第5話
「はい神罰」
「ぐぁぁあああーっ!!」
頭が割れるぅ! 額に指が食い込んでるぅ! 頭蓋がギシギシ軋んでるぅ! 脳みそがタプンタプンいっているぅーっ!
「反省は?」
「大変申し訳ございませんでしたぁーっ!」
「ふむ?」
「心より反省しております! 二度とこの様な事がおきないよう、誠心誠意再発防止に努めてまいりますぅーっ!」
「……まあ、善かろう」
破壊神のアイアンクローマジやべぇ! 体持ち上がったもん! 足がブランブランしたもん! なのにビクともしなかったもん!
「全く、妾の伴侶をロリコン扱いとは。妾とゼー君は同い年だというのに」
「ぶっ、ゼー君ってあのジジ……えっ!? 同い年!?」
驚愕の真相パート2!
あの真っ白髭面モッサリジジイと、真っ黒暴力美少女が同い年とか、時空が歪んでるどころの騒ぎじゃねえだろ。概念そのものがバグっちまったのか!?
「当然じゃろう。創造と破壊は表裏一体。ならば創造神が産まれる時、破壊神もまた誕生するのは全世の理じゃ。故に我らは互いの半身であり夫婦でもあるんじゃよ」
産まれた瞬間から、こんな美少女神と許嫁確定とかあのジジイ、ド級の勝ち組じゃねぇか! 妬ましいぃ!
「じゃ、じゃあ何で、あっちはジジ、後期高齢者で、破壊神様はクソガ、若者なのですか?」
「それは世界への影響力の差じゃな。今は妾の破壊よりもゼー君の創造の方がより多くの世界に浸透しておるから、還元される力の量が桁違いなのじゃ。故に、その差がそのまま妾とゼー君の見た目の差に繋がっておるという訳じゃよ」
「は、はぇー……」
分かるような分からんような。
でもまぁ、世界にとっては破壊神の影響が少ない方が健全なのかな。ただのイメージだけど。
「あぁそれと、次にゼー君を笑ったり妾を茶化したりしたら鉄鎚じゃからな。心も読んどるからの」
怖い。
「それで話を戻すが、そなたこそ一体何者なのじゃ。異世界人という事は分かっておるが、どの様な神が管理しておる世界の住人なのじゃ。それに一人の人間をわざわざ異なる世界に転移させるなど聞いたこともないぞ。妾が誕生してより初めての珍事じゃ」
美少女破壊神の初体験とかエッ「鉄鎚?」大変失礼しました。
俺は即座に土下座の体勢をとって鉄鎚判定の取り下げを願い出てから、自分が思い出せる限りの記憶を洗いざらい破壊神に伝えた。
思えば創造神には記憶を一方的に覗かれただけだから、神界に迷い込む寸前までの自分の記憶を今まではっきりとは認識していなかった。
スエットと靴下を身に付けている事から、おそらく自宅に居たんだろうとは思っていたが、何時何分何十秒地球が何回回った時に迷い込んだのかは皆目検討も付かない。
そしてそれは、破壊神に事情を話すべく記憶を総ざらいした今になっても、明確な解答を得る事は叶わなかったのだが。
「ふむ、記憶に少し欠けがあるか……」
俺の自分語りを聞き終えた破壊神は、柳眉をひそめて顎に手を当てながら考え込んでいるようだ。
そんな彼女を横目に、俺も少し考えてみる。
最後の記憶は三が日の最終日。
俺は、神社近くのコンビニでバイトをしていたから、おそらく帰宅は昼過ぎになった筈だ。
毎年の事だが、年末年始はパートのおばちゃんも学生バイトも兎に角出たがらないから、クリスマスから三が日に掛けて、俺は毎日出突っ張りだった。その分時給に色を付けて貰っていたし、ゲッソリとやつれた店長からこっそりとお年玉を貰えていたから不満は少なかったが。
ただ、それと同時に『来年も宜しくね』と嗄れた声で呪詛を吐かれるのが恒例行事となっていたのには心底辟易としていたが。
それはともかく、最後の記憶は一月三日の昼前。
そのコンビニでバイトを始めた日から習慣化した、仕事終わりの参拝を済ませたところまでは記憶がある。
通常時と違って初詣の参拝客でごった返す中、夜勤明けの体を揉みくちゃにされながら小銭を奉納したのだ。忘れようもない。
しかしそうなると、今の部屋着状態とは矛盾する。仕事中は制服だし、普段着は安物のダウンにジーパンにスニーカーが冬の標準装備だからだ。
ということは、記憶は無いけど帰りはしたんだろうなと思う。そして部屋着に着替えてすったもんだが有ったのか無かったのかを経て、この神界に迷い込んだという事か。
うーん、やっぱ確証は持てない。
何せ、俺には家に帰った記憶も着替えた記憶も無いからな。状況からそうなんだろうと推測できても、それが真実だ! とまでは言い切れない。
「「うーん……」」
あらやだハモっちゃった。
「分からぬ!」
「うわっ、びっくりした!?」
「ぜんっぜん分からぬわ! そもそも妾は創造も想像も苦手なんじゃ。専門外じゃ! 大体ゼー君が調べておるなら妾の出る幕など無いではないか! こんなもんゼー君に丸投げが最適解じゃ! やめじゃやめじゃ! やめてやりゃあーっ!」
突然癇癪を起こす破壊神。
文字にすると世界の終わりを幻視しそうだが、実態は地面をゴロゴロと転がっているだけのお子様だ。
威厳ねぇなぁ。何なら年相応ですら無い。何歳かは知らんけど。
「ぬぅ……」
俺の心を読んだのか、ムクッと体を起こした破壊神は、気まずげな様子でスタッと立ちあがりながら俺にジト目を寄越す。
何ですかぁ? 何か反論でもあるんですかぁ? 全然承っておりますよぉー?
