3
「おお、返事がきたか」
翌朝、庭の
そしてさっそく封を切ると、そこには俺の言葉使いに対しての賞賛が綴られていた。
「なんと無邪気な人だろう」
子供のように素直な言葉から、彼女の人柄がうかがえた。
「こんなに素晴らしい人がいるなんて」
俺は興奮のあまり、手紙にキスをする。
本当なら本人にしたいのだが、会うのはまだ早い気がした。
「今のままではダメだ。彼女の心を完全に落としてからじゃないと……」
手紙の様子から、好感は持ってくれたようだが、恋心には程遠い気がした。
それから俺は、毎日庭に手紙を置くようになった。
彼女がどれだけ恋しいかを書けば、彼女も感謝の手紙をくれた。
最初は恋心を抱いているのは俺だけだったが、次第に彼女の態度も軟化しているようだった。
これはそろそろ会うしかないだろう。
次の舞踏会は約半月後だ。その時に、彼女の目を見ながら思いを伝える決意をした。
***
「いったい、どんな人なんだろう」
名無しでの手紙のやりとりで、俺——テノン王子は、どんどん彼女を好きになっていることがわかった。
彼女が綴る愛の言葉は、まるで終わりのない水底のようだった。
いくらでも溢れ出る言葉に、溺れてしまいそうだった。
「会いたい、むしょうに会いたい!」
そして決めた。次の舞踏会で彼女に求婚することを。
***
舞踏会当日。
俺——ウンギ王子は見た目に気を遣いながら舞踏会に参戦した。
この日のために作法も踊りも完璧に仕上げた。これならきっと、彼女も喜んでくれるに違いない。
俺には自信があった。
手紙を見ればわかった。
最初はさっぱりとした印象だった彼女だが、言葉を交わすにつれて少しずつ気持ちがこちらにあることが伝わってきた。
だから今日はもう、俺の親に紹介するつもりで挑んでいた。
だが……。
「おかしいな。彼女はどこだ?」
一向に現れない彼女を探すうち——俺は弟のテノンに遭遇する。
「彼女はどこにいるんだろう……て、あれ? ウンギ兄さん、こんなところで何してるの?」
「テノン。お前こそ、この場にいるのは珍しいな。いつも仮病でいなくなるくせに」
「今日は特別なんだ。あ、そうだ! あとで俺の彼女を紹介するね」
「子供だと思っていたお前にも、ようやくそんな人ができたのか」
「うん。会ったことないけど、綺麗な人だよ。たぶん」
「俺も会わせたい人がいる」
「え? あんなに女を目の敵にしてた兄さんにも、ようやく恋人ができたの?」
「女を目の敵にした覚えはないが——そういうことだ」
「それってどんな人?」
「とても美しい髪と肌をしていた」
「へぇ、そうなんだ。なんていう名前なの?」
「名前は知らん」
「は?」
「お前こそ、相手は誰だ? 隣国の王女か?」
「知らない」
「は?」
「でも今日わかると思うから、あとで教えてあげる」
「そうか」
ご機嫌な俺たちは、それから恋人を探すため別々に行動した。
……が、
その日は結局、俺もテノンも恋人に会うことはできなかった。
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