第29話 ここまで分かりやすい嵐の前の静けさだと、逆に落ち着けないのですが。



 

 今回の話は短めです。

 二話同時投稿です。

 悪しからず。


_______________




 沙耶無自覚ポンコツ天然がパフェを食べ終わったあと、お会計を済ませ、俺たちはなぜか一緒に帰っていた。

 俺としてはすぐにでも家に向かいたかったのだが、沙耶が引き止めるせいでできなかった。


「俺、早く帰りたいんだけど。一緒に帰るのはいいけど俺は沙耶の歩幅に合わせる気はないぞ。付いてきたいなら勝手にすればいいじゃないか。俺は疲れた」


「そこまで言うことなくない!? 今のはちょっと傷つくなぁ……」


 大丈夫。

 俺、沙耶の数万倍は傷ついてるから。

 なんならまだ癒えてないし。

 加えて休憩すらさせてもらってないからな。

 それに比べたら俺のやってることは相当どころか絶対的にマシじゃないか?

 だって俺ただ沙耶を無下にしただけだし。


「ハイハイ面倒くさい。俺は帰るからな〜〜」


「ちょっとぉ! 置いてかないでよ〜〜」


「別にここで解散したわけだし置いてったとかないだろ。あー本当に面倒くさい。帰宅の邪魔だけはしないでくれ。正直言って今の沙耶はその邪魔になってるから」


 今の俺に沙耶をそこまで気遣うだけの気力はない。

 本音を言ってないだけ感謝して欲しいくらいだ。


「……習くん、その言い方はないよ……」


 今は本当にそんなこともどうでもいい。

 さっきのカフェでもう本当に限界を迎えそうだった。

 それを我慢しただけ許して欲しい。

 本音を言えば、何度も殺されそうになったことに恨みはあるし、その後に俺の精神が今終わってる原因となった魔法訓練に強制参加させてきた張本人である。

 残念ながら、朝までは可愛いと思えてたその姿も今ではただの修羅のようにしか感じない。


[スキル『修羅』を獲得しました。]


 ……さっきまで黙ってたんだから黙れ。

 思考を遮るなって。ウザい。


 多分疲れてるんだろうな。

 きっと俺が狂ってるんだろう。

 ステータスの状態異常のところで狂気とか過労、感情欠落とかがついてるに違いない。

 だって何もかも辛いんだから。


「そこで止まっててもいいけど俺、もう帰るからな」


 その後は無反応だった。

 全く女心は難しい。

 でもあの状況で考えろって言われても俺の脳のキャパ的に無理だ。

 出来っこない。

 だから俺はその場所に沙耶を放置したまま帰ることにした。


 しかしなぜか魔力感知がずっと沙耶の魔力反応を俺から一定距離に示していた。

 正直すごく恐怖感を感じたが走って家に帰ったらその魔力はそれ以上俺に付いてくることはなかった。


 家に帰って俺は最低限のことを済ませると一目散にベッドに直行した。


 ようやく休めるんだ。

 向かわないほうがおかしい。

 むしろ自制して手洗いとうがい、着替えをした俺を褒めてほしいくらいである。


 ……それにしても今日は人生で一番辛い日だった。

 こんな辛くて、こんなに眠れることが嬉しい日もそうないと思う。


 特に今日みたいに何度も死にかけるとかいうイレギュラーを経験することも、普通に考えたら有り得ないわけだし、疲れ果てるのも無理はないか。


 ……異様なほどに静かだ。

 いつもなら通知の一個やニ個鳴っていてもおかしくはないのにさっきから一度もなっていない。

 妙な胸騒ぎがする。


 何かこの平穏が脅かされそうなそんな感じがする。

 世にいう嵐の前の静けさって感じだ。

 ……バカなこと考えてないでサクっと寝てしまおう。

 変にたくさん考えると通知が反応してしまうかもしれない。


 ……もう寝よう……

 寝れない。えっ……どうして?

 あ、そうか。

 死にかけたせいでアドレナリンがバンバン出てて眠れないだろうな。

 ここは強制的に寝るのが手っ取り早いか。


「えっと、『睡眠』」


 …………zzz…


 

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