第107話 いつも俺の味方をしてくれる精霊に好感を得るのは普通のことだと思う。



 確かに、俺のー反応が遅かったのは悪かったかもしれないけどさ……それで襲ってくるとか頭悪いの?

 それとも脳筋なわけ?

 ……ク、クソ面倒くさい。

 えー……うーん……説得できないかなこれ?

 ヤダよ? このまま戦うとか本当に嫌だよ?

 相手にしかアドバンテージないじゃん。

 それどころか俺には対抗手段すらないからな……

 

 もう本当に終わってるよ、はぁ……

 大分詰みだよな俺の人生って……本当に詰み過ぎてて仕方が無い。……もうどうしよう、本当にどうしよう。

 

 こういうときに限って叡智は何も助言しないし……

 何が叡智だよ! このポンコツめ。

 いつもいつもからかってきて、こういう必要な時ばっかり何も答えない。

 スキルとして失格だろ。


 ……もうツッコむことすら疲れてきた。

 誰かが代わりにツッコんでくれないだろうか?

 ほぼ絶対に無理だろうな。こんな中に突っ込んでいける奴なんて普通に考えたらいないだろうし、誰だってこんな明らかに危険なでリターンもない所には行ける訳が無い。

 とにかく、もう助けてくれ。


 今まで溜まってきたストレスが暴発したのか、俺の目からは涙が溢れ出てきた。


 情けないし、止めようとしたけど、そんなことでは止まらなかった。

 もうぐちゃぐちゃな顔だ。

 とてもじゃないけど見せられるような顔じゃない。


 ふと前を見ると竜が臨戦態勢から突進の構えに切り替えた。

 どうやら痺れを切らして向こうから先手を取ろうとしているらしい。

 でもこんな状況で誰が戦えるというのか?

 不可能だ。誰だってこんなに追い詰められて、極限の状態で……そんな中冷静に立ち回れる訳が無い。 


 遂に竜が突進してきた。

 

 ……死ぬって明確に思ったのは、これで何回目だろうか。

 そんなことをふと思ってしまった。

 そして世の不条理さを改めて思い知った。

 所詮世の中でここまで精神的に異常な苦しみをこんな短期間で体感する者なんていない。

 きっと世界にとって新しい実験体の一人になったのに過ぎないんだ、そう悟ってしまった。

 じゃなきゃ、ここまでずっとイカれた状況に巻き込まれ続けたなんて事実が起こるなんてまずあり得ない。

 実際は、ウザすぎるスキルの効果のせいだったけども、今でもスキルが原因じゃなくて、俺をイジメたい誰かの仕業なんじゃないかって思えてくる。


 それ程までにはかなり精神的にもきている。

 正直もうこのまま死ぬのもありかなって思っている自分がいる。

 ……実際、いつものことを考えたとしてもこのまま生きている方が辛いのかもしれない。


 だから俺は何も抵抗する気が起こらなかった。

 それでも竜は俺に向かってどんどん加速してくる。

 それで良かった。死にたくない。

 でも辛いのも嫌だ。だからきっとこれが最善の選択だと思い込まざるを得なかった。


「ちょっと待って下さい!」


 竜の体が俺に当たる寸前、階層中に響くような大声が聞こえてきた。

 そして俺の体は大きく吹き飛ばされた。

 それでも、少し前までの本気の突進よりは少し弱いような突進だった。

 そのおかげか、大量の罠にはかかったものの、ギリギリで死んではいない。

 でも再生しないと流石にヤバい。


[『無限再生』を発動します。]


 怖い、怖い、怖い、怖い。

 なんで一瞬で腕が生えてくるのか、気持ち悪い。

 グロいしやっぱり気持ち悪い。

 仮にこの気持ち悪い小さな触手のようなものが生えてくるような感じで腕が生えてきた。

 キツイの後に気持ち悪いは無いだろうと思ったけど、それでもやっぱり辛さが勝った。

 

 あの声が無かったら俺は死んでたのだろうか?

 ……もう辛い。嫌だ。


「お願いですから話を聞いて下さいっ」


 これって……ウンディーネさん!?

 あ、そっか。やっぱり俺を助けてくれるのはウンディーネさんしかいない。

 本当にありがたい。こんなにも素直に助けに対して感謝できるのはウンディーネさんくらいだ。

 あとは……羽澄さんか。

 それはともかく、ウンディーネさんが助けに来てくれた。

 だからと言って、相手は頑固で人の話を聞かない竜だ。何とかなるようには思えない。

 ウンディーネさんが水の大精霊であることを信じてくれるかも怪しい。

 

 これって被害者が増えるだけなんじゃ……


「そうだよー! 少しは話聞いてあげてよ!」


 フィー……まあ助けてくれてありがとう。

 でも欲を言えば、どうせ助けに入ってくれるなら、もう少し早く来て欲しかった。

 だけど普通に嬉しいよ。

 

「ん……なんかウーちゃんを贔屓し過ぎじゃないかな? 流石に僕だけ扱いが酷いよぉ……」


 そうじゃない。

 ウンディーネさんが特別なんだ。

 だってやらかさないし。それに常識人だし。

 手助けだって本当にぴったりありがたい訳だし。


「……それでも理不尽だって」


「ごめん」


「別に良いよ。許して信ぜよう!」


「何様だよ……本当」


「そのくらいしないとやっぱり不公平だもん!……コホン……それでオーグよ。我ら四大精霊の契約者を討とうとしていましたが、これは一体どのような考えでやったのですか?」


 ……怒ってる?

 絶対に怒ってるよね?

 怒りをその竜にぶつけてるだけだよね?

 これってただの八つ当たりじゃないか……本当にご愁傷様。

 でも取り合えず俺を苦しめた分くらいは苦しんで欲しい。

 それ以上は行かないことを祈ってる。

 まあ沙耶よりは絶対にマシだろうからまだ良かったと思うよ。


 俺はさっきまで苦しめられていた竜がフィーに睨まれている様子を見て、密かに憐れみの目を向けるのだった。

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