第25話 腹パン
あまり料理しない夜斗にだって、どの料理がどれぐらいの手間ひまがかかっているかはなんとなくわかる。
「じゃあ、食べよっか!」
どんだけ料理が出てくるんだ?
と、驚きながら待っているとやっと止まった。
お店でも出されたことのない品数に、夜斗は内心困惑していた。
「これ、二人分か……?」
「うん! もしかして、足りなかった?」
「いや」
雨奈は夜斗のことを大食い選手か何かと勘違いしているのだろうか。
確かに一般男子高校生よりかは食べる方だが、この数で足りないということはない。十分過ぎる、いや、多すぎる……。
「あ、ありがとう。じゃあ」
「うん、いただきます!」
せっかく作ってもらったのに多いなんて言えない。
夜斗は覚悟を決めて、目の前の大量の手料理たちに挑んでいく。
…………。
……。
自分でも驚いている。
こんなにも大食いだったことに。
「ご、ごちそうさま」
「うわあ、全部食べてくれた!」
朝昼晩を一度に食べたかのようだった。
微かに膨らんだお腹を撫でながら天井を見つめる。
「雨奈って、料理上手いんだな」
「うん、いっつも自炊してるから。夜斗くんはあんまり料理とかしない?」
「まあ、たまにだな」
「そうなんだ。お腹空いたら、いつでも家に来てね! 今日よりもっと頑張るから!」
「あ、ああ」
なんとなく、次は今回の倍の料理を出されるような気がした。
とはいえ、雨奈の作ってくれた料理を残すことなく全て食べ終えられて良かった。
せっかく作ってもらったのに残したら申し訳ない。
「じゃあ」
雨奈は立ち上がる。
夜斗はお腹一杯で動けないので、なんとなく彼女の動きを目で追っていた。
キッチンへ向かい、冷蔵庫から何かを取り出す。
白いクリームでコーティングされたそれを見て、異常なほど汗がふき出した。
あれはまさしく、食後のデザートであるケーキだった。しかも三角じゃない、丸いホールケーキだ。
「夜斗くんのために、ケーキ作ってみたの!」
イチゴがふんだんに使われたホールケーキは、お店で出せるレベルのものだった。
甘いものもショートケーキも好きなので嬉しかった。お腹一杯の状態でなければ、心の底から喜べたと思う。
「もしかして、ケーキ嫌い……?」
「え」
顔に出ていたのか、雨奈が不安そうに見つめてくる。
「いや、好きだ。ありがとう」
「ほんと? 良かった。ケーキ作るのは初めてだから、上手くできてたらいいな」
食べるしかないだろう。
夜斗は気合を入れて、わんぱく小僧のようにフォークを強く握る。
…………。
……。
三割食べて限界だった。
「残りは後で貰おうかな」
「うん、わかったよ! お腹一杯?」
無言で頷くと、雨奈は不安そうな表情で首を傾げる。
「もしかして夜斗くん、ケーキ食べる前に限界だった?」
「……」
「やっぱり! 言ってくれたら良かったのに」
「いや、せっかく作ってくれたのにお腹一杯だから食えないとは言えないだろ」
そう言うと、雨奈は頬を赤く染めながらはにかむ。
「夜斗くんって、本当に優しいね」
「別に普通だろ」
「それが普通じゃないんだけどなあ。夜斗くんはあれだ、女の子を喜ばせる天性の才能があるのかも」
「なんだそれ」
「えへへ。お腹、苦しい?」
頷くと、雨奈は「残りはお腹が空いたらね」と冷蔵庫にケーキを戻す。
「夜斗くん、隣行っていい?」
「ああ」
座椅子に座りながら足を伸ばしていると、雨奈が隣に座る。
先程まで食べていたケーキに似た甘ったるい香水。雨奈お気に入りの香水の匂いが鼻孔をくすぐる。
隣に座った彼女は、自然と夜斗のお腹に手を当てる。
「あっ、すっごく大きくなってる」
「作ってくれた料理とケーキが全部入ってるからな」
「だね。妊婦さんみたい」
「それは言い過ぎだろ。ってか、お前はあんま食べなかったよな?」
「え……だって、あんまり食べ過ぎたら夜斗くんみたいになるから」
「ん?」
「脱いだとき、お腹ぽっこりしてたら恥ずかしいもん」
たしかにな、と夜斗は納得した。
「元からお肉付いてるのに、いっぱい食べたら余計に太く見えちゃう」
「別に、十分細いと思うけどな」
「そうかな。夜斗くんは、もう少し痩せてる女の子の方が好き?」
雨奈は別に太っているわけではない。
ただ背丈もそこそこあり、胸やお尻の大きさからも痩せている女子と比べたら少し太く感じるのかもしれない。
まあ、肉付きのいい身体だと、男にとっては好まれる体型なのだが。女子にとっては気にするものなのかもしれない。
「いや、別に。そのままでいいと思うぞ」
「ふうん、おっぱい大きい方が好き?」
「急にどうした」
「なんとなく。痩せたら小さくなっちゃうから、そのままがいいのかなって」
「まあ、大きい方が好きではあるな」
「へえ、夜斗くんは大きいのが好きと……。えへへ、じゃあこのままでいいや」
この会話はなんだったのだろうか。
おそらく夜斗の答えなんて、雨奈は聞く前から知っていたはずだ。
それなのにしたのは、ただ話をそっちに持って行きたかっただけなのだろう。
寄りかかる彼女の全身は熱く、上目遣いで見つめられた。
「夜斗くん、触っていいよ……?」
消えてしまいそうなほど小さな声の懇願を受け、夜斗は彼女の胸に手を当てる。
弾力のある実ったそれを撫でると、雨奈は体をくねらせ、夜斗へと体重をかける。
「触り方、すっごくえっちだね」
「普通だ」
「かな。でも、夜斗くんの触り方、好き……。なんか落ち着く。それに、気持ちいい」
夜斗の喜びそうなことを耳元で囁く雨奈。
「お風呂、沸かそうと思ってたの……。夜斗くんとお喋りしながら、湯船に浸かりたいなって。だけど、離れたくない。もっと触って?」
「今日は随分と積極的だな」
「夜斗くんがお泊まりしに来てくれて嬉しいからかな。それに……」
何か言おうとした雨奈だったが、その言葉を飲み込む。
「内緒」
「なんだそれ」
「えへへ、いつか話すね。それより、どうしよっか?」
そう言いながらも、雨奈は刺激するように夜斗の太股を撫でる。
「聞く必要あるか?」
「ないかも。でも夜斗くん、お腹一杯の状態で動いたら苦しいよね」
「まあな」
「わたしが上に乗って動いても苦しいよね。うーん、じゃあ夜斗くんはそのままでいて」
雨奈は夜斗のチャックを下ろす。
屹立したそれを優しく握ると、舌なめずりをした。
「もう、こんなに大きくなってる……。もしかして、期待してた?」
「しないと思ったか?」
「ううん、期待してほしかったから良かった。じゃあ、夜斗くんの期待に応えないとね」
握った手を上下に動かした雨奈は、耳に髪をかける。
「夜斗くんは何もしなくていいよ。あっ、でも、頭を撫でてくれたら嬉しいな」
微笑んだ雨奈は、そのまま頭を下げた。
その瞬間、温かい快感が全身を襲った。
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