第11話 避ければダメージは0ですわ〜!

彼女、エリーナは今西に向かっていた。


今西側の国では病魔が民を襲っているという。

が、お構いなし。壁が見える距離居がスルーする。


そんな彼女はまたファッグモアを乗りこなしてーーいなかった。降りていた。バイバイしていた。


じゃあどうやって移動しているのか。


「風のように走る…ですわ〜!!」


そう。ただ、爆速で走っている。

その速度は人や魔物は愚か森ですら一掃してしまうほどのファッグモアの勢いよりも力強く速い。


飛び散る土塊。

噴き上がる土煙。

掘り起こされる足形の土。


エリーナに担がれた大きめの腕輪二つはカシャンカシャンと音を鳴らしながら揺れている。

あまりの振動と揺れに、腕輪が顎や頬、脇腹に当たっていてエリーナが鬱陶しそうに口と眉を顰めていた。


だがそれでも彼女は手放さない。


それもこれも、彼女が身につけている腕輪が今のエリーナの素早さと力強さを形作っているからだ。


ーーー


アンデルセン地方の西側の奥。

深く暗い森の奥にひっそりと、けれどドッシリと佇む洞窟がある。


それはとても大きな洞窟で、二階建ての家くらいならすっぽり入るんじゃないかというほど。それがデフォルトの道の広さとなっている。


そんな洞窟は長年【難攻不落】とされてきた。


【難攻不落】というなれば、誰かがそこを守っていると言うわけで。そんな【難攻不落】の称号を掲げるに至らせた存在は、とてつもなく強力なゴーレムの大群だった。


そのゴーレム達は、剣にも魔法にも砲撃にも果敢に攻め込んでくる勇気をもっている。


そしてどんな攻撃を受けても、まるで盾で受け止められているかのように手応えがない。


極めつけは動きが俊敏。


対峙している時のゴーレムが見ている景色は大概カカシのように全く動かないに等しく、少し揺れる的を殴っているようなものだった。


そんなゴーレムをなんとか上手く倒せても、別に1匹だけしかいないわけじゃない。なんだったら、倒しても倒さなくてまた第二第三のゴーレムが現れてくる。



そんな調子なものだから【難攻不落】と同格の称号として【自殺したければここに来い】と言う物もある。どうやら覚悟が決まってなくてもすぐに死ねるそうだ。



……なんで死ねることを知っているのかは、【男湯七不思議】の一つである。



しかし。


「邪魔ですわ〜!!」


エリーナはそんな無数のゴーレム達の攻撃を物怖じせず、ものの見事に、余裕綽々と、軽々快々の歩幅で掻い潜っていく。


繰り出される一撃は、火薬をめいいっぱいに詰めた砲撃すら傷をつけられない外壁をいとも容易く破壊してしまうほど。


華奢なエリーナなら木っ端微塵で済むかどうか。

なのに臆する事なく突き進む。


「避ければダメージは0なんですわよ〜! 心に刻め…ですわ〜!!!」


そうして何十分か道を突き進み、なんだったら壁を破壊して進んだ扉の先に待ち構えていた、5階建て…お屋敷の様な巨大なゴーレム。


その後ろには高く長い階段が続いており、その奥には何かを祀る祭壇が伺えた。


つまりこのゴーレムはこの祭壇を守護する存在。

そして道中のゴーレムなんかよりももっと強い。

とてつもなく強く固いゴーレムの更に上にいるのであろう、インフレ待ったなしの化け物。


を、10秒で破壊して階段をものすごい勢いでかけていくエリーナ。


「焦ったいですわぁ…あと20秒もないんじゃないんですのぉ」


見据える先はとても遠い。

弱音が溢れてしまう。


けれどエリーナはある言葉を思い出した。


「いいえ…明るく元気にまっすぐに! ですわ〜!!」


エリーナのボルテージはキュイーンッとゲージを振り切れる程に上がりきった。


そうして。


彼女がまた消えてしまうその瞬間。

それと同時に祭壇の石台の上で漂っていた銀色の盾を手に取って。


「まにっあいっましった…わぁ……」


そして彼女は消え去った。

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