第26話 高校生は退屈だ、セックスしか楽しみがない。




 日に日に、雨奈という底なし沼に自分が浸かっていっている自覚はあった。


 おっとりした雰囲気に色気のある顔付き、男を興奮させる肉付きのいい身体。

 何も言わなくても気を使ってしてくれる気配りの良さに、料理も上手い。

 高校一年生にしてこれほどまで完璧な女性は他にいないだろう。


 もし、誰とでもするという噂がなければ、おそらくクラスでも人気があったはずだ。


 それに──。




「夜斗くん、出しすぎだよ」




 唇に付いた白濁液を指で拭うと、一切の躊躇いもなく舌で舐める。


 従順で献身的な性格。

 それが雨奈を形成する全てといえるが、下の世話ではその部分がより強く出てくる。




「それに濃い。まだ喉に残ってる気がするもん」


「口から離せば良かっただろ」


「やだよ、もったいない。それに夜斗くん、ティッシュに出すより口に出した方が好きでしょ?」


「まあ」


「だからしてあげたの。それにイヤとかじゃないからね? 嬉しくて、出しすぎって言ったの」




 えへへ、と微笑む雨奈。

 猫のように頬擦りする彼女。

 隠そうとしない愛情を全力で向けられて、嫌な気になる男なんていない。


 この居心地の良さは、男を駄目にする……。




「お風呂、沸かしてくるね」


「ん」




 立ち上がろうとした雨奈を抱き寄せる。

 倒れるように覆いかぶさった雨奈は「びっくりしたー」と、少し嬉しそうな声を出した。




「夜斗くん、どうしたの?」


「したくなった」


「えっ、ダメだよ、お風呂に入らないと。この後も予定あるから」


「予定?」


「えっと、夜斗くんに見せたいモノがあって……。だからね、お風呂……入らない、と」




 そう言いながらも、夜斗へ向ける雨奈の表情や瞳は何かを求めているようだった。

 とんだ小悪魔だと夜斗は笑い、彼女の一切抵抗しない身体を押し倒す。

 乱れた髪に、微かに汗ばんだ肌。雨奈は足の裏で絨毯を擦りながら、ちらっちらっとこちらを見る。




「我慢できないの?」


「お前は?」


「もう、わたしが聞いてるのに」


「で?」


「……わたしも、本当は続きしたかったよ」


「じゃあいいだろ」


「うん、して……っ! だって今日は、いっぱい時間あるから。でも、空っぽにしちゃダメだよ?」




 首を傾げながら笑った雨奈。

 まだ家に来て一時間ほどだというのにこの調子だと、寝るのはいつになるのか。それに、夜斗の体は保つのか。

 まあ、やりたい盛りの男子に自制という言葉はない。












 ♦










「えへへ、幸せ」




 一勝負を終えて無事にお風呂タイムに入れた二人。

 小さな湯船に浸かった夜斗の前で体育座りする雨奈は上機嫌だ。




「それ、何度も聞いたぞ」


「だって幸せなんだもん。でも、ちょっとお風呂小さいね。夜斗くんが入ったら、お湯半分近く無くなっちゃった」


「だな」




 どこを触っても柔らかい雨奈の体。

 二人で一緒に入るのは狭いので長居はできないが、もう少しこうしていよう。




「夜斗くんって、えっち好きだよね」


「いきなりだな。ってか、嫌いな男なんているのか?」


「それもそうだけど、夜斗くんはとくに好きだなーって」


「まあ、そうだな。他にやりたいことでもあったら違ったかもな」




 自分でも、高校生になってからセックスしかしていないと思った。

 それは雨奈相手だけでなく、優枝相手でもそうだ。

 他にすることがないから、時間の使い方が自然とそうなっているともいえる。




「やりたいこと、見つからないの?」




 以前、雨奈に都会へ引っ越した目的を話した。

 田舎でできないこと、自分のやりたいことを見つける為に都会へ来た。




「なにも。毎日毎日、意味があるのかわからん学校の行き来だけだ」




 優枝のように将来の夢がある者が羨ましいと思う。

 とはいえ、何も行動を起こさないくせにやりたいことが見つかるほど人生甘くない。


 今は、ただ怠惰な人生を送っている。

 変わるきっかけがどこかから降ってこないかと、他人任せの我が儘なガキだと自分でも思う。

 それでも、やりたいことがわからないから、どう探せばいいのかわからない。結果、毎日毎日、ただ時間だけを浪費して生きてしまっている。




「じゃあさ。夏休み、どっか行かない……?」


「夏休み?」




 そういえば、来月の7月末から夏休みだった。

 学校が休めるとはいえやりたいこともなかったので、そこまで待ち望んでいたわけではなかった。

 だから忘れていた。




「夏休みか。ああ、いいぞ」


「えっ、ほんと!?」




 勢いよく振り返った雨奈。

 湯船のお湯が勢いよく横揺れして流れてしまった。




「なんでそんなに驚くんだよ」


「だ、だって、断られると思ったから……」


「なんで断るんだよ。俺に夏休みの予定があると思ってんのか?」


「それは、うーん」


「愛想笑いは傷付くぞ」


「えへへ、ごめんね。だけど、わたしなんかと遊んでくれると思わなかったから」




 自分に自信が無いのだろう。

 わたしなんか、わたしなんかと、雨奈はよく口にする。

 そんな彼女を不安にさせないように抱きしめる。




「自分が思っているより、俺はお前との時間を楽しんでんだ。あんま自分自身を蔑むなよ」


「夜斗くん……。嬉しい」


「それに、お前とのセックスは気持ちいいしな」


「あー! 結局そこなの!?」




 頬を膨らませた雨奈。

 嫌がっているようには見えないので満更でもないようだ。




「駄目か?」


「ダメじゃない。少し複雑だけど、気持ちいいって言ってくれるのは嬉しい」


「ちょろいな」


「もう!」




 雨奈は「そうですよ、少し褒められただけで喜んじゃうちょろい女の子ですよーだ!」と文句を言いながら湯船を出て行く。

 お互いにお風呂場から出ると、雨奈は体を拭きながら、




「ちょろい女の子は褒められるのが好きなの。褒めてくれたら喜ぶの。だから」




 何か言いたいかわからず首を傾げると、雨奈は「ちょっと待ってて」と先に洗面所を出る。しかも裸のまま。

 夜斗は言われた通り待っていると「来ていいよ!」と声がした。

 リビングに戻ると、雨奈はもじもじと体をくねらせていた。




「ほお」


「ど、どうかな……。夜斗くん、こういう格好、好き?」

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