第6話 クズの才能
「というわけで、この件はあたしと雨奈の間では済んだことなの。だから、節操無しに誰とでもエッチするヨルっちは気にしないでね」
「言い方に棘があるな」
「まっ、そういうことだから。良かったね、両手に花で獣のように盛りたい放題できるよ?」
ニコッと笑顔のまま後ろを振り返るサヤ。
会話一つ一つに棘があり、このままの流れで話を続けていたら一生こんな感じで話されると思ったので、とりあえずキスをして口を塞いだ。
「んっ、ふぅ……あ、むっ、ちゅ。……とりあえず、キスして黙らせようと。なるほどなるほど、高一にしてクズ男の階段を登り始めたね」
「嫌なら拒めんでもいいぞ? それに、これからは俺と関わらないことだってできる」
クズ野郎だなんて言われなくてもわかってる。
高校生活に何の楽しみも見出せず、ただただ毎日を浪費していく中で、人間の三大欲求である食欲と睡眠欲と性欲しか楽しみがない。
なので、雨奈とサヤが夜斗を嫌いになるのは自由だ。それを止める権利はない。
ただ二人も夜斗と同じく他にやりたいこともないので、これをきっかけに夜斗から離れることはないだろう。
「女を泣かせる男は地獄に落ちればいい」
そう言いながらも、今度はサヤからキスされる。
初めてしたときとは違って舌を絡めたキス。
色っぽい吐息が漏れ、夜斗を求めるように体を触る手も大人びた気がする。
「一緒に落ちるか?」
「なんであたしが。むしろ、背中から蹴って落としてあげよっか」
「それは嫌だな」
「あんっ……胸、揉むな。雨奈といっぱいしてきたんでしょ」
「したけど、つい。サヤのキスがエロくて」
「なにそれ。あっ、そういえば雨奈にキスの仕方教えてもらったの。どう、上手くなったでしょ」
「少しな。教えてもらったのはキスだけか?」
そう聞くと、サヤは首を傾げる。
「んー、エッチのテクについても教えてもらった気がする。知りたい? 体験したい?」
「ああ、もちろん」
「でも、隣まだ営業中だからなあ」
サヤは焦らすように考える素振りを見せる。
まるで子供のように頭を左右に振る感じ、口にはしないが今は機嫌がいい状態なのだろう。
一見するとクールな感じに見えるサヤだが、意外とわかりやすい性格をしているのを最近知った。
「エッチしたい?」
「ああ」
「えー、どうしよっかなー」
これはおそらく、強引に迫ってくるのを待っているのだろうか。
夜斗はそう思いサヤを抱き寄せる。
「あんっ……へえ、ほお、我慢できないんだあ」
と、誘いに乗ったことでご満悦のサヤ。
仕方ないなーと言いながらも、彼女は熱を帯びた顔をこちらへと近付ける。
だが、
「ちょっと二人とも」
そこで勢いよく扉を開けられた。
後ろから夜斗に抱きしめられメス顔を晒していた妹を見て、兄のシュウは固まったまま「ごめん」と、彼らしくない小さな声で謝った。
「あー、後にするわね。じゃあ」
「ちょ、ちょっと、何もないから!」
「いやだって、妹のそんな顔初めて見ちゃったから、なんか気まずくて」
「違うの! た、ただ、話してただけ。で、何!? 何!?」
慌てて立ち上がったサヤが休憩室の中を駆け回る。
実の兄に見られたのが恥ずかしかったのだろう。また新たな一面を見れて、夜斗は満足気に笑う。
「二人とも服は……まだ着てるわね。じゃあちょっとこっち来てもらっていい? 」
「着てるよ、当たり前でしょ!」
「そう、これからだったのね」
「お姉!」
ぷんぷん膨れっ面のサヤに付いて行く。
二人のやり取りを聞いていた客たちも茶化すが、その全てに「うるさい!」と吐き散らす。
「夜斗くん、ここ座って」
「はい」
案内されたのはカウンター席だ。
サヤは客たちに弄られているので、一人席に座っているとシュウに声をかけられた。
「はい、コーラ。悪いわね、お楽しみ中に」
「ありがとうございます。いえ、別に」
「でも聞いたわよ、他の女の子とも関係持ったんだって? 無口な感じだけど、意外と獣なのね」
「いや、えっと、なんかすみません」
「ん? どうして謝るの? 別に学生の男女の関係なんて好きにしたらいいのよ」
よくも妹を泣かせて、とまでは言われないものの小言を言われると思ったが、意外と放任主義らしい。
「わたしが学生の頃なんてもっとたくさんいたもの」
「いたって?」
「セフレ。同じ学年に数人と、先輩に後輩、それに仕事関係の子」
「えっ、そうなんですか?」
「わたしが学生の頃にモデルの仕事をしていたこと、あの子から聞いた?」
「いえ、初耳です。でも、そうですよね」
整った顔付きにスラッとした高身長の体型。
モデルでなくとも、そっちの人だとは思っていた。
「当時は今ほど落ち着いてなかったから、やりたい放題でね。あの頃が一番楽しかったかもしれないわね」
「でも、そんなにいたら修羅場になったりとかしなかったんですか?」
「もちろんしたわよ。そのたびに一緒に相手して黙らせたわ」
「は、はあ……」
格の違いを思い知らされた。
そう思ったが、さっき自分もサヤのことキスで黙らせようとしたので、夜斗にもその才能があるのかもしれない。
「そうやって学生時代に遊びまくったお陰で、大人になってから落ち着けたのかもね。だからわたしはいいと思うわよ、学生の間は好きに遊んで」
「なるほど」
「ただ、一線は越えるんじゃないわよ? もしその線を越えたら責任云々が発生するから。……言いたいこと、わかるでしょ?」
鋭い視線が夜斗を貫き、コクコクと頷く。
「わかってるならいいと思うわ。それに男って、モテないよりモテる方が魅力的だもの。妹が男を見る目あって良かったわ。ねえ?」
そこで、サヤが客との戦いを終えて戻ってきた。
どうやら納得させた、というよりも諦めて逃げてきたらしい。
「──良くないよ、まったく。まだ高一の一学期なんだよ? このペースだと、卒業する頃には学年の女子全員と関係持ってるよ、絶対」
「それぐらいクズの方が清々しくていいじゃない。もしそうなったら、古参アピできるわよ?」
「こんなことアピールしたくないよ。それで、あたしたちを呼んだ理由ってなに?」
そう聞くと、シュウは二人を呼んだ理由を話す。
「ねえ、二人とも。海の家で一週間、バイトしない?」
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