#3デート後のルーティーン

 部屋は分厚いガラスの窓付き扉で閉められている。それは防音には必要なものであり、むしろここがカラオケ屋であることを強調している。狭いテーブルにはデンモクが置かれていて、L字の椅子が囲むように置かれている。テレビ台の上にはマイクが二本置いてあり、紅路はマイクにかかっているビニールの袋を外してテーブルの上に移す。デンモクはタッチ式で、紅路はお気に入りのアーティストの曲を入れて大きな声で歌う。それはとても大きな音で、廊下の奥の奥にあるトイレにまで響いてくる。あまりに大きいので店員に注意されることも度々あるのだが、そのたびに店を変えている。だから彼は七軒ほど店をストックしていて、数ヶ月の周期でローテーションする。今回の店はその七軒の中で一番のお気に入りで、安くてそれほど混んでもいない。彼はとにかく長く、とてもながーく歌いたいのだ。喉が枯れようが構わず、何曲も何曲も歌う。何かを発散したいということでもなく、とにかく歌う。ひょっとしたら、何かを生み出したいから歌うのかもしれない。


 彼はデートの後は必ずカラオケにきてこのように歌い、汗でワックスが溶けて髪が崩れた状態で店から出てくる。それは夜の十時くらいのときもあれば、夜中の三時くらいのときもある。夕方には別れて、必ずカラオケに行く。以前何度かホテルに誘われたこともあったが、必ず断っている。セックスがしたくないというわけではないのだが、夕方以降誰かと過ごすことを極端に嫌がる。どうしても交わりたいときは、ランチの後にしている。それは場所を問わず、ホテルはもちろん公衆トイレやネットカフェなんかですることもある。だからこそ彼は行為中声を出さないことの方が多く、むしろ静かにすることを好んでいる。特にフェラチオが好きで、今まで作った彼女には必ず教え込んでいる。勃起したペニスに吐息を何回か吹きかけてもらい、そのあと先端を乾いた舌で刺激させる。舌が性器に触れている間に唾液を口の奥に溜めさせて、しばらくしてから舌を濡らさせ、今度はその舌で舐めさせる。ペニスに唾液が馴染ませたら咥えさせて、むせながら涙を流す恋人の顔を楽しむのだ。もちろん相手は嫌がることがほとんどだが、彼はその度に無理やり従わせようとして、できないようなら捨てている。そのせいでいままで七人中四人が捨てられて、二人が従い一人はまだ肉体関係になっていない。


 生身の女性を相手にしたい彼はここ二ヶ月の間、カラオケの後は毎回風俗に行く。安いところに行くので四十代から五十代くらいの女性を相手にすることが多いが、彼は構わず乱暴に扱い、自分の性欲を発散すると服を着てお金だけ払い店を出る。すると帰ってくるのは明け方になりやすいので、シャワーを浴び髪の毛をセットしたあと朝食を食べて一限の講義を受けるために大学へ行くことにしている。


 五時間程度大声で歌い終わると、渋い顔をした店員にお金を払い店を出た。JRの駅の方へ向かって歩き、コンビニで売れ残った昆布のおにぎりとチキンを買って食べたあと風俗街に入る。そして適当な店を見つけて性欲を満たし、今日も家へと帰っていく。

 

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