第81話 このクソグロい洞窟を行くのは苦痛でしかないので、不死鳥に任せようとするのはダメだろうか。




 フィーを半ば無視して突っ走った俺は約半日かけてようやく最初の目的地である洞窟に訪れた。

 魔王の領域周辺のせいで魔法が使えないのが意味わからないけど、多分俺をイジメてくるスキル筆頭の通知の元締めと同ランクのスキルを保持しているのだろう。

 本当に面倒くさい。

 面倒ごとが向こうからやって来るとはこういうことを言うのか……川の向こう側に悪友の顔が今にも見えてきそうだ。


「はぁ、はぁ……いや、その子死んでないよね!?」


 フィーは疲れた口調で俺にツッコんできた。

 うっさいな。ただの冗談だってば、3割くらい……


「他の7割は本気ってことだよね!?」


 いや? あ、でもまあ、そうとも言うかも。

 でも3割冗談ならそれはもう冗談で良くないか?

 話すのが面倒なんだけど。家に帰りたいしか今の脳にない俺にそんなこと言っても無駄だって言うのに……


「……とにかく早く攻略して早く終わらせるぞ」


「あー話逸らしたぁー」


 うっさいな。こっちは割とマジで本気なんだけど。

 まあ? 話を逸らそうとしたのは事実……いや、違う。


「……ふーん……別に良いんだもん!」

 

 何がだよ。

 あーこういうときは読心使いたくなってくるな……

 でも我慢だ。後から辛いだけ。よしっ我慢できた。

 偉いぞ俺。


 いや、何を一人でやってんだ俺……なんか無性に虚しくなってきた。


 というか、一番やりたいことが休むことって……一気に老けたな俺。それもこれも全てこの世界が悪い。

 俺は普通の生活をただこなしてただけなのに……いや、違うな。

 そもそもこんなクソみたいな状況になってなくてもあの毒親に問題児の幼馴染だからな……あんまり自分で言うのもあれだけど、俺って元からの苦労人だったか。

 って、なんで苦労人にまた苦労を押し付けるわけ?

 酷くない? 俺、泣くよ?


 っていうか、この洞窟臭くね?

 まあ、なんかストレスはあんまり感じないけどさ……

 これもスキルの弊害か……

 にしてもフィーが平気なのはどうしてだ?

 

「僕って風の大精霊様だよ? 空気清浄くらいはできるって」


 あーそういうこと。

 俺も周りの空気を……いや、やめよう。

 称号『空気清浄機』とか手に入れたくないし。

 溜息送風機の時点で意味分かんないのに……俺は無機物じゃないっての。


[マスターの指している称号は『超重溜息迫撃砲』です。決して『溜息送風機』という名前のものではありません。その名はランクアップ前の時点での名称となります。]


 うっざ。訂正厨かよ。あほくさ。


 でもなぁ……臭うしな……

 嫌悪感がない訳ではないけど、普通の人と比べたら大分マシな匂いなんだろう。

 でも、それにしてたって違和感が半端ない。

 どう言えばいいだろう……悪臭は感じないけど、鼻の奥がムズムズする感じって表現するべきかな。

 つまり今の俺はそういう状態だ。

 簡単に言えば鼻水の出ない花粉症である。

 しかもそれなりに重めの。


 これを我慢するのはキツイ。

 まあ、痒いとも微妙に違うんだけど。

 あー違和感がヤバい。


「あーそうなんだー……これで良い?」


 違和感がスッと和らいだ。

 にしてもまだ残ってる。何なんだこれ。

 あとまぁ……ありがと。


「当然! 僕もやるときはやるんだよ!」


 それなら始めからそうして欲しかった。

 本当に今更かもだけどそれが良かった。


「……だから、それはごめんってば!」


「はいはい、まあ違和感消してくれてありがとな」


「……へ?」


 何が「へ?」だ。

 今のところでそれは意味不明なんだけど。

 やっぱり封印解除して読心したほうが……


[ユニークシナリオ『風精霊シルフィードとの旅路』必須クエスト、『腐りし獣らの狂宴』が発生しました。]


 ……あ、なんか勝手に始められた。

 必須クエストなら仕方ないか。

 いや、やりたくないけどね?


