第109話 人の話聞かない化け物って既視感あるし、もう見飽きたのに……やっぱりこうなるのかよ




「お前からやれよ。初手は譲ってやる」


 ……降参できないかな。

 別に戦いに来たわけじゃないし。

 本来の目的って同盟の交渉だし。

 そもそもなんで交渉しに来たのに戦わないといけないの?

 別にしなくて良いじゃんか。

 とにかく避難が最優先だ。

 転移で逃げれないかな?


「『転移門ゲート』」


[この空間では転移は不可能です。]


 よくあるボス部屋みたいな仕様なのか。

 面倒くさい。それに嫌だ。

 ……今はどう切り抜けるかだけを考えよう

 それにしても初手か……なんか拘束できるような奴が良いかな。それとも動きを遅くするとか……


「そちらから手を出す気は無しということか。それなら俺様から行くぞ」


 ふぇ? え!?

 なんでそうなるの。

 ちょっ、待っ……


「『却炎インフェルノ』ッッッ!」


 いきなり本気みたいな攻撃なんですけどぉ!!??

 死ぬじゃん。もう絶対死ぬじゃん!

 ……あれ、今絶対に死んだ感覚があった。

 なのに死んでない?

 でも確かに不思議と苦痛は無かったけど……


[『完全治癒パーフェクト・ヒール』]


[貯蔵された残機が全て消滅しました。]


 えっと……それってかなりヤバくない?

 どうせすべて即死級の攻撃なんだろ?

 そんなのもう生存スキルほとんど無いのと同じじゃん?


 俺にメタ張って楽しいかよ。

 散々生かしておいて苦しめて殺すわけですか。

 どこまでも性格が悪いな。


「俺様の攻擊を受け切るとは、お前中々やるな」


 俺の残機分全て殺してくれましたよね?

 苦しさが無かったとはいえ、そんな回数殺してくるって余程だぞ。

 よーく分かった。

 コイツはヤバい。とにかくヤバい。

 絶対に勝てない。

 直感がそう伝えてくる。

 

 例外はあるが……あれは通知爆弾と重ならなきゃ実行しようにも何もできないから論外だ。


 そもそも大精霊とかは大体そんな感じの絶対勝てない気配はしてるし、搦め手が無いと勝てるわけない。


 なんの策も無く無闇矢鱈になんかで戦うなんて行為はつまり自殺行為だ。

 だからといって防御できるような一撃では無かった。

 回避もあの範囲だと広すぎてしようもない。

 多分、この階層中にあの攻撃が行き渡ったのだろう。

 信じられないほど固いダンジョンの天井が抜けてしまって上の階層が見えてしまっている。


 それで、却炎インフェルノって言ってたけど、それって一体全体なんなんだよ。

 あんな一瞬で残機があんなに減るとかマジで終わってる技だし、もう使って来ないで欲しいけど……多分使って来る。

 流石に連打はできないと思うけど……

 それにしてもあれは何なんだよ。


[あらゆる生存系スキルの保険を全使用させ、その上で敵対相手の残りHPを半分にし、更に残りMPを完全に消費させ、MPの自然回復を数日間無効化するスキルです。]


 ならなんで残りHPが1になってるんですか?


[単純な攻擊力によるものです。]


 へーってことは多段攻擊じゃなくて、単発攻撃ということかな? それはまあ朗報かもだけど、あれを連発されたら流石に無理だな。

 というかあと一発で死ぬ。


 それって流石に連発出来ないよね?

 だって連発できたらぶっ壊れ過ぎてヤバいじゃんか。

 まぁ~流石に、ね?


[『却炎インフェルノ』は連続使用が可能なスキルです。]


 Oh……そんな感じはしてた。してたけどさ……ほら、やっぱり勝ち目なんてないじゃん。

 よくボスキャラが持ってる強制全滅技を連打してくる敵ってことだろ?

 勝ち目云々じゃなくてただの負けイベントでしょ。

 

 あーやだやだ。やってられない。

 どっちにしろこっちから攻擊するチャンスはもらえないだろうから、どうやって離脱できるかを考えよう。


 ……ダメだ。

 逃げられるビジョンが思い浮かばない。

 明確に死ぬビジョンならいくらでも思い浮かぶのに……


 やっぱり俺、ここで死ぬのか?


[マスターは事実この場所にて無数に死亡を重ねています。もう既に起こったことです。]


 いや、確かに何回も死んでるけど。

 そういうことじゃなくて、今までは生存系のスキルとか称号に助けられてきたけど、流石にそれが無かったら本当の意味で死ぬって言いたいの!


[理解不能です。マスターは本当の意味で無数に死んでいます。]


 確かにそうだけど。そうじゃない。

 生き返ることもできないって意味での死のことだよ!

 分かった?


[了解しました。]


 なんでここまで伝えないと分からないのか……やっぱりポンコツ過ぎるからだろうか?

 そうだろうな。

 って、なんでこんなピンチに更に疲れさせられなきゃいけないんだよ……

 せめて水魔法が使えるだけの魔力があれば……もう過ぎた話だけど。

 あーあ。

 本当にしくったな〜〜

 近づこうにも一つ一つの攻撃が即死級のせいで迂闊に近づけないし。

 だから剣術も使えない。

 ここまで詰みだとむしろ笑えてくるな。


「……は、はは」


「ほぅ、笑えるだけの余裕があるのか。ならば容赦はいらぬな。いくぞ『却炎インフェルノ』ッッッ!!」


 やっぱりな。

 使ってくると思ったよ。

 本当に少しは俺の身にもなってくれよ……

 で、俺は死ぬと。

 あーあ。本当に俺の人生になんの意味があったんだろう。


「『奔流タイダル・ウェイブ』」


 来てくれると思ってました。

 ありがとう。ウンディーネさんっ……

 それとついでにフィーも、ありがと。


[ついでって酷くない? 僕も戦力だよ?]


 いや。そもそも交渉が目的だから。

 聞いてない……これは前の不死鳥みたいに倒すほか無さそうだ。しかも連続で。

 これさぁ、さっきの2体の精霊のときよりも今通知爆弾が来てくれたら良かったのにと思ってしまう。

 でもだから来てほしいわけではないけど。


 ってあれ?

 もう既に終わってる?


[火属性の精霊は水属性の精霊から受けるダメージが5倍になります。]


 あーそれで目を回して気絶していると。

 それで、奔流ダイタル・ウェイブって?


[水属性版の『却炎インフェルノ』です。]


 そう……そっか……あ、ならなんでフィーは使わなかったんだよ。


[シルフィードは四大精霊になったばかりのため使用できるほどの力を持っていません。]


 なったばかりって……言うてそれでも数百年は経ってるだろ? それでなったばかりって……

 まあそれは置いておいて、ウンディーネさん、本当にありがとう。


 ここまで助けられるともはや崇拝レベルである。

 それどころか布教レベルかもしれない。

 とにかく、今は助かったってことでいいんだよな?


 良かった……って、え?


「その程度で俺様を倒せたとでも? 残念ながら俺様のお芝居さw そのくらいは分かっていただろう、ウンディーネ」


「えぇ、まあ」


 はあ!? まだ終わってないの?

 早く交渉終わらせようよ〜〜

 なんで戦闘なんかしてんだよ……マジでどうにかならないものですかね。ならないよね。

 もう本当に嫌だ。嫌だ―――って言ってもどうせ無駄だろうな。

 

 とにかく今はこの両者の戦いに巻き込まれないようにしないと。あーあ、面倒だし。それに大変で難しそうだし……このままどこまでも疲れていきそうだよ……はぁぁ……

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