第112話 頭を抱えるだけの練習、企画etc……と幼馴染と詰み的状況というカオス事態な件について。



 本当に辛い状況何だけど。

 だってよく考えてみて欲しい。

 本来しなくても良かったはずの文化祭の企画の明確化とか、ピアノ練習とか、生徒会の仕事とか、体育祭用のパネル製作とか……もはや休む暇すらない。

 なのに今も二人の精霊たちの戦闘を注視していないといけない。

 しなくても良いのかもしれないけど、万が一俺に対する敵意を含んだ攻撃が飛んできたらヤバいし、死にたくないから注視しない訳にはいかないのだ。


 そんなこんなで色々滅茶苦茶で、頭のキャパが使われる状況下にいる今はいつもなら進むものも全然進まないし、やらないといけないことがすぐ先に差し迫っているってこともあって、冷静に何かをこなすなんて無理なんだ。


 実際、体育祭のパネル製作の期限は今週の金曜までだし、合唱コンクールの課題曲のピアノ伴奏だって来週の合唱練習が始まるまでには弾けるようにならないとクラスメイトに迷惑がかかってしまう。

 そんな切羽詰まった状況で落ち着いていられるとでも?

 スキルはあっても、今の脳のキャパはほとんどが戦闘の注視の方に取られているせいでそこまで効率良い練習や作業はできない。そうなっては焦るのも仕方ないと思う。


 それにしては冷静だと思われるかもだけど、今もスキルを使って無理やり気を落ち着かせているに過ぎない。最近はそんなことばっかだ。

 それにしてもあのままだとマジでどうにかなりそうだった。

 ……あれ? 俺、なんで連続死したときとか、罠に掛かりまくっていたときよりも今の方が苦しいって明確に感じてるんだ?


[そのことを明確に苦痛と認識するだけの余裕が無く、感覚のみで苦痛を感じて取っていたためだと推察します。]


 思ってたよりもずっと酷い理由だった。

 人って余裕が無いと苦痛すら薄らぐんだね。

 そっか、慣れるともいうしね。

 まあそもそもの感覚が狂い始めてたんだ。何を今更、もう俺は手遅れ側の人間だろ。

 根底から麻痺した感覚を普通と比べようとする時点で間違いだった。


「……残ってまでピアノしてたんだ」


「まあなって……げっ」


「げって何!? ひどくない?」


 だって……沙耶だし……ね?

 なんて言えるはずないです。


「自分の今までの行動を省みてください」


「なんで敬語!? じゃなくて! それどういう意味!?」


「どういう意味も何もそのままじゃん」


「そのままって私何もしてないよ!」


 マジかコイツ。本当にマジか。

 あれを、無自覚でやってたと?

 悪気が無かったのは分かる。

 沙耶は根は優しいから。ただ、バカが行き過ぎただけで。

 そのせいで、俺は恐怖を感じている。

 正直今でもフラッシュバックするほどのトラウマだ。


「……そう。邪魔するなら帰ってくれ」


「むっ、邪魔しないもん! 手伝うもんっ!」


 いや、絶対に邪魔してくるよね。

 一切信用ならないんだけど。特に沙耶の場合は無意識にやらかすからな。


「ハイハイ……で? 何を手伝うって? 俺ピアノの練習してるんだけど? 一人の方が効率いいから一人にさせてくれない?」


 それももうスキルの通知が鬱陶しくなってきそうだからやめようかと思っていたところなんだけど。

 沙耶の邪魔が入らないならこのままピアノ練習するのもありかもしれない。


「うぅ、そこまで言うなら……分かったよ」


 意外と諦めが早くて助かった。

 多分自分のやれることが本当に無いことにガッカリしたのか、もしくは俺の言う事が心に刺さったのか。

 まあどっちにしろすんなり諦めてくれたのは嬉しい。

 まあ罠の可能性も無くはないし、取り合えずピアノの練習をする予定って体だったからやるしかないか。

 通知がうるさいのは我慢しよう。

 もう何回も聞いたから慣れてる。だからきっと大丈夫……なはず。


[スキル『伴奏レベル1』を獲得しました。]


 やっぱり始まった。

 だと思ったよ。すぐに通知が鳴るのは想定内だ。

 ……これが想定内……もう嫌になってくるよ。


[スキル『連打レベル1』を獲得しました。]


[スキル『音調整レベル1』、『韻律調整レベル1』、『音色調整レベル1』、『高速演奏レベル1』、『正確演奏レベル1』、『韻律把握レベル1』『音階判別レベル1』、『音色判別レベル1』、『指運びレベル1』を獲得しました。]


 ウザい…… 

 でもスキル無いと絶対に今から習得は無理だし……

 我慢するしかないよなぁ……

 でもやっぱりうるさい。


 もしかして耐性スキル切れてる?


[耐性スキルは効果が切れることは基本的にはありません。]


 そうだよね……そんな訳ないよね。

 少しはストレスが軽くなると思ったのに。

 あーあ。やっぱり期待なんてするもんじゃないな。

 余計に辛くなる。


 あ、ヤバっ。手止まってるじゃん。

 これじゃあ練習なんてできないっての。

 よしっ……やるかぁ……


[スキル『演奏レベル1』、『伴奏レベル1』、『連打レベル1』、『音調整レベル1』、『韻律調整レベル1』、『音色調整レベル1』、『高速演奏レベル1』、『正確演奏レベル1』、『韻律把握レベル1』『音階判別レベル1』、『音色判別レベル1』、『指運びレベル1』を獲得しました。]


 うん。これやっぱりうるさいわ。

 俺も普通の人だったんだ。

 常人が狂うレベルの通知が連続で鳴るのが初めから分かっていて、それで練習をしなければ何かペナルティがある訳でも無い、そんな中で練習するなんて気は出てこない。

 ……もう帰ろう。

 寝たら少しは回復するかもしれないし。


 そう思い、ピアノ練習用のキーボードをしまっていると……


「習……くん?」


 あ、沙耶のことすっかり忘れてた。

 さっきはピアノの練習の邪魔って追い出したんだけど……これじゃあ理由があってないようなものじゃないか。

 どうしよう……これって、もしかして詰んだ?

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