第106話 今の戦闘が完全に無駄行動だったことを知った俺の気持ちを少しは考えて欲しい。




 無視して話も聞いてくれないし……

 それに竜はあいも変わらず突進してくるし……

 本当にただただ面倒くさいし、嫌らしいし……

 気持ち悪い。

 さっきからどれだけ時間が経ったか。

 多分少ししか経ってないけど、もう数ヶ月経ったような感覚である。

 ちなみについさっき不死鳥の寵愛の称号が一回発動した。

 つまり一度は死んだということだ。

 マジで辛いのだが?


――グァァァァ、ガァァァ!!


 うわっ、危な過ぎるって……本当にヤバいから。

 また押し出されて罠に当たりそうになったし……

 本当に考えることが気持ち悪い。


 竜王とか亜神やら名乗るなら交渉くらいしてくれても良いんじゃないですかね?

 いきなり襲いかかるとか何なのマジで。


 火の精霊にしろ、叡智にしろ、この竜にしろだ。

 3体とも話を聞かないって点では同じくらいイカれてるというか狂ってる。

 そんな狂者の相手をほぼ休憩も無しでやらさせられている俺の身にもなって欲しい。



――ガァァァァ!! アッ!


 いやいや待て待て待て待て!

 分身するのは聞いてない。

 ステータスにもなかったろ!

 マジでなんなん? そんな俺に恨みあるのか?

 なぁ……俺本当に何もしてないじゃんか、許してよ。


 何なのコイツ……

 少しは対話しようとか考えろよ……

 ウザい。本当にウザいんだけど。


 まあ今回は火の精霊の方がウザさがよりマシマシになっているけど…………危なっ、回避できない…飛ばされるっ。


――ヒュンッ!


 風を切る音が重なる。

 更に遠くまで吹き飛ばされた。

 攻擊自体は痛くない。本当に、信じられないくらいには全く痛くない。

 でもそうじゃない。それは全然問題じゃない。

 当たった後が問題だ。異様な距離を吹き飛ばされる。

 壁にぶつかってもダメージは無い。

 でも、そう言うことでもない。

 さっきから念押ししているけど、それで罠が発動するのがやっぱり問題なんだ。

 しかもこの引っ掻き吹き飛ばしの攻擊は予備動作とか無いし、避けられない。


 ずっとブレス攻擊しててくれないかな。

 そうしたら楽にスルーできるのに。


 マジで何なんだよコイツ……やっぱり今はこの竜が一番ウザいかも。だって何にも対処方とか無い訳だし……

 強いて幸運なことを挙げるとするなら、攻擊が直撃したところで一切こちらにダメージが無いことくらいか。

 クリティカルっぽいエフェクトが出ても食らってないし、ダメージを食らわないってことは、つまり痛みも発生しない。

 これはそれなりにデカい。


 だからと言って……うわっ…、また吹っとばされた。


 今みたいに異常にノックバックを繰り出してくるので、非常にやりにくいし、前も言ったように周囲は罠だらけ、そして異常に素早い。


 だからすぐに追い付かれる。

 本当に害悪の二文字で出来た存在だ。

 

 他に表す言葉は無い。


 ……叡智がまたやらかしてるみたいだけど取り合えず無視しよう。


 あれに気を取られていたら、多分罠で雑魚死してしまう。

 もう既に体力が2割くらいしか残っていない。

 残機はあるけど、なんか怖いし、それに痛いのは嫌だ。


 マジで面倒だし、正直早く終わらせたいけど……

 うん、そう簡単な問題じゃないし。

 そんな力俺には無いし。

 ……痛みとか死ぬこととかを厭わずに突っ切るのが一番早いのはわかってる。

 けど、常人がそれを死の間際でも無いのに選べるとでも?

 無理だろ。無理に決まってる。


 運良くどうにかなれば良いんだけど……

 まだ攻擊してくるし、多分どうにもならないよな。

 やっぱ無理か。そっか……はぁ……


 お願いだから対話してくれません?

