第3話 この詐欺師めっ!
無事、過去問で百点取った俺たちは武先の授業限定で睡眠できる権利をゲットした。そして今は武先との授業である作文の課題を出された。
俺は悩みながらもとりあえず何かかき上げることにし、一年の頃を思い出す。
作文── 一年生の頃の思い出。
青春とは虚構に少しの真実を混ぜたモノである。彼らは知らない。さも自分達は青春してると感じている中に嘘が紛れていることに。彼女らは周囲の環境、状況に応じて、言葉を選び態度を変える。彼らは恋をすると友情を捨て、悪魔にも魔王にもなる。これまでの現実は一つのことでひっくり返ることをまだ知らない。それは世界の見え方、捉え方すらも変えてしまうこともある。彼女は綺麗だった。あの笑った顔、照れた顔、怒った顔、不満そうな顔、そしてつまらなそうな顔。その中から切り取った一部が真の真実だった。現実は非情だ。イベントもトラブルも部活も恋もなにかの嘘の中に存在する。流した汗も交わした笑顔もただの偽物に過ぎない。勘違いに勘違いを重ね青春は積みあがっていく……。つまりなにが言いたいかというと、青春? なにそれ美味しいの? 青春野郎どものクソッタレ。
二年B組青木春斗
こんな作文を書いたら担任の武先に職員室まで連行された。自分の席に座る武先は頭を抱えてる。
「俺が呼んだのは、青木兄のほうだけだが?」
「お兄ちゃんが心配で……ここは妹として兄が怒られるところをしっかり見ておこうかと」
俺の後ろから顔を出した優女がそんなことを言う。
いや、見ておくだけじゃなくて助けろよっ。
武先は先程教室で読んでいた俺の作文をもう一度読み直しため息を吐く。
「まあいい。それで青木兄? どうなったらこんな悲しい作文を書けるんだ……」
「先日、自信満々で恵奈に告白したらあっさり振られたからです」
だからこの作文は俺の気持ちを表している。
というか基本恵奈の事しか学校じゃ考えていなかったためこんな作文しか思いつかなかった。
「お、おう、そうか……なるほど……そうか……泉に振られたか……って、振られた? お前が? 泉に?」
武先はすごく意外そうな顔で驚く。
それは驚くだろう。
武先は俺と泉の仲の良さを知っているから。
一年生の頃から武先には目をかけて貰っていた。
だから俺達が恋人になれなかったことがとても意外なのだろう。
俺の恵奈に対する気持ちは武先も知るところだった。
時にアドバイスをくれ、応援してくれた。
だから武先には申し訳ない。
「はい、武先には応援してもらったのに申し訳ない……」
「いや、それはいいんだ、気にするな……それにしても、だからこの作文か……痛いほど気持ちが伝わってくるから俺も困る」
「でしょうね? なんなら書き直しましょうか? 俺の夢の青春を……」
俺は努めて笑顔を作る。それを見て武先は首を振った。
「いや、読んだら空しくなりそうだ……作文の件はもういい、俺が諦める」
「そうですか……ありがとうございます」
いつになく武先が優しい。筋肉質でごつごつした武先が優しいとキュンとくる。
「武先が優しい……明日は雨だね」
「怒るぞ青木妹、お前にも言いたいことがある……作文の内容がほとんど食べたデザートの事しか書いてないじゃないか」
武先が俺に優女の書いた作文を手渡してきたのでそれを受け取り読んでみた。
ふむふむなるほど……。
「武先、勘違いしてますよ」
「勘違い?」
「この優女が書いてるデザートの名前、人に置き換えられます」
「なに?」
改めて武先が読み直すと再び頭を抱えた。
「青木妹……これはどういう意図だ?」
質問され「えっへん」と胸を張り武先の前に出た優女は説明した。
「あまり個人名を出すとよろしくないと考えた為、超高等テク暗喩を使って見ました!」
「今すぐ書き直せ」
即刻武先から優女に命令が下る。
そりゃそうなるだろうな……。
俺も言葉の端々からでようやく気付いたぐらいだ。
他の人が読んだら「コイツなんで高校生活の思い出にデザートしか出てこないんだ?」となるだろう。
「武先をデザートに例えるとしたら……まだ中身が詰まった状態のトゲトゲした栗ですね」
なんで栗? 俺にはキノコに見えるんだが……。キノコもデザートじゃないけど。
「よし、青木妹には特別課題を出してやろう」
武先、キレた。腹いせに特別課題を出す癖、直したほうがいいですよ?
「なんでですか?」
まったく状況をわかってない優女……。
「俺は中身の詰まった人間らしいからな……生徒思いの俺がお前が少しでも賢くなれるよう教育してやる」
「わあ全然嬉しくないですー」
武先が引き出しをごそごそと漁り一枚の問題用紙を取り出した。
どうやらこの人常に何かしらの問題用紙を手元に持ってるらしい。
それを武先が手渡し、不貞腐れながらも素直に優女は受けとった。
こういうとき俺も優女も武先には逆らわない。
大人しく課題を受け取り解いて提出したほうが楽だからだ。
それに出される問題が俺たちにとっては簡単と言うこともある。
「それと……こんなことを聞くのはどうかと思うが……泉とは今後どう付き合っていくつもりなんだ?」
気まずそうに武先が聞いてくるが気にしないで欲しい。
俺はもうとっくに恵奈のことは吹っ切れたんだから。
「特にどうもしませんよ。ただ今後は自分から積極的に関わることをやめるってだけです」
「……そうか。お前がそれでいいならいいんだ」
「気を使わせてすいません」
武先はもうこれ以上は聞かないと態度を切り替えた。
ありがたい。
俺が気を使われることを嫌うことを知っているからこその対応だ。
「それはそうと……お前たちは確かに俺の出した課題の満点を取ったが……」
「「はい?」」
「もしお前らが居眠りしてたら見逃すが、黙って内申点は下げとく」
「「この詐欺師めっ!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます