第4話 なぜ! 部長に! 弟子入り!

弟子にしてください、なんて言われて呆気に取られない人間なんていないだろう。

ましてや部活中、急に呼び出されたと思えばそんな調子。


瑞希の前で状況が読み込めず、少し立ち尽くすポニーテールの女の子、白鳥さん。


対してグーッと綺麗な目をまっすぐ向ける瑞希。


その2人の沈黙は少しして、ようやく解かれた。


「で、弟子入りかぁ…こりゃあまた、何てこったい」


後頭部を描きながら部屋の中に目を移す。

きっとあそこから部員の目がさして来ているんだろう。


「弟子…って、てか何で私なのかな…」


白鳥さんは至極当然な疑問をそのまま瑞希にぶつけた。


俺もそんなこと言われたらオッケー出す前に聞いてしまう。白鳥さんの気持ちや考えてる事がなんとなくわかる。


瑞希はそうした白鳥さんの質問に目を輝かせたまま言った。


「実はそのっ、お昼…に、白鳥さんがっ、その…彼氏さんにお弁当振る舞ってるのを…たまたま…見て…」

「あっ、あぁ……。まぁ中庭だしね」

「それで…あの」


とてもぎこちない喋り口。

そう言えばこうして俺以外の誰かと話している瑞希を見るのは初めてだった。


「ねぇっ」


そんな時、白鳥さんは瑞希の手をギュッと握って瑞希の続ける言葉を遮った。


あまりにも突然な事に体をビクンっと激しく浮かした瑞希。


「は、はい!」

「私のお弁当見た目どうだった!」


そして聞かれたことはそんな事だった。


多分お弁当に関しての感想が彼氏からは最高評価しか出ないから他のサンプルも欲しかったところなのだろう。が、あれはもはや自己評価でも最高評価にしかならんだろ、みたいなツッコミが俺の心の中で疼いているが押し黙らせる。


そして、瑞希は言った。


「すっごい綺麗でした!! 芸術品というか美術品というか! 見たことのない形の野菜があって詰め込んでる料理も綺麗に置かれてて! 美味しそうで綺麗で! 料理の美術館って感じでした!」

「きゃあああ、あぁもー嬉しいっ! なになに美術館とかちょー嬉しいんですけどー!!」


ほぼ叫びに近い喜びの声を上げる白鳥さんは、それはもう足をその場で後ろに蹴り上げ、跳ねる勢いで足をバタバタさせている。


ルンルンな時の足運び。


握っている手も激しく上下している。

残像が見えて来た。


「おぉー褒められてんねぇ流石ヨーダ」

「わわなに遥ちゃん」

「いや、気になって来ただけよ」


そんな所に一人の女の子が来た。

あの会話の感じなんだかんだ白鳥さんとかなり仲のいい関係なんだろう。

長いブラウンヘアーをポニーテールにしている。


制服の上に着ている白いエプロンは長身ぎみの彼女のスタイルをよく見せている。


そうした会話を目の前に、瑞希は少し困惑した様子だった。


「あ、あの、白鳥さんって菊ってお名前でしたよね…ヨーダってどこから来てるん、ですか…?」


ちょっとばかし言葉を選んでいるようで、どこか抑揚のない平坦な声。そしてぎこちなさ。


それを聞いて、けれど遥と呼ばれた女の子は思い出すように語った。


「んぁあ…それはね、この子3年になる時に部長に選ばれたんだけど、そん時に大声で『私は部長だー!』って偉そうに言ってきたんだよね。だから部長っぽくない名前に変えてやったんだよ。語源は「ぶちょーだー」の「よー」と「だ」から来た感じ」

「いやぁまさか遥ちゃんにあだ名をつけてもらえるとはあの時は感激したねぇ、部長になれて良かったって」

「どっちかと言えばスターウォーズだから嫌がれよー」

「イヤーダー」

「あはは、なんかフォース感じる」


楽しそうに遥さんのポニーテールを揺れていた。


「あだ名って…良いものなんですね…」


かなり、消え入るような声。

掠れた、そんな声。

2人はそれに敢えて反応はしなかった。


「そんで、どうすんの、師匠になるの? シショーダーに進化するの菊」


遥さんは腰に手を当てて白鳥さんに目を据える。


「んー、それをねぇ今見定めようと思うんだ」

「見定めるとか…めっちゃ上に立つやつっぽい」

「えっへん!」


両腰に当ててわざとらしく背を仰け反らせる白鳥さんに。


「忍たまの冷えた八宝菜まであと3ー2ー1ー」

「しないよ! 腰が逝っちゃう!」


大きく黒色のポニーテールを揺らして体勢を立て直す白鳥さん。ポケーっと放置された瑞希に改めて目をくべる。


「それでなんだけど、取り敢えずここじゃ何だし中入って座って話そうよ」

「は、はい!」

「……あ、急ぎの用事とかは?」

「断って来ましたっ」

「あら」

「よっぽど弟子になりたかったんだな…」


はい。

うちの彼女、俺との放課後諦めて来ているんです。


「何でそんなに弟子になりたいのか、純粋に気になるなぁ」

「そりゃあヨーダのテクを盗みたいからだろ、なぁ?」


そう話ながら席に座ると、瑞希は首を大きく縦に振った。

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