第86話 サポートしてくれるのはいいけど、あともう少しくらい俺が楽にできるようにしてくれないのだろうか。




 死にたくない。

 全くもって理解が不可能である。

 


[個体名:羽澄ひかりが部分的な覚醒状態に入っているようです。]


 部分的な……って?

 覚醒状態っていうのもよくわかんないんだけど。


[個体名:羽澄ひかりの部分的な記憶が再生しているようです。覚醒状態とは、その個体のスペック最大の力を発揮した状態のことです。また、個体名:羽澄ひかりの覚醒は初めに述べた記憶の再生がトリガーになっている可能性が高いです。]


 えっと……つまり?

 いやいや、どういうこと?


[上位個体の情報を確認しました。敵個体か判別することが不可能であるためこれ以上の追加情報は回答できません]


 あのさ、これ何なの? 骨ローブが止まっている間に逃げろとかそういうことなのか?

 え!? どういうこと?

 おい、言ってくれないと分からないだろ。

 え、何にも情報無し!?

 酷くないか? これって何かのイジメか何かですか?


[その質問にはお答えしかねます。あくまで可能な範囲での回答、及び助言、自立行動しか行えませんので、その……]


 ウッザ。もう続けなくて結構。

 どうせいつもの正論らしき説教だろ?

 正論と暗黙の了解を吐き違えた発言はもう勘弁なんだよ。

 正直、言われてることが普通に正論なだけあって、反論しようにもできないのが余計に腹が立つ。


[固有スキル『交錯術式』を獲得しました。]


 新しい単語をぶち込んでくんなよ。

 せっかく怒りで驚きと混乱を中和してたのにさあ……


[スキル『中和レベル1』を獲得しました。]


 あのね、今スキル獲得大会(仮)を行ってる暇はないんだぞ?


[スキル『大会(仮)レベル1』を獲得しました。]


 バカかよ。もう知らね。

 で、今どうしようか。

 骨ローブが混乱している内に何かしないと……

 逃げるのも有りか。

 いや、逃げよう。むしろ逃げる以外の選択肢が他にあるだろうか? いやない。


[半径5キロメートルの範囲で、侵入者の脱走を完全に妨害する結界が張られています。]


 あーね。

 転移門は……使用回数上限いってるし。

 それに魔法も勿論のように使えない。

 あれ、これ無理じゃね?

 つまり、俺みたいな奴は死ねと?

 うわあ容赦ねー……


 うん? 骨ローブが逃げようとしてる?

 してるにしても、これ助かるか?

 仮にあの骨ローブが閉じ込められていることを知れば、余計に暴れるかもしれない。

 それに巻き込まれてしまえばひとたまりもないだろうな。

 うぅ……助けてくれよ……


「あなたはもう少し自分で行動するということを学んだ方が良いと思います」


「えっと……? あの、それってどういう……」


「習ではないよ、後ろにいる彼に対して言ってるの」


 えっ、誰? 怖いんですけど。

 咄嗟に俺は後ろを見た。

 それらしい姿は何にも見つからない。

 それでも、怖さが勝り自分の周囲を見渡した。

 が、周囲には何もいない。

 スキルにすら何も引っかかってない。

 本当に怖いんだけど。

 気付かないのが一番怖いっていうのはこういうことか。


「そっか……気づかないんだ……」


 そうです。気付かないんです。

 俺が何でも出来ると思うなよ?

 できる方がおかしいからな?


「その……なんかごめん」


「いいよ、別に。この程度のことで気にしてたらもうキリが無いし」


 大分感覚がバグって来てしまってるかもしれない。

 おそらく、このままでは完全に一般的な感覚を失ってしまうだろう。

 ま、今更手遅れか。


「そ、そう……それなら良いんだけど」


 良かった……性格は変わってないみたいだ。

 ほら、漫画とかのテンプレ展開でよくあるじゃん。前世の記憶を取り戻した途端に性格変わるっていう展開とか。


「それにしても転生前の記憶が戻っても、性格変わらないんだな。てっきり前の記憶の影響を大きく受けるものだと……」

 

「まあ、たまたまほとんど性格が同じだったからだと思うよ」


「えっと……」


「他の人は普通にそのパターンが多い気がする。だから私の場合は本当にたまたまじゃないかな」


「オッケー理解した。これ以上の説明はもう大丈夫だ」


「どうやらのんびりとはしていられないみたいだね。さっき逃げた魔王が戻ってきてるよ」 


「あいつ……まだ俺を殺すのを諦めてなかったのかよ」


「そうみたいだね。あ、いうの忘れてたけど記憶の復元にほとんどのリソースが奪われてるからごめんだけど直接戦闘に参加できないと思う」


 少しは戦闘に参加してくれるかなーとは思っていたが、案の定そんなことは有り得なかった。予想はしてたけど、少しでも期待してた分、少しだけショックだ。


「サポートしてくれるだけありがたいから。全然気にすんな」


 最悪の想定よりはマシなんだけど、そうこう思っている間にパニック状態で逃げていただろう骨ローブが俺たちの方に戻ってきた。


 いつも通りのことだ。耐え切って少しずつ体力を削れれば良い大丈夫。

 そう、いつも通り。

 魔力も溜まって、一定以上の魔法が使えるようになれば、称号の効果で属性攻撃無効を貫通して風魔法が通るから大量の風魔法を打ち込めるはずだ。

 もう少しくらい俺に戦闘の楽をさせてくれても良いと思うのは気のせいだろうか?

 まあ、文句言っても仕方ないだろうけどさ。


「よし……やるかあああああ!」


 無理矢理テンションを上げて、俺は再び魔王、骨ローブ(その他敵対者は不明)との戦闘に再度参加するのだった。

 ちなみに最後に溜息をつきそうになったのは秘密である。

 あれ? そう言えば羽澄さんが忠告してたやつって誰!?

 滅茶苦茶きになるんだけど。

 取りあえず戦闘が終わったら聞いてみるか。

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