「ぐぬぬぬぬ……」
勝った。勝ちましたよ。二度目の全面勝訴でございます! 暴力を抜きにすればクソガキなんてこんなもんですよ!
「ぬぬぬ、というかそなたは気にならぬのか。欠けておるのは自らの記憶だろうに」
おんやぁ? お話をお変えになるん「鉄鎚?」大変失礼しました。
俺は即座に服従を示す。暴力を有りにすればこんなもんですよ(泣)
「え、えっと、記憶の欠けについてですか……」
「うむ。知りたいと思わぬのか? 欠けた記憶がどの様な内容だったのか。そなたの記憶を覗いたというゼー君には問わなかったのか?」
言われてみれば確かに。状況に流されるばかりで、自分から追及しようなどとは一度も思わなかった。
「うーん、まあでも、正直に言うと、わりとどうでも良いかなって」
「どうでも……」
全く気にならないと言えば嘘になる。
だけど今まで生きてきた中で、知りたくてもどうにもならなかった情報なんて幾らでもある。
それは例えば、俺を産んでおきながら即座に捨てた親の事とか。
即座に捨てておきながら、悪ふざけみたいな名前だけは付けた訳とか。
そもそも何で産んだのか、とか。捨てた理由は、とか。預ける親族すら居なかったのか、とか。それすら厭う程俺の存在は邪魔で厄介だったのか、とか。まあ、そんな感じ。
でも、その全てが未解決のまま今日まで生きてきた。
だから今更記憶が少し欠けている程度を気にする繊細さなど、俺はとうに持ち合わせてはいないのだ。
「ふむ。それとこれとは話が違いそうじゃが、嘘では無さそうじゃな」
「本心なんで。言ってみれば慣れですよ、慣れ」
「慣れ、か。成る程のぅ。それが異世界人の感覚か……」
「いや、それは、どうなんだろう……」
地球の皆様御免なさい! 何か異世界の破壊神に変なイメージ植え付けちゃったかも!
皆が転移する際、凄い偏見を前提にとんでもない条件を提示されるかもしれないけど堪忍な!
「えっと、俺からも質問していいですか?」
「む、何じゃ?」
「破壊神はさっき、人間を異世界に転移させるなんて聞いたこともないって言ってたけど、異世界転移って珍しいのかな? 俺の世界では結構メジャーなジャンルになっているんだけど」
主に、ネット小説や漫画やアニメなんかのサブカル界隈で。
「珍しいどころか一度足りとて聞いた事がないのぅ。大体そなたの言うメジャーなジャンルとやらは総じて創作話じゃろうに」
「確かに……。いやでもでも、創造神は数多の世界を管理しているんだよね? それならその世界間で異世界召喚とか、転移とか転生とか全く起きないのか?」
「ん? それなら稀に良く有るぞ」
「ん? 稀に良く……? で、でも今、破壊神は聞いた事も無いって……」
「「は?」」
いや、ハモんなや。支離滅裂なのはアンタの方やろがい。
「ん? あ、あぁ、そういう事か。そなたは勘違いしておるぞ」
「勘違い?」
「うむ。妾の言う異世界とは、ゼー君と妾が関与していない世界の事じゃ」
「えっと、それはどういう……」
「そも、ゼー君が管理する世界ならば異世界とは言わぬ。共通の理が支配しているのじゃから、平行世界や隣接世界、上位下位といった位置付けはされても、異なる世界とはならぬのじゃ。しかしそなたの記憶にある世界はゼー君が管理するどの世界とも違う。理さえも、のぅ。故に、そなたからは妾とゼー君の世界の匂いが全くせぬのじゃ。正しく、異なる世界の人間、という事じゃな」
「はぇー……」
としか言いようがないな。って、待てよ。じゃあマジで俺が異世界転移……迷子? 者の先駆けって事なのか。だとすると、数多のテンプレ的思考が通用しない可能性が!?
チラッ。
「フフッ、それはどうかのぅ……」
意味深! 俺の心を読んだ上でのその解答。一体どっちだ! どっちなんだ!? テンプレは有りなのか無しなのか!?
チラッ。
「フフフフフフ……」
勿体振っちゃって! 何だよ教えてくれないのかよ!
もしかして、禁則事項って奴なのか。もしくは調査を終えたジジイが戻ってくるまでは絶対厳守とか。
チラッ。
「ぐっふっふっふっふ……」
解答は白紙か。
いや、むっちゃムカつく笑みを浮かべてはいるけども。
白紙よりも破り捨てたくなる腹立つ解答だけれども。
それでも! 知らねばならない事がある。
こればかりは、絶対に問わねばならないのだ!
という気持ちを読み取って先に答えてくれても俺は一向に構わないけどね!
チラッ。
「ニコッ……」
無慈悲極まりない態度だなオイ。可愛さ余って憎さ百兆倍だわ。顔面にグーパンかましたろか!
「ふぅ……」
俺は即座に破壊神から視線を切って深呼吸。どうやら忖度は為されなかったようだ。
格下の気持ちを慮る事もできないなんて所詮はクソガキだな。……なーんて全然思ってませんけどね! お話にお付き合い頂き誠に感謝しておりますよーだ、糞がッ!
これじゃあ埒が明かねえな。覚悟を決めてさっさと聞くしかねぇか!
俺は下っ腹に力を込めて、不退転の覚悟を魂に刻み込み言葉を放つ。
「は、破壊神様! 俺はっ……俺はチートを貰えるんですか!?」
なんなら地球への帰還よりも重要事項だろコレ。
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