、ぷふっ、この人振られて置いて偉そうに恋語ってるぜ! って笑う」


「お前のことを殴りたくなってきた」


「いやあ~ん♡」


体を抱えてくねらせる優女。こいつほんと腹立つな。まだ初恋もまだであろう小娘にはわからないのであろう。恋するのは仕方がないことなのだ。俺も恵奈に出会う前までは恋することなんて馬鹿らしい。ラノベを読んでいるほうがずっとマシだと考えていた。


だが恵奈と出会ったことで俺は周囲と関わり折田と友情を育むことになった。中学までの友人がいない生活を少しもったいない人生を過ごしてきたんだなと考えるようにまでなった。まあ今は逆戻りで恋なんて二度とする気にはなれないけど……。


「それにしても相手が折田か……折田の親友が俺だから俺に相談持ち掛けてきたのか……」


「たぶんね、お兄ちゃんに折田君の友人キャラとしての価値を感じたんだよ、きっと」


「友人キャラね……確かにはそれがお似合いなのかもな」


「まあ、わたしにとってはお兄ちゃんが主人公なんだけどね」


優女のどうでもいい発言はさておき。俺はこの件を折田に相談するか悩む。浅川が本当に折田のことを好きならその気持ちを折田に伝えるのが一番手っ取り早い。だが浅川の気持ちもあるだろう。折田に気持ちを知られたら気まずくなって近づくこともできなくなってしまうかもしれない。


「チロリン♪ わたしのクリティカルポイントはお兄ちゃんだよ♪」


それは避けたい。なら折田にアプローチを仕掛けることになるがこれも微妙だ。折田は俺と違って普通にモテる。いつも周囲には女子が居て楽しそうに話している。だからかなり女子慣れしているだろう。俺の予想だとちょっとぐらいのアプローチならすぐに察して心を閉ざしてしまうだろう。


「チロリン♪ わたしの好感度アップアイテムはお兄ちゃんだよ♪」


だから下手なアプローチを仕掛けることは得策ではない。


「チロリン♪ わたしの攻略難易度は……」


「さっきからうるさいぞ優女。真剣に考えてやれよ」


「お兄ちゃんが考えてくれてるからわたしはいいんです」


コイツ頭がいいくせに俺に丸投げかよ。まあ直接お願いされたのは俺だから俺が応えるべき案件なのかもしれないが……。俺は折田を攻略するならどうすべきか考える。折田の好みの女の子を俺は知らない。これまで彼女がいたかどうかも知らない。これは折田に色々聞く必要がありそうだ。


「お兄ちゃんの顔っ、めっちゃタイプッ!」


「うるせえ……」

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