第113話 どうしてもこの幼馴染は理不尽な上に、色々ズレ過ぎていて疲れる件について。



 ……本当にどうしよう。

 結果として俺は沙耶に対して嘘をつくことになっただけなんだ。……まあ最初は弾く気無かったけどね?

 でも完全な嘘にはなっていないはずだ。部分的な嘘にはなっているのには違いないけどさぁ。


 だからといって沙耶を怒らせる訳にはいけない。

 本能がそう訴えている。

 

 だから、何とかして言い訳を考えないといけない。

 絶対に怒らせるないようにしないと。


「……習、くん?」


「いや、ちょっと通知が……」


「ふーん……で?」


「いや、あの……だから」


「何?」


 いつものような無邪気さも能天気さも完全に消えて、ものすごく強い威圧感を醸し出している。

 昔からいつもこうだった。

 妙なところばかり勘が良くて、嘘をついたらすぐにバレる。気づいたらいつも今みたいに威圧してくる。

 そして、その後しばらく機嫌が最悪になる。

 そうすると学校生活もしにくくなるのは勿論のこと、放課後とかも睨まれて身の狭い思いをしながら過ごさなければならない。

 それに当たりも強くなるし、いつもなら許される事も全然許されず、冷ややかな目で見られるときもあれば、鬼の形相で叱ってきたこともあった。

 両親とも仲が良いので、家での肩身も狭くなる。


 それをどうにか防ぐためには、沙耶の機嫌を損ねないように一つ一つの言動に気をつけなければならない。

 この一週間の過ごしやすさを決める大切なときだ。

 つまり、次の発言は絶対に間違えるわけにはいかない。

 少しでも刺激しないような発言にしよう。

 これで誤魔化せれば良いんだけど……


「いや、それで集中できなくてさ。沙耶いるなら帰り一緒に帰ろっかなって……」


「ふーん」


 今ので大丈夫なの、か?

 どうか大丈夫であってくれ。いやあってくれなきゃ困る。

 これで機嫌が直らなかったら、もう安寧は一週間は無くなるに等しい。

 ただでさえ安寧とはかけ離れているのに、束の間の安寧すら手に入れられなくなる。

 そんなのは絶対に耐えられないし……

 それに今、このカオスな世界になってからは沙耶は魔法とかスキルが使えるようになった。

 そして沙耶は俺が外傷や苦痛に対する耐性スキルを持っていることを知っているのだ。これが何を意味するか、それはまあ多分、肉体的な何か? もしかしたら魔法をぶっ放されるかもしれない。訓練の時でさえ殺されかけたんだ。

 割とマジで殺されるのかもしれない。

 そんなのは嫌だ。絶対に我慢できない。

 

「で?」


「これが理由じゃ駄目ですか?」


「……まあ今回はそういうことにしといてあげるけど、ね? それと口調、敬語になってるよ?」


 え、あぁ多分萎縮したからだと思うけど。

 それにしてもあの言葉の意味って……


「え? それってどういう……」


「細かいことは良いの! ほら行くよ」


「勝手に話を進められても困るんだけど?」


「ハイハイ、それじゃあレッツゴー!」


 本当は沙耶の言葉の意味は大体分かっているつもりだ。

 でもそのことを言うのは自分から逃げ道を無くすことにほかならない。

 大体今のは意味合い的に、

『次、また私に何か隠すようなことがあったら、容赦しないからね?』

 という一種の脅しのようなものだろう。

 子供の頃から今まで何回も聞いていれば流石にニュアンスくらいはわかる。

 でも、それならそのことに気づいていない風を装わなければいけない。

 その脅しに気付いていることがバレた上で、沙耶が俺は何かを隠してると思ったときに弁明のしようがない。

 最悪スパルタ特訓


 能天気なくせして、こういうところだけは妙に頭が冴えるのはやめて欲しい限りだよ。

 その謎に高い頭のスペックを無駄なところではなく、生活とか態度とか行動……そういったところに反映して欲しいんだけどな……無理なのは分かってるけど。


 

 沙耶があんな暴君になったのは魔法を使えるようになってからだったけど、それでもその前、幼い頃から魔法を使えるようになった今の暴君性は持ち合わせていたんだろう。

 それが今のこれだ。

 ……まぁ、沙耶にとりわけ暴君の素質があったというだけなのかもしれない。

 それが魔法という目に見えた力を手に入れたことで、爆発的に暴走した感じなんだろうな、多分、そうきっと。

 でも、それが収まればきっと沙耶の暴君は身を潜めるはず……そう信じたい。……信じるほかにどうしようもないんだ。多分違うけど。多分……違うけど……違う……けど……


 現実はときに救いようのない理不尽をふっかけてくる。

 でもいつものように耐えるしかないんだ。

 それ以外にどうしようも無いなんて酷すぎる。


「あ、そうだ! 習くん今度あれがあること知ってる?」


 ……急に機嫌切り替えれるならさっきあんなに高圧的にならなくてもいいのに……

 ……話は変わるが、今聞いた話の内容が全然見えてこなくない?

 何か重要そうな話なのにそれじゃあ聞けないじゃん。

 なんでそういう時に限って……だから、ちゃんと主語を言え、主語を。あれって一体何なんだよ。

 言葉の使い方がおかしいんだよ。なんで気を遣って一段落ついた途端に疲れさせられなきゃいけないのか……はぁ。


「あれって?」


「あれはあれだよ?」


 だから何なんだよ! 主語を話せぇー! 主語をっ!!


「あれの内容を教えてくれないです、か?」


「うーん、でもあれっていってもあれだし……必要?」


 もう嫌だ。必要に決まってるだろ。

 話が通じない。

 もうかくなる上は……この手だけは苦痛にもなり得るから使いたく無かったし、特に沙耶にだけは絶対に使いたくは無かったけど、うん、読心……するしかないかぁ……


「読心なんて……はぁ……」


「え? 何か言った?」


「何でもないよ」


「ふーん」


 よし、それじゃあ沙耶の心の声を聞きますかぁ……やっぱり止めたい。でも沙耶がちゃんと説明してくれるとは思えないし。

 背に腹は代えられないか……よしやるぞーやるぞー……

 聞きたくない。でもここで拒み続けると十二宮の星宙に阻害されてしまう。

 聞かなきゃいけないんだ。覚悟を決めよう。


「ふぅ……『絶対読心』」


「えっと……やっぱり何か言ってるよね?」


「『あれの意味をちゃんと言わなきゃ分からないだろ』って言ってたんだよ」


「あー……でもあれはあれなんだけど」


[あれは、あれなのに……どうしてこんな何回も聞いてるんだろう?]


 心の中まで指示語だと?

 ……マジかよコイツ。なんかすごい疲れたよ。

 どうして心のなかでまで指示語なんだよ。忘れてるんじゃないのか? 

 普通にあり得る。沙耶なら十ニ分にあり得る。


[あ、もしかしてあれの内容が分かってない? あー言ってなかったけ? あれが能力測定ってこと……あ、言ってなかった。まぁいっか]


 良くね―よ! それなら最初から言えー!

 あと気づくの遅すぎだろっ! 


 ……もう、この人嫌だ……本当に疲れるんだけど。

 誰かどうにかしてくれ。頼むから。

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