「……いつも頭の中でノリツッコミなんかしてるの?」


「そうだけど悪いか?」


「いや、別に。面白いなぁって」


 あ、そうすか。舐められてるね俺。

 実際あなたと比べたら弱々ですけどね!


「なぜ急に敬語……?」


 知らんわ。てかこんな話ばかりしてたら一つも進まないって。


「それなら行こっか……やっぱりやめよ?」


「え? どういう……あ」


 俺たちの眼の前には大量のドロドロになった何とは言わないが、そういうヤバいのが覆われた光景だった。

 蠅もあちこちに飛んでいる。


 これはあんな悪臭がする訳だ。

 それでも立ち止まる訳には行かない。

 だってペナルティー怖いし。


「……それでもとにかく、我慢しかないから頑張らないと」


「え、う、うん」


 そのまま前方にどんどんと進んでいく。

 ちなみに歩きではない、浮遊してだ。 

 だって死体の道とか絶対に歩きたくないだろ。

 獣のとはいえ絶対に呪われるし……だから地面に足はつけたくない、いやつけられないのだ。


 そんなこんなで5分ほど進むと広間に出た。

 それまでの雰囲気とはガラリと違った空気感があった。

 かと言って、エグい光景が広がってることには変わりない。

 こう、なんだろう……これは絶対に精霊のチョイス間違ってるよな?

 せめて相性有利な光か、同属性の闇かだろ。

 なぜ風? 相変わらず意味が分からない。


 それにしても狂宴か……あれ、これって……


 周りからゾロゾロと気配の反応が出てきた。

 数はざっと一、ニ、三……八万……え? 八万!?

 洞窟だよ? ここってモンスターハウスかなんか?


[現在地はそもそも亜空間ではないため、モンスターハウスは存在しません。]


 え? ならここ何? ただのグロい空間ですか?


[シナリオ上で生成された生成物です。]


 は? なんだよそれ。気色悪いな。

 えーっと、うんゲーム要素を現実に持ち込むなよっ!

 そのせいでこの最悪より終わってる光景を見なければばらなくなったと思うと無性に腹が立ってくる。

 とにかくどうにかしないと……ってこいつら不死属性ならもう不死鳥フェニックスに任せればよくないか?

 それで放置と。楽だなこれ。

 どうやらここを一掃すればクエストクリアみたいだ。

 よし、一旦引き返してこの中に召喚するか。


「幻獣召喚『不死鳥フェニックス』!」


 フィー、出来れば気絶しないぎりぎりの速度で外まで逃がしてくれ!


「うーん……取りあえず了解! 僕に任せて!」


「うわああああああああ! ……死ぬかと思った……」


「だって、気絶しない最高速度ってこのくらいだよ?」


 うん、別に文句言ってるわけじゃないから。

 取りあえずあそこは不死鳥フェニックスに押しつければいいし、さっさと次の目的地に行くか。


「えっと……もうここがそうだよ?」


 え? そうなのか?

 叡智、本当にそれであってる?


風精霊シルフィードの話した通りです。]


 あ、そう……疑って悪かったな。

 今度何か奢ってあげようっと


[必須クエスト『骸たちの武闘会』が発生しました。]


[必須クエスト『腐りし獣の狂宴』が進行しました。]


 まさかだと思ってはいたがただ敵の一掃ってだけじゃ終わらなかったっぽいな。

 最終目標達成までの障害あり過ぎるくないか?

 あーもう! クッソ面倒だな!


 文句を言いながらも、律義に叡知の言うことに真っ直ぐ向き合っていられる俺はすごいと思う。


 ぶつぶつ言いながらも手っ取り早く物事を終わらせたかった俺は初めのとは違う、別の洞窟に潜るのだった。

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