第27話 普段ならご褒美だけど今日行くカフェは罰ゲーム以外の何でもないのですが。前編




 それから俺は毎度のように沙耶に強引に連れられて、目的らしいカフェに着いた。

 着いてしまった。

 今日は家に帰って寝たかったのに。


 俺は何度も道中で沙耶から逃げようとした。

 でも結果はむなしくこの通りである。

 本当に理不尽だ。

 まだ明日だったらよかったかもしれないのに。

 なんでこんな最悪な日に限ってこういうことがあるのだろうか。

 こんなの全然ご褒美じゃない。

 ……最悪だ。休憩すらさせてもらえないなんて。


[スキル『放心レベル1』を獲得しました。]


 ……うぜえ。


「習くん、どうして店の前でボーっとしてるの?」


 あなたのせいだろうがよ。

 沙耶が俺をこんなクタクタな時に連れてくるのが悪いと思う。

 ……俺を殺しかけた叡智ポンコツよりは随分どころの話ではなくマシなのは確かだけどな。

 それでも沙耶も悪いことには変わりがない。

 しかもこれで悪気がないのだからタチが悪すぎる。


「……いや、俺もう帰りたくて」


「せっかくここまで来たんだから! !」


 そんなに強く言われてもなあ。

 俺は即刻寝たいわけだし。

 あまりここで引きたくない。


 沙耶は可哀想だが、ここで寝られなかったらもっと俺が可哀想だ。

 というより耐え切れなくなりそう。きっと発狂してしまうだろう。

 この疲れとか全状態異常強耐性でどうにかならないものか。

 きっとならないんだろうな……


 でもいつもよりはマシか。

 いつもだったら叡智ポンコツがうるさいもんな。

 そう、叡智ポンコツもんな。

 ……はあ。


 基本的に沙耶の要望は要望ではなく、命令なことが多い。

 どうせ今回も俺に拒否権はないんだろう。

 ……理不尽。


「えっと、とりあえず入ることでオッケーだよね? ってことで入ろう!」


「いや、俺は……もういいや」


 どうせ言っても無駄だし。

 空気悪くするだけだし。

 それならもう素直に従ったほうがマシか。


 本当に全て叡知のせいだ。全てあいつが悪い。

 うん、少し沙耶への怒りが収まった。……ふう。


[スキル『鎮静化レベル1』を獲得しました。]


 ヤバイ。最近少しスルーできるようになってきたのに今はスルーできない。

 無性に怒りが湧き出てくる。

 抑えろ俺。抑えるんだ。


[スキル『鎮静化レベル1]を獲得しました。]

[スキル『鎮静化レベル2]に統合しました。]


 本当に今はやめてくれ。

 こういうのもあるから来たくなかったんだよ。

 本当に最悪。


「なに頼む~~?私はカフェオレに~~このスぺシャルあまおうパフェ・デラックスかな!」


 なにその名前クソ長いじゃん。

 あとなんかデカそう。

 多分食べきれないから食べてとかなんとか言って俺に食わせるんだろうな……

 普段なら最高のシチュエーションも台無しだよ。

 今の俺には不安要素でしかないし。

 通知爆弾のな。


「習くんは?どれにするの~~?」


「普通にブラックで」


 もう考えるの面倒だし。これでいいや。

 こうして眠れなくなるんだろうな……


[スキル『カフェイン耐性レベル1』を獲得しました。]


 ……うざ。


「オッケー!店員さーん!」


 マジか。……えっマジか。

 そこに呼び鈴あるじゃん。何してくれちゃってんの?

 本当に馬鹿。

 いつもなら許せるけど今日は許せない。


「お前なあ……ここファミレスと同じだから。そこの呼び鈴押すの。お前チェーン店以外にこれがないとか勝手に思い込んで今のやったろ? 頼むからやめてくれ。俺が恥ずかしいから。」


[スキル『羞恥耐性レベル1』を獲得しました。]


 ……このクソ通知ポンコツ(二号)め。

 時と場合を考えてくれ。頼むから。


「え! そうなの!? ごめん気付かなかったよ……」


 いや、目の前にあるじゃん。

 これで気づかないとかどれだけ……もういいや。

 言い表すのが面倒くさい。


 この後、親切な店員さんが沙耶の言葉を聞いて注文をちゃんと取りに来てくれた。

 ほかの客からはじろじろ見られたが、仕方がないことだと割り切った。

 こんなことを一々気にしていたら沙耶の幼馴染なんてやってられないし。


[スキル『妥協レベル1』を獲得しました。]

[スキル『妥協レベル2』に統合しました。]


 …ふざけんなよ。この通知ポンコツ(二号)野郎


「それにしてもお洒落なお店だね~~SNSで見た通りだよ。」


「ハイハイ。そうですか」


 もう沙耶の相手すらしたくない。

 いや表し方が違うな。

 もう沙耶を相手にするだけの気力がほとんど残ってない。


「適当に反応しちゃダメなんだよ? そんなことばかりしてると嫌われちゃうよ? 知ってるの習くん?」


 こいつからかってやがる。

 本当に面倒くさいな!全く。


「それはごめんね?あとそれくらい知ってるから。」


 それができる気力がないだけだから。

 むしろいつも適当な反応してたら中々に変な奴だろ。

 流石にわかるだろ。


「ふ~~ん……本当に? 怪しい……まあいいや! パフェ楽しみだな~~!」


 こいつ俺をどれだけからかえば気が済むのだろうか。

 やっぱり沙耶無自覚ポンコツ天然の考えることはよく分からない。

 とりあえずこの罰ゲームみたいな時間がすぐに終わるように祈ろう。


[スキル『祈祷レベル1』を獲得しました。]


 ……本当に通知音がここまで嫌いになるなんて思わなかったよ。

 聞いただけでゾワッとする。


 この状況が本当に辛い……

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