第119話 酷い仕打ちと、根底的な諦めと絶望を生み出す幼馴染がもうよく分からないくらい色々怖いんだが。
自分の攻撃が沙耶から溢れ出す膨大な魔力の流れのせいでどうあがいても当たらないことを悟った。
そして俺はすぐに下の階層の様子を見に行った。
既に沙耶の魔力の気配はこの最終階層の全ての空間を飲み込んでいた。
瞬きする間に、天井と遥か遠くの壁まで、周囲全てが魔法陣で埋め尽くされた。
一体何をしようとしてるんだコイツは!
止めれるものなら止めたいけど、もう発動してしまった沙耶の攻撃を俺には止めることはできない。
「沙耶さん!? 身勝手な行動は止してくださいっ!」
羽澄さんはそう切実に叫ぶ。
無論、羽澄さんには沙耶の姿は見えていない。
おそらく魔力で感じだったのだろう。
しかし、そもそもここからだと念話すら届かないし、もう既に発動後だ。今更何を言ってもどうしようもない。
すこぶる嫌な予感がした。
そしてその嫌な予感は俺の最悪の予想とは別の形で的中することになる。
沙耶の魔法陣から眩い光が溢れ出す。
全面に膨大な魔力。ああこれはもう駄目だ。
沙耶の魔力の渦が階層全体を埋め尽くす。
それと同時に二人の
「っ! 何事ですか!?」
ウンディーネさんが声を荒げる。
「これは。……ハハ、ハハ」
あれだけ調子に乗っていた火の
もうこれで良いから。発動しないでくれ……
その瞬間、辺り全面の光が更に輝きを増した。
あ、これ駄目なやつだ。
マジで恨む……いやもういっそ殺してしまおうか。
できたらの話だけど。
本格的にこれはマズイ。
ここは全員をできる限り避難を。
[みんなボサッとしてる場合かよ! このままだと確実に死ぬって!]
俺は遠方から念話を放つ。
相手は一番早く理解してくれそうな羽澄さんにだ。
「……はっ! そうですね。『緊急脱出』」
沙耶の魔法陣は直視できない程の光を放った後、無数の光線を解き放った。その光一点に集中し、そのまま2体の精霊へと向かっていく。羽澄さんが緊急脱出を発動したが、それも虚しく発動前にその光は届いた。
その光線、いや光芒は 俺の右腕を呑み込んだかと思うと、その矛先である2体の精霊だけでなくその周囲までをも呑み込み、みんなの姿は見えなくなった。
……だから沙耶はここに来ないで欲しかったんだ。
やるせなさが残る。多分沙耶はケロッとしているだろう。
前まで仲よさげに話していたみんなをこんなにもあっさりと……もうアイツの気がしれない。怖い。
「大丈夫、大丈夫! 殺したけど殺してないからっ!」
ふと後ろから沙耶の元気ボイスが響く。
……お前、よく殺しをしといてそんなケロッと出来るな。
ある意味尊敬するよ。本当。
「なんでそんな殺意と軽蔑のこもった目で見てくるの? 私なりにできることはしたんだよ!?」
「あっそう。目的も何も台無しだ。お前は命をなんだと思ってるんだ……そっか、沙耶は分からないもんな」
「流石に分かるよ! ほら……生きてるじゃん!」
「は? お前のせいでウンディーネさんもフィーもそれに羽澄さんだって亡くなっただろ。それなのに生きてる? 殺しておいてよくそんな冗談が言えるよなっ! ふざけるのも大概にしろ……」
「その……言い方……には……語弊……が……ありま……すよ……生きて……はいま……すけど……」
「そ……そう……だね……でも……苦し……いよ……習」
本当に生きてる! ……こうしちゃ居られない。
あれ、右手が動かしにくい。
……何て言えばいいのか、約1秒間隔で動かせるようになったり動かせなくなったりする。
……取り敢えず左手で魔法をかけよう。
「『
「あはは……私は大丈夫。
「我……は……無念……」
「そっか……確かに生きてはいるみたいだけど、ウンディーネさんとフィー、オークの様子おかしいよな、あれどういうことだ? 説明しろよ? な沙耶?」
「わ……我を……オークと……」
「う、うん。 えっとね完全に殺すのは無しっぽいから無限に生と死を繰り返させる呪いなら良いかもって思ってそれで……」
「お前今無限に生と死とか意味不明なこと……」
「言ったよ?」
「『言ったよ?』じゃあねーよ! お前何やらかしたか分かってんの?」
「あはは……ここに居てもお邪魔になりそうなので、私はあの四人の応急処置をして来ますね……」
羽澄さんが居づらそうな顔でそう言った。
本当に申し訳ない。でも全部沙耶が悪い。
「え? 活躍はしたけど、やらかしてはないよ?」
「お前マジで言ってる? それなら聞くが、味方にまで被害出してそれが活躍と言えるか? あ?」
コイツふざけてんの?
