第3話 秋空俊介くんと私は出会った
私の名前は鮫島瑞希。
ワタシは鮫島瑞希です。
さめぇじまぁ〜、みずきぃ〜。
私は昔から自分の名前の響きが大大大大好きだった。それはもう愛していると言っても過言ではない。
そしてその語感の気持ちよさによく言葉にして楽しんでいた。
この自分の名前を読んで満足する行為。
私はこれを遊びだと認識していた。
理由は単純明快。
楽しいからだ。
けれど、周囲は愚か仲の良かった友達にもそれは理解されなかった。
確かに思い返せば誰1人としてそんなことをしていなかったからだ。
でも、そんなたった一回の悪目立ちで私はみんなにこう呼ばれるようになった。
「お前変だよな」
それは男子からか女子からなのか、覚えてない。
気づいた頃にはそれはあだ名に発展していて「変子ちゃん」とか「変ちゃん」とか、英語を覚え始めた年には「strange」から言葉をとって「スト」なんて呼び方もされていた。
ずっと。
それはずっと。
私の本当の名前を忘れられてしまうほどずっと使われ続けた。
それに関して少なくとも私はなんとも思っていなかった。
……いや、なんとも思わないようにしていたんだと思う。
小中学は同じ区域の子で集まるから知り合いしかいない。あだ名の使用は変わらずされて、名前も忘れ去られたまま。
その3年間を終えれば次は高校が待っていた。
私は特別頭も良くなく、地元の高校にただ進学したが、同様の子が半数くらい居た。
ただ、唯一違うことは他半数以上は知らない人で構成されていたと言うこと。
だから私はこの時、幾数年ぶりに知らない人と隣り合う事になった。
「どうも、秋空俊介です」
「わ、私…私は……えっと…へん、じゃ、なくてえっと、あの……。私は…」
もう散々と言われて来たあだ名が、私にとってそれが真名であるかのように侵食していた事に気がついたのはその時で。
「へん…へ、ちが。え、ぁ、み、み、みず、みずき…で…す……」
それが、彼氏との初めての会話だった。
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