第6話 ふしぎなおどりですわ〜!
それからはおんなじ事の繰り返しだった。
その集団の中で誰か一人動ける様になり、攻撃を取るか、一定時間何もしないを選択しても動けなくなる。
その後女性が行動する事で、また誰か1人選定され、その1人だけが動ける様になる。
そんな流れを見て頭の切れる人間は気づいていく。
(これ、あの女に近いやつから順に選別されてるじゃねぇか)
だが、それに気づいたからと言って何かあるわけでは無い。無作為に選ばれていたと思っていたものが規則の中に落とし込まれるだけ。
そして選ばれたら突撃するしか抵抗の術はない。
逃げようとしてもある一定のラインを越えられないのだと誰かの犠牲があって周知される。
そう。
この規則性に気づいた者から絶望の淵に立たされていっている。
それは圧倒的精神的苦痛であり、理解したものはもうその場で動かず目を閉じていた。
その潔さ、正に男。
そして女性は容赦なく殴り飛ばす。
もはや清々しい。
そうしてバッタバッタと47名は薙ぎ倒され。
「なんてこった…」
漸く動ける様になったカシラは酷く頭を抱えた。
「残るはあなただけですわ〜!!」
「………」
目の前で呆然と見せつけられた圧倒的実力。
そして意味のわからない魔法。
逃げようにも逃げられない。
実力で敵わない相手からは今まで逃げてきた。
見つからないように生きてきた。
そうしてカシラを含め盗賊団は生きながらえていた。
【ダメなら仲間を置いてすぐに逃げればいい。後で合流するだけだ】
それを格言に。
だが、その積み重ねた慣習が邪魔してか、こうした偶発的な実力者への襲撃の対策は講じれていなかった。
そして今更ながら、とりあえず転移石を持っていれば良かったと、自身の爪の甘さに顔を顰めた。
別に転移石がそこら中に落ちているわけじゃないが、もしもの時用に全員分見つけておけばよかった。そしてたらこんな事にはならなかったかもしれない。
(くそ…)
自分達の逃げ足と逃げ方を過信していた。
だが誰もこんなバカみたいな強さな奴が突然現れるなんて思わないだろ。
しかたねぇだろ、そんな現状からの逃避を図る思考が男の頭に強く居座る。
そして、彼はひどく苛立っていた。
どうしてこうも世界は理不尽なんだと。
女という生き物は理不尽なんだと。
「睨みつけるですわ〜! そしてもう一回行動できる。ボスは2回行動〜! 圧倒的にズルいですわ〜」
「……てめぇの魔法かなんかの方がよっぽどずりぃよ。んなのインチキだろ」
インチキな強さ、インチキされてるほどに訳のわからない現状。でも間違いないのは敵わないという事実。
カシラは思う。
痛い思いをしない様に、相手に見下されない様に屈強な体を鍛えてきた。
その為の体で、この体は実際そうして役に立ってきた。
だが仲間達の様子を見てこの体でもあんな風にさせられてしまうんだろうと、察しがついてしまう。
それも、体型も槍のような【勝鬨1番槍】のジョズであの威力。きっと図体の大きな自分にはもっと強い力が向けられる。
ずっと顔を見せなかった恐怖の微睡が、ヌゥーっと彼の身体全てに重くのしかかる。
重たい。
体も気持ちも、未来も。
(やっぱ女ってのはロクデモねぇ…心底怖ぇ。昔も今も、お前らが人間なのか疑わしい。いやもはやお前らは魔物だろ…)
そして、痛みを負うことを恐れた彼はまだ動く体に力を込め、羞恥心を捨て。
ーーそして。
「ふしぎなおどり…何故あなたが…! あなた、まさか魔物!」
「誰が魔物だ人間だクソアマァ!!」
「なら気絶してくださいまし〜!」
「ぁ"っぐ"……」
さっきまでの連中と違い人一倍図体が大きいがために力を強めてしまった女性。
とても空高く打ちたがったそれを見て、着地点を探して、深めの川なのを見るや否顔を逸らした。
「それにしてもふしぎなおどりも大したことありませんわね。体力が微塵も吸い取られませんでしたわー! 圧倒的こけおどしでしたわ〜!!」
その日、国をあげて退治できなかった盗賊団は人知れず壊滅した。
農地から逃げてきた国民の通報を受けて緊急派遣された兵士達。しかし彼らは盗賊団を見つけることは出来なかった。
でも、その痕跡は見つかっていた。
ある一点を中心に、円を描く様に踏み荒らされた小麦畑。飛び散って小麦になじんでいる冷たい血液。
至る所に放置された凹んだり、貫かれたりした鎧の一部。
その処理をする兵士たち。
そうして集めた幾つかの鎧の内一つに名前が刻まれていた。それに気づいたある兵士はグッと鎧を抱き抱えた。
そこに刻まれた名前はお互い兵士となった時の祝賀会で、酒を飲みながら彫りあった相手の名前。
これは盗賊団に襲われた時の親友の遺品になるはずだった。しかし盗賊団はモノの見事に全てを掻っ攫い、死体だけを放置していた。
胸糞悪く、そして悔しかった。
でも、今日幸運にも彼の断片を回収することができた。彼は墓に酒と彫刻刀と共に添えてやろうと足取り軽く派遣隊の中へと戻っていく。
そして彼は思う。
(もしかしたらこの前男湯の七不思議の現場に居たからかな)
一緒に名前を彫りあった時に指に負った彫刻刀の傷が少し、癒えたような、そんな気がした。
【男湯七不思議】の盛り上がりは一層増した。
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