何、イカれ過ぎにも程があるだろ。流石にこれは誰も看過できないって。
今、丁度目の前で起こっている荒唐無稽な光景について簡単に纏めると。
……ウンディーネさんとフィーが死んで生き返ってを繰り返しているということだ。
多分この感じだと俺の右腕も死んで、生き返ってを繰り返しているということなんだろう。
こんな目に遭ってしまったウンディーネさんとフィーにはかなり同情する。
自分も同じ目に遭ったことがあるからその苦痛はよく分かるから。
それに、右腕がこんな状態っていうのはあまりに困る。
あれ、誰か二人忘れてるような……まぁいっか。
「でもでも! 一応さ? 計画から完全にズレてる訳じゃないよねっ?」
「それとこれとでは話が違う」
この期に及んでそんなことを言うか。
常識を考えろよ。
沙耶に常識なんて無理なのは分かってるけど……それでもこのくらいなら常識を身に着けてなくてもフィーリングで分かるだろ。
「でも本当にズレてないし……」
これは何を言っても無駄みたいだ。
でも一応言っておかないと。意味があるかは別だけど、それでも何も言わないのは違うと思うし。それに殺意が湧くくらいにはムカついてるし。
「はぁ。あのな、自分で経験してみたことあるか? 無限の生と死ってやつを。無いだろ? 実際にその被害を経験した奴がどれだけ苦しいか分かりもしないクセにそんな非常識なことするなよ」
「え? 普通にあるけど……自分で何回か試した時には別に苦痛じゃなかったよ? あ、今のは別に気持ちいいっていう意味じゃないよ? ただ普通だっただけだから」
……あ、もうコイツ駄目だ。手遅れだ。
感覚自体のバグにまともに関わるのが間違いだった。
ここまで来ると恐怖だよ。怖すぎるって。
同じ人間じゃないだろ。
人間じゃない得体の知れない何かの成れの果てと言われた方が多分納得はいく。
というか沙耶は魔王なんて甘っちょろいものじゃないんだよ。きっと邪神なんだ。
じゃないともう沙耶って一体なんなのってなる。
得体の知れない存在の方がよほど怖い。
だから邪神って思っておけば俺の中では一段落つく。
邪神になったから沙耶はバグってるんだ。
うん。きっとそうだ(現実逃避)。
取り敢えずこれは一旦置いておいて、取り敢えず解呪させよう。
「はぁ……もう良いから取り敢えず解呪して」
「解呪用の霊薬が無い」
「……は?」
「だから! 解呪用の霊薬が無いの! 作る材料も無くなっちゃたの! ……それに材料があったダンジョンはもう跡形もなく壊しちゃったから、ね?」
「お前さ……もう良い」
呆れた。本当に呆れた。
考え無しもここまで来ると逆に尊敬できるレベルだ。
それはそうとして、最低限その魔法を使う前に最初から用意しておくのが普通だろうよ……取り敢えず、叡智、解呪の霊薬ってどうやって作るんだ?
[材料は既に確保済みです。製法は個体名:三倉沙耶の
そっか、え? 材料もう有るの?
……あれ、珍しく有能過ぎる。
あれ? 叡智、お前叡智じゃないだろ!
[ジョークです。]
……ウザっ。◯ねよマジで。もう良い材料だけ教えろ。
自分で探す。
こんな時にジョークって……この
[……一割くらい。]
あ、九割の材料はもうあるのか。
それなら有能なのか? ……いやでもあの場でジョークを言うのは流石におかしいしポンコツなのは変わらないわ。
今回が偶々ってだけだろう。
で、残りの一割は?
[不明です。採取できる空間が確認できる範囲では存在しません]
はい詰んだ。何してくれてんの本当に。
あれ……沙耶何処行った?
またどこかに行きやがった。
次は何をしでかすのか……今から想像しても震えが止まらない。
これ以上はやらかさないと思う。
多分流石にそこは理解しているハズだしな。
それで、叡智さんよ他に対処法ある?
[その場しのぎに限り存在します。]
その場しのぎでもあるなら早く言ってくれ。
なんで必要な情報ばっかり出し渋るんだよ。
なんか酷く疲れたよ……はぁ。
でもさっきから、混乱、そして突発的な怒りが収まるに連れてに右手の苦痛が現れてきている。
これだと休めそうにも無い。
仕方ないから羽澄さんに相談しよう。
きっとその方が良いと思うし。
その間は霊薬作りを少しでもするか。
足りなくても途中までは出来るとこもあるしな。
そうして俺は羽澄さんがの治療を終えるまで、霊薬の調合でできる範囲を進めるのだった。
にしても右手ヤバい。……こんなんじゃ作業も進まない。
マジで許さんぞ沙耶。
今度何かしら仕返ししてやるからな。
こんな奴に力を与えるとか世界も何を考えてるんだ……はぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます