第118話 無自覚に何もかもを最悪で終わらせようとする幼馴染に絶望しかないのだが。



 沙耶を探し始めてから早三十分が経過した。

 それでも一向に見つからないし、叡智からの報告すら来ていない。


 もうすぐ羽澄さんの時止めが解ける頃だ。

 マズイ。早く見つけないと。


 そして数分後、羽澄さんの時止めが解けた合図が見えた。

 作戦開始までに見つけることができなかった。これはマズイ。

 その瞬間に途轍もない魔力を感じた。

 その衝撃か、沙耶を探すために広げていた魔力が一瞬で霧散した。

 それだけで恐怖だと言うのに、恩寵ギフトによる超火力の必殺。

 もう何が起きてもおかしくない。

 怖い。すごく逃げたい。

 

 その魔力の波長はもちろん、ウンディーネさんと火の精霊バカの方から発せられている。

 

 あ、ヤバい。

 沙耶を探さないといけないのを一瞬忘れてしまった。

 このまま沙耶にやらかす隙を与え続けるのはマズイ。

 どうにか見つけ出せないと……でも大方階層中は探した……もしかして天井とかか?

 違う階層の線もある。

 仮に違う階層にいたなら、叡智も見つけ出せないと思う。

 クソっ、そういうことか! 通りで見つからないわけだ。

 ……沙耶は一つ前の階層にいる! 


___________


 

 一方、ウンディーネとサラマンダーの戦場では、最終局面が再開していた。

 両者ともに恩寵ギフトに魔法の力を上乗せし始める。

 周囲の魔力が一層濃くなっていく。


「オーグラ…」


「分かっているっ!」


 すかさず金鋼竜王は大精霊の間に割って入る。


「冷静にならぬか……サラマンダーよ、随分落ちた者よの。そのような一撃必殺に賭けねばならぬなど、ふっ笑いが止まらぬわ」


 オーグラムが四大精霊が一柱、火の大精霊――サラマンダーに向かって罵倒を放った。

 決して集中力を削いで威力を弱めようとしている訳では無い。ただ単に嫌味を言いたいだけである。

 無論、その程度の嫌味ならば、大多数の存在から取るに足らないものだと思われるだろう。

 

 しかし、プライドの高いサラマンダーには効果的面であった。

 サラマンダーはウンディーネへ放とうとしていた全力の攻撃の一部をオーグラムに向かって解き放った。


「くっ、流石に堪えるな」


 鉄壁の防御たるオーグラムでさえも油断出来ないほどの攻撃。それでもサラマンダーはウンディーネに対して十分な余力を残している。

 全弾当てられていたなら自身は消し炭になっていたと確信したオーグラムは息を呑む。


 それで手が止まれば良かった。

 しかし、サラマンダーは追撃をやめない。

 そしてオーグラムの姿が黒く、焦げに覆われるまで猛攻撃を仕掛けた。


 その光景を見た羽澄ひかりはすかさず完全回復魔法をオーグラムにかけ続けた。しかし、継続的に加わるダメージに再生させ続けるのが精一杯な状況だった。


 いっそ、殺してから蘇生させた方が早くて確実であることをひかりは知っていた。そしてそれこそが叡智の策であることも彼女は理解していた。しかし、彼女の精神がそれを許さなかった、いや彼女の精神ではそれができなかった。


 かくして2体の精霊は再び臨戦態勢となる。


 さきほどの一件で、かなりサラマンダーの火力は削がれた。

 とは言え、それでも互角。

 ウンディーネはそれを理解していた。

 それでも

 サラマンダーが放った攻撃が同時にウンディーネが重なった攻撃と重なる。

 膨大なエネルギー同士がぶつかりあい、あたりが眩しい光に覆われる。


___________



 その少し前……習は階層を駆け上がっていた。

 その道中、沙耶の姿が見えた。


 いた。やっぱり違う階層ではなかったけど階層間の通路にいたのか。確かに沙耶ならしそうだ。

 多分上の階に行くのが途中で面倒くさくなったに違いない。……転移もあるのに。

 ともかく、今の沙耶の状況を確認しないと。

 ……杖を浮かせてる? あいつあんなの持ってたか?

 口が動いてる……膨大な魔力の流れ!

 これ、何かヤバい詠唱だ。

 いやいやそんなことを呑気に思っている場合か俺!

 それより早く止めないと。詠唱なんてしない沙耶が詠唱しているとか何をしでかすつもりなんだよ!

 これは絶対に駄目なやつだ。大惨事になる前に止める。


「沙耶っ! 今すぐその詠唱は止めろっ! 発動もするなっ!」


「おいっ! 沙耶っ! すぐに止めてくれ!」


 俺はその後も何回か止めるように言った。

 だけど、魔法の発動に極限まで集中している沙耶にはその言葉は届くはずもなかった。

 だから俺は実力行使に切り替えることにした。

 これは独断で行動した沙耶が全て悪いのでこのくらいは甘んじて受け入れてもらおう。ただ、届けばの話だが。

 そんなことを思うのと並行して、俺は恩寵ギフトの絆紡剣を発動する。

 俺の持つ唯一の攻撃専用の恩寵ギフトだ。

 ただ、沙耶も多分恩寵ギフト持ちだろうから、効くかは怪しい。だけど魔法の方がもっと効くかが怪しい。


 だからこうするしか無い。


「沙耶っ、すまんっ!」


 思いっ切り振りかぶり、魔力を極限まで込めた斬撃は風を切り衝撃波を生んで、目にも止まらぬ勢いで沙耶の方へと向かっていった……が、しかし、攻撃が届く前に沙耶の詠唱が終わった。


「『禁呪・輪死廻生』」


 ……結局使われてしまった。

 魔力の渦が溢れ始める。

  その魔力の渦は濁流となって俺の恩寵による攻撃をすぐさま掻き消した。


 結局沙耶のやらかしを阻止できなかった。

 あれ、解除は、そうだ絶対解除があるじゃないか。


恩寵ギフトに対しては効果はありません。]


 恩寵ギフトっ!?

 こんなときに……詰みかよ……


 沙耶から2体の精霊を遥かに越える魔力の奔流が溢れ出し始めた。

 ……どんだけ化け物なんだよ。こんなのが放たれたら大惨事なんてものじゃ済まないぞ!


 

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