俺はバンチャン王国の第四王子、テノン。


 女性が裸足で逃げ出すほどの美貌を兼ね備えた俺だが、奥手なあまり女性とほとんど喋ったことがなかった。


 だがそれでも王子の仕事はしないといけないので、舞踏会に参戦したわけだが……庭で休憩していたらうっかりハンカチを落としてしまった。


 母がくれた大事なハンカチだった。


 俺は泣きそうになりながらハンカチを探した。すると、嬉しいことにそれはすぐに見つかった。


 美しい母が刺繍したアマリリスのハンカチ。


 幼い頃の思い出が詰まった大事なハンカチなので、見つかって本当に良かった。


 だが……。


「なんだこれ? 手紙?」


 俺はハンカチと一緒に置かれていた手紙を拾いあげる。


 宛名は『ハンカチの君へ』と書かれていた。


「ハンカチの君って、俺のことだよね?」


 アマリリスのハンカチを城に持ち帰った俺は、さっそく自室で封を切った。


 すると、便箋には俺という美への賞賛がしたためられていた。


「……なんて素敵な恋文だろう。美しい言葉ばかりで、自分の美に酔ってしまいそうだ」


 あまりにも洗練された言葉使いに感動した俺は、返事を書くことを決めた。


「でも相手がどんな人かもわからないし……いきなりOKするわけにもいかないな……とりあえず喜びと感謝の言葉を綴ろうか」


 俺はあまり手紙というものが得意ではないけれど、手紙の彼女に対して素直な気持ちを綴った。


「よし、これで彼女も喜んでくれるかな?」


 俺は半刻はんときほどで書いた手紙を、庭に置いた。


 恥ずかしがり屋なのか、手紙には差出人の名前がなかったので、俺もあえて名前を書かずに置いた。


 自分だけ名前を書くなんて、無粋な気がしたのだ。


 そして手紙を置いたあと、これ以上もなく胸を弾ませながら自室に向かったのだった。


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