第9話 エデン村ですわ〜!
それからもエリーナはどこからともなく現れ、そして消え続けた。それは転々と、このアンデラントの土地を周りに回って、次に来たのはその地方の東の端。
そこはこの地方の中で最も魔王城に近い場所。
とはいえ、本当に近いかといえばそうでもない。
そんな場所にひっそりと立っていた村。
エデン村。
「くっ殺せ!!」
アンデラント地方の山の麓に村を構えて早50年。
そこそこ長いこと存続し、安定的なその村は今、とても危機に瀕していた。
それは人間と同じく群をなし、文化を営む程の頭を持ったオークという魔物の襲撃によって。
オークは短命だ。
大抵10年も生きれば大往生と言われているほど。
しかし、そうした、命が枯れ果てる速度早い故に繁殖力が凄まじい。
そしてその短い時間を紡ぐ為に体は頑丈で、力がとてつもなく強い。
木に抱きついて3秒後には根ごと引き抜けるほどの膂力。
奴らが増えるということは、食物連鎖のカーストの中において下位にいる生物の安全が脅かされるということ。
その下位の生物には人間が含まれているということ。
だからこそ、オークが増えることを人間は恐れた。
恐れて、戦って、しのぎを削りあって、でもやはり自然のカーストには敵わなかった。
魔物は、オークは、人間にとって強すぎた。
だが50年前、ここに建てられたエデン村。
それが出来てから戦況はガラッと変わった。
100本の勇者の剣。
それは贋作ではない。
全て本物だ。
そして、この村に住む全員それを十全に行使する腕前を持ち合わせた人間で構成されていた。
オークが住んでいる山は、この付近の国にとって大切な水源と資源が漫然と広がっている場所。
この区域を利用できないとなると、割と真面目に存続が危ういものとなっていた。
それを危惧した国王は、アンデルセン地方の中央に位置するアンデルセン主王国と同盟を結び、勇者100人を募り配置した。
勇者。
それは単なる勇ましき者に与えられる称号。
勇者だからと言って特別何かがある訳ではない。
しかし、勇者の名を冠している者はみな、純粋に強かった。
魔物1匹10人で戦って勝率は50%。
だが勇者は1匹に1人で100%だ。
そして彼、彼女らは果敢に立ち向かっていく。
だから皆は読んでいる。
勇ましき者、勇者なり、と。
しかし、オークが勇者を前に弱くなるなんてことはなかった。
オーク1匹に3人で90%の勝率。
5人で安全に狩り切れる。
だが、そう。
従来では敵わなかった相手。それに敵う集団の台頭総勢100人。やろうと思えば1日に20匹は殺せてしまう。
それはまごうことなき事実であり、このエデン村を支えた人類の中でも圧倒的な強者の実力。
エデン村はこの50年、毎日オークを殺し続けた。
初年度は無茶をして1日に40匹狩っていた。
1年続ければ約14,600匹。
それでもオークは壊滅しない。
そして無茶な戦い方は人間の体力を酷く消耗させ、体の休息に時間を要するようになっていき、そして一度この村は危うく消えてしまうところだった。
だが、なんとか全員死ぬ事なく危機を脱し、それと同時に方向性を大きく転換する事を命じられた。
それは【オークの殲滅】から【オークの管理】へ、だ。
毎日100人。
5人で構成された20の部隊が山に潜ることは変わらない。ただし、1部隊一頭まで。
最後は全部隊が終結し、その余力でもう1匹狩っていく。
近くにあるオークの村における1日の出生頭数は21匹。それは、オークの討伐数と周辺での観測密度が書かれた報告書を通してアンデラント国王陛下が導き出した答え。
増えては減り、増えては減り、常に一定の数に保たれた彼らはまさに家畜の所業と同じ。
そうして人間の領土は守られ続けた。
オークたちは管理され続けた。
もうそれは50年も、ずっと。
人間の寿命を100とするなら、この50年のオークの歴史は500年もの統治に相当する。
艱難辛苦。
屈辱的所業。
そんなオークらが心を煮えたぎらせ。
今、ついに一揆が起こった。
もはやそれは領土戦争と言っても過言では無い。
だがここで一つの疑問が生まれる。
なぜ、オーク達は生物的強者であるのに集団で村を襲わなかったのか。
オークは人間と同じ頭を持ち、そして文明を持った生き物。それでいて、短命という生物的な側面が作用して、人間よりも愛の強い生き物であった。
故にオーク達は1匹たりとも仲間を失いたくなかった。
だからこの50年間、人間に殺されない強さを持つーーそれこそ勇者の剣以上の業物の武具、兵器を思考し、考案し、形作った。
とは言え、それに集中していても作り切るまでむざむざと仲間は殺される。
その為彼らは一度、戦争を仕掛けた。
それがエデン村を半壊に追い込む出来事だった。
しかし、勇者100人は気づけば子供を引っ提げていた。人間もまた、愛を知っている生き物。
守るという強い意志は圧倒的武力を跳ね除けてしまった。
オーク達は沢山死んだ。
でもそのお陰でオークたちは理解した。
いくら上位の存在であるからとは言え、慢心はできないと。だから虎視眈々と、憎しみを激しく抱持ち、幾年も熟成させ続けた。
その刃先は鍾乳洞の結晶のように、地道に、ゆっくり、けれど確かに。
そしてそれは、エデン村に触れた。
同時にエデン村の住人は目の当たりにした。
軍隊の行進。
刃の通らない防具。
盾をものともしない武具。
純粋な、人間への殺しの執着
圧倒的武力差と言うものを。
今まで手の上だったはずのオークたちが、その手ごと噛み切ろうと差し迫る瞬間を。
オークは頬に傷を負った女の子の両手を片手で掴み、上から下へと品定めしている。
今の所これをされた後は男も女も生きたまま四肢を分断。穴や突起物は物理的に破壊され、痛みや苦しみに悶えながら解体されている。
一思いに殺してくれない殺し程残酷なものはない。
彼女は声を震わせ、とめどない涙を流して声を上げる。もうあたり一体に彼女以外の声は響いていない。
そもそも、周囲を見渡せばわかるはずだ。
家族も、友人も、知り合いも、恋人も、みんな原型を知らないまま死に絶えている。
恐怖と、憎悪と、悲しみと、怒りと、助けと。
感情と生存本能の奔流が彼女を飲み込み、バラバラに壊してしまおうと襲いかかる。
「東へ参る…のですわー!!」
そんな絶望的な瞬間だった。
ファッグモアが現れた。
謎の声と共に。
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