最後の映画

きと

最後の映画

「はい、よーいスタート!」

 先輩の声にこたえて、僕はカメラを回す。

 カメラの先には、同じ映画サークルの仲間たちが、迫真の演技をせる。

「カット! 確認します!」

 そう言って、先輩は僕の元へと駆け寄ってくる。

「どう? 副監督さん」

「いいと思います。今、再生しますね」

 先ほどのシーンを頭から再生する。先輩は、それを見て満足そうに頷いた。

「オッケー! これで、残すはラストシーンになります! 役者の方は、休憩しててくださーい!」

 ふぅ、これでラストシーンだけか。

 長かったような短かったような……。

 でも、これが最後の映画になるんだよな。

 先輩の頼みに答えたが、最初は正直言ってあんまり乗り気じゃなかった。でも、始めてみるとやっぱり楽しいものだった。最後の最後だからこそ、別なことしたいなとは思うが、これはこれでいい。

「副監督さん。何ボーとしてるの?」

 先輩が、僕の顔をのぞき込んでいた。

「ああ、いえ。もうラストシーンなんだなって」

「あはは。急ピッチで撮ってたからね。いつもより忙しいのは、仕方ないよ」

 急ピッチ……。そりゃあ、そうだよな。時間がないのは、ここにいる全員だ。

「先輩。ずっと聞きたかったことがあるんですが、いいですか?」

「ん? なに?」

「あと1か月で、世界が終わるのに、どうしてこんなことをしているんですか?」

 1年前のことだ。世界を揺るがす衝撃の事実が、発表された。

 巨大隕石衝突が避けられない。隕石を粉々にしても、地球の崩壊はまぬがれない。

 世界が、終わる。

 最初の頃は、パニック状態になったが、今では落ち着いている。みんな、最後は自由に暮らしたいと仕事を辞める人が大量に出て、お店なんかは通常通りとはいかないが、それでも不自由なく暮らしている。

 そう、最後なんだ。この映画を撮っても、何も残らない。

 でも、先輩は、僕に「映画の撮影手伝って!」と連絡がしてきた。

 やることが無かったので、承諾しょうだくしたが、やはり気になる。

「最後だからだよ。自分の好きなことして、過ごしたいじゃん?」

「それは、そうですけど……」

「それに、何も残らない、なんてこともない気がするしね」

「へ?」

 先輩は、変な顔をしているだろう僕の前でくるりと回る。

「私たちは、確かに死んじゃうかもしれない。でも、想いが消えることはない、と思うんだ。死んじゃったら天国に行くのかも分からないけど、もし、天国がなくても。私の映画で、何かを感じてくれた。その事実は、何かの形で、残り続けてくれるんじゃないか……、なんて思うんだ」

「……、あるんですか? 誰もいなくなるのに」

 先輩は、歯を見せて笑って、言う。

「分かんない! でも、希望を持つことは、わるいことじゃないでしょ?」

 希望を持つ、か……。

 すっかり忘れていた。こんな大事なことを。

「先輩」

「なに?」

「いい映画にしましょう。なんせ、最後の映画なんで」

「だね」

 空を見ると、日が沈んできていた。世界の終わりみたいだ。

 最後の映画の最後は、告白シーン。

 ……、世界の最後に、僕も想いを伝えた方がいいのかな?

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最後の映画 きと @kito72

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