同じ痛みを知る者⑷
エドワードさんは、途中から涙を流しながら私に語ってくれた。そんな様子を見て、いつの間にか私の涙は引っ込んでいた。
「……今日オレがお二人の迷惑も考えないで押しかけて、こんな泣きっ面で言うんだ。世辞でも慰めでもない。同じ境遇だった者として、これから貴女に後悔してほしくない。……グルワールさんは必ず帰ってくるから。その時は、めいっぱい怒ってやってほしい」
そうして、エドワードさんは深々と礼をした。
私に頭を下げながら涙を拭う仕草だったり、鼻を啜る音がする。
私は立ち上がり、ティッシュを2枚取り、丁寧に四つに畳んでから彼に差し出した。私が使ってしまった彼のハンカチを返すのも良くないと思ったから。
差し出されたティッシュを見てか、頭を下げたままのエドワードさんは、一瞬ハッと身を縮こませた。
それから頭を下げたままティッシュを受け取り、2、3歩後ろに下がって私との距離を取った。そのままさらに私に背を向けて、身につけていた白い手袋を外し、外した手袋で涙をしっかりと拭っている様子だった。
そして、涙を拭い終わったのかエドワードさんはパッと振り返って言った。
「……お二人の問題なのに、部外者が出過ぎたことを申し上げました。ご不快に思われたのであればどうぞこの場で罰してください。私は……いえ、オレは、今貴女に話したことは間違ってない確信しているから、撤回することは出来ない。不快だったなら、どうぞオレごと煮るなり焼くなりしてほしい」
「……もう。エドワードさんったら、私はそんなことしませんよ」
私が笑って言うと、彼もまた微笑みを返した。
「……どうやら、わかってもらえたようで良かったよ」
「ええ、よくわかりました。それと、ごめんなさい。私、エドワードさんのこともナツメさんのこともずるいって思っていました。アルベ君、最初はすごく色々警戒していて、怖いくらいだったのに。お二人とは簡単に打ち解けていて、私が知らない、いろんなお話までしていたから」
「──でも、エドワードさんもナツメさんも良い人で、そんなお二人だからアルベ君も打ち解けたんだと思います」
「マリアさん、オレたちを信頼してくれるのは有難いが、それは……」
「ええ!それはそれ、です。エドワードさんたちがいい人だからと言って、これまでずっと何も話してくれなかったアルベ君が良いとは思います。帰ってきたら、沢山怒ろうと思います」
「──アルベ君は頑張ってくれているのに、怒っちゃダメってずっと思っていたんです。みんなのために頑張ってくれる彼に怒るのは醜い女だとも思っていました。……でも、そうですよね。私の方がアルベ君のことずっとずっと想っているんですから、わからずやー!って怒ってもいいんですよね」
「ええ、その通りです。なんなら1発殴ったって怒られやしない。怒る資格なんてないんだから」
「……え、えと、殴るのは良くないですけど。エドワードさん、本当面白い人ですね!」
「うん、面白いことを言ったわけではなくて、割とマジなんだが。マリアさんさえ良ければ代わりに殴っときますけど?」
「ダメです。アルベ君をパンチする権利は私にありますから。その時は……うん。ちゃんとします」
「……ふ、なるほど。では、部外者はおとなしく観戦と祝福に努めましょう。ああ、貴女達に亡シャンドレット陛下のご加護と祝福があらんことを」
エドワードさんは目の前で跪いて私たちを祝福した。そんな彼の敬意に対して、私も何か返したいと思い立った。
「あの、もらってばかりでは悪いので私たちにも何かお礼をさせてもらえませんか。お互いに抱く想いは公平、ですよね……?」
「早速それを楯にされては断ることができないのですが、正直お二人から受け取って喜べるものと言えば、ただ一つでして……」
「というと?」
「……オレはグルワールさんのお帰りを確信していることを前提に、どうか今回に限らず、この先の未来についても亡国王陛下が望み続けたギルディアの安寧に協力していただきたい」
「……それは、この先もギルディアに留まり、アルベ君は次も塔の封印執行者になるということ……ですか?」
エドワードさんは静かに頷いた。
一層真剣な顔をしていた。
それは当然。
先まで私がアルベ君の身を案じて取り乱しているのを見ているのだから。
「……無理を言っていることは理解しています。マリアさんがグルワールさんを大切に思っていらっしゃるのは明白で、このオレの願いは、貴女の心配を煽ることだということも」
「……そう、ですね。アルベ君にはそういう話はされましたか?」
「いえ、まだ……。始まってもいないのに次の話をするのはどうかと思いまして。しかし、オレが『アザレア』を裏切り、シエント帝国を騙し、お二人をサポートする理由がギルディアの安寧のためであることは一番に申し上げておりますから、察していただいているかもしれません」
「……わかりました。この件についてはアルベ君と話し合ってみます。結果は後日報告に伺いますが、結果がどうあれ、その時は二人でお伺いして、亡くなった王様への祈りを捧げたいです」
「……ああ。ありがとう。陛下も喜ばれると思います。誰よりもこの国と人々を愛していた方ですから」
エドワードさんは悲しみ交じりのため息を吐いた。
その様子から、彼が本当に王様を大切に思っていたことを再認識する。この場で聞くのは傷をえぐってしまうかもしれないから、もう少し経ったら、彼から王様のことを聞いてみたいと思う。
「さて、いけませんね。話は何とかまとまったと思いますから──」
エドワードさんは、ぺしっと自分の頬を両手で軽く叩いてから、私に右手を差し出し握手を求めた。
私は少しドキドキしながらもそれに応えた。
「どうぞこれからよろしくお願いします。オレにできることがあれば何なりとお申し付けください」
「はい、よろしくお願いします。エドワードさん!」
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