第64話 呼び出しとか物騒なことをされる予感しかしないんだが、俺の気のせいだろうか。




 どうしよう……回避することは……できないよね……

 えっと……取り合えず逃げる?

 それは後がキツくなるだけだしな……

 うん。考えるのはやめよう。そうしよう。

 

「それにしても鈴村くんって順応早いね……」


 順応が早いというよりは無理やりこのイレギュラーに慣れさせられたという方が正しい気がする。

 それに順応が早いといっても、だって俺先週の水曜からこんな状況だし。


[スキル『適応レベル1』を獲得しました。]


 明らかに色々とん詰めすぎだったし。

 普通にこんなことされたら慣れざるを得ないだろ。

 まあスキルの効果で慣れるのが早いっていうのはあるかもだけど。

 とにかく、俺は別に慣れるのが早い訳ではない。


 もし沙耶との訓練以前に襲撃などあろうものなら、きっと狂っていただろうし、この状況に目をつぶろうとしていだろう。


[スキル『奇襲レベル1』を獲得しました。]


「習……ズリぃぞ! 何だよあれ! 羨まし過ぎる! 俺もあんな能力があればきっとモテモテに……その能力を俺に譲ってくれよ!」


「譲れるもんなら全部譲ってやりたいっつの。人の気持ちも知らずにそんな呑気なことをほざくな!」


 俺がこれまでに、どれだけ辛い目にあったかも知らないくせに。本当に馬鹿じゃないのか?

 つくづく思うぞ? スキルとかなかったら今頃平穏だろうにって。

 ……それを羨ましい? そんなの言語道断だろ。頭湧いてんのかよ。


[スキル『通行止め』を獲得しました。』


 ……はあ。何が羨ましいだ。この辛さも知らないくせに。

 あ、これ2回目だった……まあ、直接言ってないからセーフだよな? ともかく、こいつは苦労を知らなさ過ぎる。

 

「何がセーフだよ! 全然セーフじゃないっての。 辛い目に遭ったかもしれないけどな? それでそんなチートを使えたらプラマイゼロどころかむしろ感謝感激雨あられだわ!」


 何その例え、古っ。

 いや古くないのか? でも古いような……


! バッチリ聞こえてんだよ!」


 は? 何? もしかしてこいつ心読めるタイプか?


[スキル『読心レベル1』、『思考解析レベル1』を獲得しました。]


 あー面倒くさい。 すこぶる面倒くさい。

 俺コイツと話すときこれから無心で話さないといけないのか? 萎えるわ……


[スキル『無心レベル1』を獲得しました。]


 うっざ。


「こんなショボい能力で悪かったな! さっきのお前のと比べるとショボいですが何か? あ? ……それにしても萎えるわって! あと最後のウザいも! 俺、泣くぞ!? 号泣するぞ!?」


「そう言って泣いたことないじゃんか。ほら安心だろ?」


「ナチュラルに煽るなよ……」


 いつも通り煽ってるだけだけど?

 むしろ煽りを少なくすることに気を付けてるのに全く注文の多いことですねぇ……はあ。


「お前がウザ絡みし過ぎなだけだ。もう疲れる程にな。しかも疲れてる時にときた。そりゃあ煽っても仕方ないよな?」


「お前ー! ……良いもん、俺泣くもん。」


 泣く程度の辛さで済むのが羨ましいよ。

 本当に辛いときって涙すら出ないもんだぞ。

 一度くらい死ぬ苦しみを味わえば分かると思う。

 それは余りにも酷か。

 まあ実際その状況に置かれたわけですけどね! クソがっ。


「その言い返したいのに言い返せないようなこと言うのやめてもらえません? 理不尽だと思うんですけど?」


 理不尽もその程度で済んで良いよな……俺なんかそれで何度も精神壊されかけたし。多分耐性とかなかったら今頃廃人だし。


「おい! だからやめろって……俺が惨めに見えてくるだろ……」


「俺何も言ってないんだけど? 心を読めるのは分かるけど流石に俺も思考までは制御できないからな」


「理不尽だ……」


 いやお前その能力止めれるだろ。 

 俺のこの謎通知は俺の制御が効かないんだよ。

 って言っても無駄か。理解してくれるはずがない。


「お前なあ! 煽ってるだろ!? 確かに制御はできないこともないけどさあ……だってめちゃくちゃ疲れるんだもん。少し制御するだけでテスト後くらい疲れるんだぞ? だからヤダ。それよりさっきから煽ってるよな? 馬鹿にしてるよな? 俺泣くよ!? 泣いちゃうよ!?」