 多分というか絶対に喋れるだろコイツ。


 ……叡智がまたやらかした気がする。

 気になるけど今は我慢だ。

 とにかくこの竜をどうにかしないと他にどうにもならないし……


[あと30秒で自立駆動の継続時間が終わります。再度叡智による自立駆動を行いますか?]


 ……それで良いよもう。色々面倒だし。


[了解しました。]


 あーもう8分も経ったのかよ。

 これってあとどれだけやらなくちゃいけないんだ?

 どれだけ逃げても無駄じゃないか?

 ……そういえば置いてきちゃったけどウンディーネさんたちは大丈夫かな?

 

 いやいや、今は自分のことに集中しろ俺。

 満身創痍的な状況なんだ。

 他のことを気にかけている暇はない。


 右から来る。

 次は左!

 いや上だ……下からも……避けられない。

 強く吹き飛ばされた。


[個体名:鈴村習――半本体が死亡しました。]


[称号『不死鳥の寵愛』の効果が発動しました。]


[個体名:鈴村習―半本体が復活しました。]


 もうジリ貧だ。残機はあるけど、一切削れない相手に、今さっき気づいたけど、無限に再生成され続ける罠……いつかは死ぬ。

 残機も魔力の使用量が多すぎて八個しか作れてないし……

 こんなことならもっと大量に作っておくべきだった。

 

 あーもう、ヤダ……

 投げやりになって、この理不尽な自体を全て無視してやりたい。そんなことしたら一瞬で死ぬって分かってるから絶対にしないけど。

 ……それにしても、この組み合わせは理不尽過ぎるって。


[なぜそのような力を持っていて、火の大精霊などに組するのだ……人の子よ……]



 !?

 ようやく話してくれた。

 頭に直接タイプだけど……

 ん? つまりコイツは火の精霊が用意した敵ではない?

 あれ? ってことは……この時間丸々無駄だった?

 

 一旦話を整理しようか。

 えっと……?

 確か、俺がこの迷宮?

 の第二層に入った瞬間に襲い掛かってきたよな。

 もうほぼ原型ないけどこの場所は本当は何だった……って迷路だったのか。

 

 コホン。

 で、襲ってきたこの竜は俺がこのダンジョンの妨害キャラみたいなものか、エリアボスみたいなものだと思った。

 だから襲い掛かってきたと。

 見た感じ下の階から上がれる場所はいくつかあったみたいだし……敵が湧いたのと、俺がこの階層に来たのを勘違いしてもおかしくはないのか?

 

 ……あーマジでこの時間なんだったんだぁ!

 俺も馬鹿だ。叫んで主張しとけば良かった。

 憶測から勝手にさっきの精霊二人組と同じような奴だって勘違いしてしまっていた。


 叫んでいたらこのすれ違いも回避できたのに……

 叡智、これくらい気づいて欲しかった。

 叡智って名前がつくくらいならそのくらいの働きはして欲しかった。

 あの叡智ポンコツにそれを望む事自体間違いか。

 でも必死こいた戦闘が全て無駄行動だった俺の気持ちも考えて欲しい。

 だって二回も殺されたんだよ?

 おかしいからね?

 普通は殺されたらもう終わりだからね?


 ……本当にやりきれない気持ちになる。

 それに一気にやる気が無くなってくる。


[……返事は無しか。残念だ、人間。このまま灰になるが良い。]


「ストップ! 勘違いしてるって! 俺別に火の精霊に付いてないし! 俺水の精霊側だし! それにむしろ攻略しにここに来たの、だから無益な戦闘はもうやめよ? ね?」


[にわかには信じられぬな]


 お願いだから信じてくださいお願いします……

 俺は心からそう思った。

 だけど、やっぱり……無駄だったらしい。


[……やはり信用ならぬ。我がお主を殺すような発言をしてから態度を変えたのを見て誰が信用できようか。]


 再び竜は臨戦態勢に入った。

 おっと……せっかく話が上手く纏まりそうだったのに。

 なんでこうなるだよおかしいだろ。


 なんなの本当になんでいつも俺の思う方向に事が進まないの?

 あーもう……おかしいって……はぁ……


 ……

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