第28話 普段ならご褒美だけど今日行くカフェは罰ゲーム以外の何でもないのですが。後編




 飲み物が先に運ばれてきた。

 やっぱりパフェは時間がかかるよな……はあ。

 どうやらもうちょっと長居することになるらしい。


 サクッと沙耶にパフェを食ってもらって早く帰りたかったのに。

 現実はそう都合よくはないようだ。

 そもそもこの状況自体が都合よくないんだけど。

 それはともかく、ここで寝たらだめだろうか。

 少しくらいなら寝ても問題ないのではないか?

 そう思った矢先に沙耶が睨んできた。


 どうやら仮眠すら俺には許されないらしい。

 せめてそれくらいは許してくれたっていいじゃんか。


[スキル『仮眠レベル1』を獲得しました。]


 もう嫌だ……家に帰りたい……

 おうちかえりたいよぉ~~


 はっ。危ない危ない。

 危うく幼児退行してしまうところだった。


[スキル『幼児化』を獲得しました。]


 は?

 なにそれ意味不明なこと言わないでもらえます?

 もう混乱はしないけど、急にネタぶっ込まれるとこっちはすごくしんどいんで。

 本当にやめてもらえませんかね?


 なに幼児化って。

 誰得なの?

 めちゃくちゃ気になるから見ておくか。


 『鑑定』っと。


______________


【アクティブスキル】幼児化


 精神と肉体を一定時間幼児にする。

 また、その間の記憶は非常におぼろげになる。 


______________



 だから、誰得なんだよこのスキル。

 一々一々ネタばかりだとこっちも疲れるのですが?

 毎回毎回人前で笑うのを堪えてるこっちの身にもなってほしい。

 考えずともどれだけ辛いかわかるだろ。

 時と場合によってはめちゃくちゃ馬鹿にされてるように感じるしさ。

 もうウンザリだ。


 えっと……沙耶は……周りを見て目を輝かせている。

 さてはこういうところ初めてだな。

 だから何だって話だけど。


 それがさっきのやらかしの理由にはなるはずないし。

 偏った情報に縛られている沙耶が悪い。


「お待たせいたしました。こちらスぺシャルあまおうパフェ・デラックスです。注文は以上でよろしいでしょうか」


 沙耶はパフェに気を取られて聞いていないようだ。

 はあ。まあ俺が答えればいい話だしいいけどさ。


「あ、はい。大丈夫です。」


「ごゆっくりどうぞ」


 そういうことを言わないでほしい。

 確かに接客の時の常套句だ。

 しかし沙耶の前でだけはやめてほしかった。

 この馬鹿は勘違いするかもしれない。


「ねえ聞いた! ゆっくり食べていいんだって!」


 はあ、やっぱりこうなった。

 というかファミレスとか行っても毎回こうなる。

 その後は基本こいつは爆遅のスピードで食べるようになる。

 本人曰く、口の中の味が無くなるまで味わっているらしいがそれはむしろ料理が冷めて逆効果だし迷惑をかけるからやめてほしい。


[スキル『味覚強化レベル1』を獲得しました。]


 ……思考をそらさないでくれ。

 えっとどこまで考えてたっけ。あ、思い出した。


 ……しかもタチの悪いことに沙耶は食事しているときは周囲の音が聞こえなくなるらしい。

 そんなスポーツでいうゾーンみたいなのを食事の時に出されてもと思う。

 正直店側にも、俺にも迷惑だ。

 俺だけにならまだ許容はできるが流石に店側にまではやめてほしい。


「スキル『超集中ゾーンレベル1』を獲得しました。」

 

 だから! 思考をそらすな! 分断するな!


 だから俺はいつも沙耶が集中しすぎないように積極的に話しかけてきた。

 普通は話とかしない方が食べるのが早いはずなんだが、こいつの場合は集中されると味わうだけのポンコツ暴走機械と化してしまうため、常に話しかけてやらなくちゃいけないのだ。

 沙耶の親は一体何をどうしてるのだろうか?

 どう育てたらここまで酷くなるのか甚だ疑問である。


「よし写真はオッケーっと。それじゃあ頂きま~す」


「こぼすなよ?」


[スキル『平衡感覚強化レベル1』を獲得しました。]


 ……はあ、会話中もやめてくれって。


「分かってるって! それじゃあ苺から!」


 話したくないが、話さないと迷惑がかかるしな……

 仕方がない、割り切ろう。


[スキル『妥協レベル1』を獲得しました。]


 ……あ?


「その苺って甘いか?」


「うん! めちゃくちゃ甘い!」


「パフェのほうもちゃんと食えよ。早く食べないと溶けるぞ」


「そのくらいわかってまーす」


 そんなこと言って前にパフェをどろどろに溶かして泣きついてきたことは忘れてないぞ?

 こいつ絶対にわかってないな。

 ああ全くどうして俺がこんなことをしなくちゃならないんでしょうね!

 最悪だよ、なんで今日に限ってこんな目に遭わなくちゃいけないんだ……


__________



 俺は沙耶が気を散らすように一生懸命に話題を作りながら話しかけた。

 が、結局のところ、沙耶は終わりの終わり、あともう少しのところで俺が気をそらした瞬間にゾーンみたいないつもの状態に入ってしまい、俺が帰るのはカフェに来てから1時間半後になってしまうのだった。

 本当にこれって何の罰ゲーム?



__________


 作者です。

 一応この次まで箸休め回です。

 その後はちゃんとうるさいのでご安心ください。

 悪しからず。

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