第2話 繋がった二人
それからあっという間に時は過ぎ、終業式。
優枝はクラスメイトに誘われ、制服のままどこかへ遊びに行った。
「お昼ご飯は自分でなんとかして」
なので夜斗は家に帰らず、とある場所へ向かった。
とある場所といっても、夜斗が気楽に行ける場所なんて二つしかないが。
「あっ、いらっしゃい! 入って入って!」
玄関の扉を開けると、まだ制服姿の雨奈が出迎えてくれた。
いつも通り夜斗の前では上機嫌な彼女。
最近は前のように『毎日、家に来て!』とは言わなくなった。それはおそらく、サヤと仲良くなって二人が一緒にいることが増えたからだろう。
そんな雨奈とサヤ、どちらとも体の関係を持つ夜斗。
数日ほど前、雨奈の家に行ったとき彼女に言われた──。
『夜斗くん、サヤちゃんとエッチなことしたんだよね?』
いきなりのことで驚いたが、特に隠さないといけないわけでもないので夜斗は素直に頷いて答えた。
『サヤちゃんから聞いてビックリしちゃった。あっ、サヤちゃんには、わたしと夜斗くんもエッチなことする関係だって言ってないから安心してね』
もしも夜斗とサヤが付き合っているのなら、雨奈との関係は浮気に当たる。そのことを知らずに雨奈がサヤに話したら修羅場だ。
そう思ったから、雨奈はこのことを友達であるサヤに隠したのだろう。
愛人属性の彼女ならではの判断といえた。
とはいえ、別に隠すことでもないので『別に話してもいいぞ?』と言うと、雨奈は驚きながら『いいの? うーん、怒られないかな、大丈夫かなあ?』と悩んでいた。
だが、それから数日後。
『サヤちゃんに話したよ! 怒られるかなって思ったけど大丈夫だった!』
と、雨奈からホッとしたのであろう内容の報告を受けた。
その報告から数時間後にはサヤからメッセージが届いた。
『ほんと節操ないね』
普段からサヤのメッセージは短く、顔文字も絵文字もないので、文面から怒っているのかどうかわからなかった。
すると、返信する間もなく続けてメッセージが届く。
『まあ、雨奈なら許す。他は許さない』
そう言われた。
次の日、学校で会ったときには『脳みそ下半身!』と面と向かって言われたが、彼女は笑っていたのでおそらく怒ってはいないのだろう。
もちろんそれは内に隠しているものがわからないでの判断だが。
──そんなこんながあって、雨奈とサヤはその日から急激に仲良くなった。
クラスメイトが『なんであの二人、急に仲良くなったの?』という疑問を持つ理由には、夜斗という節操無しの男の存在があった。
仲良くなった裏でどんな修羅場の話し合いが二人の間で起きていたかを夜斗は知らない。
二人からどんな会話をしたかも聞いていない。聞いても『別に女の子にとっては普通の会話だよ』しか教えてもらえなかった。
夜斗が知っているのは、二人から届いた”事後報告”のメッセージの文面だけだ…──。
「夜斗くん、もう少しでご飯できるから待っててね!」
そして、今に戻る。
手を引かれてリビングのイスに座らされる。
料理の途中らしく、キッチンで料理を続ける雨奈に言われた。
「急に家に来てくれるってメッセージ来てビックリしちゃった!」
「迷惑だったか?」
「ううん、迷惑じゃないよ。でも、できれば前日に言ってほしいかな。終業式終わってじゃなくて」
終業式が終わって一学期最後のホームルーム。
夜斗は『飯食いに行っていいか?』と雨奈にメッセージを送った。
優枝が昼ご飯を用意していないのを終業式中に思い出したからだ。
急な頼みなのでダメもとで、もし無理ならコンビニにでも行こうと思っていたが、雨奈は『いいよ、来て来て!』とすぐ返事をくれた。
「前の日に言ってくれたら、もっとご馳走用意できたのに。こんなものしかなくてごめんね」
謝りながら出されたのは器一杯のそうめんだった。
他にも何点か料理が並べられた。昨日の残り物かもしれないが、テーブルに並べてあった料理は「こんなもの」というレベルではない。
「数時間前に言ってこんだけ出してもらえたら最高だな。ありがとう」
「えへへ、そう言ってもらえて良かったです。じゃあ」
全ての料理を置き終わった雨奈は、夜斗の前に顔を近付ける。
「頑張ったら、ご褒美?」
顔を近付けキスをすると、雨奈は弾んだ声を漏らしながら舌を絡める。
彼女の手が物欲しそうに夜斗の体を撫でるが、少ししたら顔を離した。
「ご褒美、嬉しい。えへへ。サヤちゃんにも、こんな風にご褒美あげてるの?」
「あいつは何も言わなくてもしてくるな」
「へえ、サヤちゃんらしい。じゃあ、いただきます!」
カミングアウトしてから、雨奈もサヤも会話のどこかで互いのことをそれとなく聞いてくるようになった。
『サヤちゃんと最近、いつエッチしたの?』
『雨奈とするときさ、何回ぐらいすんの?』
この会話に答えても、二人の機嫌が悪くなったりはしない。
そもそもこの会話に何の意味があるというのか。普通は他の女の話しなんて聞きたくもない気がする。
特に、夜斗に恋愛対象を抱いている雨奈ならなおさらだ。
だが、雨奈は事あるごとにサヤの話題を出してくる。
『節操無しの夜斗くんなんか嫌い!』
と好意は無くなったのかとも思われたがそんなこともなく、むしろ『夜斗くん、好き!』と前より言われるようになった。
最近は頭上にいくつもの疑問符を浮かべることが多くなった。
これが女心だと言うのなら、ダメダメな夜斗ごときにわかるわけがない。
なので夜斗は気にするのを止めた。気にしなければ、何も知らないフリをしていれば、このままの関係でいられるから。
「そういえば、見たよ」
「何をだ?」
「期末試験の結果。夜斗くん、学年で下から三番目だったね!」
「ああ、あれか。ああいうのって普通、上の奴だけ貼られるとかじゃないのか?」
「そういう学校もあると思うけど、うちは違ったね。それで追試は大丈夫そう?」
「なんとかなるだろ」
「なるのかなあ? わたしは人に勉強を教えられる順位じゃないからあれだけど、このお家使って勉強してもいいからね?」
「それ、本当に勉強が目的か?」
そう問いかけると、雨奈はにっこりと微笑む。
「もちろん! だけど、勉強が終わったらご褒美。なんなら勉強しないでご褒美でもいいよ?」
「その誘いに乗ったら、マジで留年しそうだな」
「エッチばっかしてってこと? わたしは嬉しいけど、留年は絶対にダメだからほどほどにしないとね。じゃないと、夏休みの予定が決められないもん」
雨奈は日付の入ったメモ帳を手に持つ。
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