第6話
「現代の魔法というものは、使用する時には詠唱と言われる、いわゆる呪文を口に出すという工程が必要だ。自分が放つ魔法をイメージしやすくするためらしい。俺は魔法を使ったことが無い、というか使えないからあくまで本とかで読んだだけの知識だけどな」
「なんと。神自ら私にご教授して頂けるなんて。このエクイテス、恐悦至極でございます!」
目、というか仮面の隙間から見える目のようなものをキラキラさせながらそんなことを言うエクイテスを見ながら、話を聞いていたのだろうか、と思う拓哉。
「それにしても現代の魔法はずいぶんとめんどくさい工程を挟まなくてはいけないのですね」
「たしかにな。エクイテスが無詠唱で魔法を使えるなら他の人間にもできるかもしれないな」
「他の人間はともかく、神なら普通に出来ると思いますよ。神のお手にはめられております魔法神様との契約の指輪。その指輪をはめていれば無限の魔力と、無詠唱を含む魔法の知識を手に入れることができますので」
「そうか、そういえばそんなことが書いてあったな。そうだな。よし、一回やってみるか」
拓哉はエクイテスに言われ、一度試してみる事に決めた。魔法の知識を手に入れたようなので、意識して記憶を辿ってみる。すると知らないはずの魔法に関する知識を次々と思い起こすことが出来た。
早速拓哉は手を前にかざし、火球を出現させた。
「おおっ!本当に出来たぞ!この俺が、魔力総量1の俺が魔法を使えた!しかも無詠唱だなんて」
「流石神です。しかし神の魔力総量が1?計った人は誰なのですか?そんな詐欺師野郎は今すぐ絞めてまいります」
エクイテスが何やら物騒なことを言っているが、拓哉はスルーする。
エクイテスという強力な配下に、無詠唱で魔法を放つことによって証明された指輪の効力。拓哉の頭の中はそれだけでいっぱいいっぱいだった。これからは上位ハンターとして仕事に余裕を持つことが出来る。そしたら妹——明日香の学費を払う事も出来る。さらには無能力者などという拓哉についた汚名を返上することが出来る。
「よし。じゃあ、ダンジョンを出るか!あ、そういえば、このダンジョンて一体どうなるの?」
「ボスである私がダンジョンの外に出るのでいずれ崩壊します」
「そうか。ならいいや」
しっかりとダンジョンが崩壊することを確認した拓哉。こんかいのレイドはダンジョンの崩壊が目的だ。そのため、ここのダンジョンが崩壊する事が確認出来て安堵する拓哉。
そうして、拓哉はエクイテスを連れて外に出るべく、元来た道を引き返していった。
◇◆◇◆
ハンター協会監視課課長、
しかし、その5時間後。ダンジョンから帰ってきたのはわずか一人。それも数合わせで招集されたE級ハンター。無能力者のあだ名がついた鈴木拓哉だった。ダンジョン前でハンターたちが戻って来るのを待っていた監視課の人間はそれに驚き、鈴木拓哉に事情聴取を行った。
彼の話によると、初めのうちはレイドは順調に進んで行ったという。そして、奥に進むうちに見つけたボス部屋。今回のレイドはダンジョンの崩壊、つまりボスの討伐が目的のため、メンバーが全員部屋の中に入ったという。
はじめは何も起きなかったボス部屋だが、突然数人の頭が吹き飛んだ。そのことに危機を覚えたリーダーが時間を稼いでいる間に他のハンターたちは脱出すべく、ボス部屋の扉へと走った。だが扉に辿り着くわずか数秒の間にもハンターたちは次々とやられていった。無事にボス部屋の外に出る事が出来たのが、鈴木拓哉だけだったという。
この話を初めて聞いた時、亀山はとんでもなく怪しい話だと思った。まず最初に彼らが潜ったダンジョンはD級ダンジョンだ。E級ほど低難度ではないが、下から2つ目ほどの難度しか持たないD級ダンジョンに、D級C級のハンターを瞬殺できるほどの魔物は、まず出現しない。
2つ目に、仮に本当にそんな強い魔物が出現していたとして、なぜ彼が生き残ったのか。彼の魔力総量は1。その強さは一般人とほとんど変わらない。最初に狙われるのは間違いなく彼だろう。運よく最初に殺されなかったとしても、扉に向かって走っている途中に殺されているはずだ。
3つ目。これが一番怪しいのだが、D級C級ハンターを瞬殺することが出来る魔物を、E級ハンター、それも無能力者の鈴木拓哉が討伐して帰ってきたという事だ。ボス討伐に関しては鈴木拓哉本人からは何も聞かなかったが、彼がダンジョンから出てきた後、ダンジョンが崩壊したのだ。それはつまりボスが討伐されたという事である。何度も言うが、彼は魔力総量1の無能力者だ。そんな人間がボスを倒すことが出来るはずがない。
いろいろと悩みどころはあるが、彼の証言が嘘だという証拠がない。彼以外は全員死亡しているし、ダンジョン内に監視カメラなどというものは存在しない。とてつもなく怪しいが、亀山は鈴木拓哉をしばらく泳がせることにした。
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