「お前……本当に小学生か何かかよ。それに俺は煽ってないってさっきから言ってるじゃないか。あー面倒くさい。俺もうあっち行くわ」


 何か面倒だし。このまま立ち去ったほうが良いよな。


「……知らねーからな! 俺がここで泣いても知らないからな!?」


 勝手にどうぞ。俺の知ったことではないからな。

 ふぅ……疲れた。

 ツッコミに回るのも骨が折れる。

 俺本来ならボケる方よりの性格なハズなんだけどな……

 

「やあ、黒歴史くん? ある意味君はこの学校一の有名人だよー……もちろん悪い方のね? まあ取り合えず生徒会にちょっと来てくれるかな?」


 第一声がそれって。

 あれは仕方なくだし。

 っていうか何で途中から見てる奴らまで俺のことを厨二病だと思ってんだよ。これはイジメか? イジメなのか?

 あ……俺の思ってることまんまアイツの話し言葉じゃんか。うわぁ……恥ずかしい……

 それはともかく、何で副会長がここに?

 本当に何で? 俺をバカにしに来たのか?

 いやそういうキャラではなかったよな。

 えっと……何で?


「困惑しているようだね。まあ朝からグラウンドであんなにはしゃいでたんだ。別にこのくらいのことはどうってことないだろう?」


 ナチュラル煽りか……いや、それはやらざるを得なかったからで……はあー言っても無駄だろうな。

 やっぱり指導か何かだろうか。

 おい、担任。ちゃんと仕事してくれよ。

 ちゃんと伝えておくのがセオリーってものじゃないか?


 俺のやったことって理由がなかったら、ただ単にグラウンドをボコボコにするとかいう有り得ない暴走行為だぞ?

 それって退学案件だぞ? 

 

 あーでもそういう規定だからどっちにしろ退学とか言われたら最悪だな……そうでないことを祈るばかりだ。


[スキル『祈祷レベル1』を獲得しました。]


 もしかしたら担任の先生がちゃんと報告してくれてるかもだし、ここで逃げても結果は同じだろうし。


 覚悟を決めよう。


[ユニークスキル『覚悟』を獲得しました。]


 ……すぅ……はぁ……よし準備はできてる。

 退学って言われても割り切れる……割り切れる……大丈夫、大丈夫だ。


 でも仮に退学通知か指導だとしても、呼ばれるところが職員室か校長室だろう。

 そうでなくとも生徒指導室だろう。

 それが何故に生徒会室なんだろう。


「えっと……何で生徒会室なんですか?」


「事情が事情でね。あんな酷いことをした君を学校側が退学にしないって決めたんだ」


 え! マジで!? ふぅ……良かった。

 でもそれなら余計にどうして俺は呼ばれたんだろう……


「おまけに謹慎とか停学とかもなし。指導すらやらないときた。流石に会長はそれを見過ごせなかったようでね。それで君に話があるらしいのさ。僕は何も聞いてないから。くれぐれも怒らせないようにね。……あ、僕から少しアドバイス。会長怒らせると超怖いから、言葉遣いには気をつけた方がいいよ。 それじゃあ後は頑張ってねー」


 あ……行ってしまった。

 そこまで言ってくれるなら最後までフォローして欲しかったな……はあ。


[スキル『支援レベル1』、『補助レベル1』を獲得しました。]


 それと……え? えっと……何されるの俺。

 明らかに脅されるよな。

 嫌なんですけど。嫌な予感しかないんだけど?


[スキル『威圧レベル1』、『威嚇レベル1』、『脅迫レベル1』を獲得しました。]


[スキル『威圧レベル2』、『威嚇レベル2』に統合しました。]


 ……はぁ……はぁ……ヤバい、急に怖くなってきた。

 どうしよう……どうしようもないか。

 えっと……嫌だなー扉開けたくないなぁ、帰ろっかな〜〜


 寒気がした。


[スキル『冷気纏いレベル1』を獲得しました。]


 外からでも感じられる殺気に似た何かを感じた。

 ……ヤバい、これ逃げたら殺されるやつだ。 


 仕方ない。開けるか。

 そうして俺は恐る恐る生徒会室の扉を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る