第15話 榎本 美沙希と狭い空間で2人きりになる
現在、秋人は榎本 美沙希と2人きりで非常通路のかなりせまいスペースに隠れていた。秋人のすぐ目の前に、廊下側をのぞき込む美沙希の背中がある。
「えっ、生徒会長も昨日の事件のことを追ってるんですか?」
「そうだ。ところで君は確か新聞部の……」
廊下からそんな会話が聞こえてくる。不良から一年生を助けた謎の陰キャを探している新聞部の滝沢 浩介と、生徒会長の海道 美琴だ。
なぜ彼らが自分のことを探しているのか知らない秋人は、ただでさえわけのわからない状況なのに、すぐ目の前に転校前に居るはずの美沙希がいることでさらに混乱する。
(もう、なんがなんだが……)
と、せまい空間に身を縮めるのも限界を迎えて秋人が少し体を動かすと、腕や膝がが美沙希の体の色んなところに当たってしまう。
「んっ、あぁんっ――ちょ、う、動かないで」
「ごっ、ごめんなさい!」
(やっ、ヤバい、なんかめっちゃ柔らかい感触が……)
秋人の脚は、美沙希の肉付きのいいお尻に密着していた。
そんな状況で見悶えそうになりながらも、なんとか浩介や美琴たち生徒会組が廊下を通り過ぎていくのをやりすごす。
「……行った、もう大丈夫よ」
そう言うと、美沙希は完全に密接していた状況から少しだけ距離を取り、秋人に顔を向けた。
「あっ、ありがとう……」
秋人はどうするべきか悩んでいた。現在の秋人は髪を目で隠し、コンタクトも眼鏡にしているため、美沙希が知っている容姿ではない。恐らく誰だかわからないはずだと彼は考えている。
なぜ美沙希がここにいるのかはわからないが、どうするべきか――
「どういたしまして、結城 秋人くん」
「えっ、わっ、わかるの!?」
なぜか自分の正体がバレていたことに驚く秋人。
(わかるに決まってるじゃん。大好きで、ずっと見てたんだから……)
心の中ではデレデレな美沙希だが、やはり照れくささからそんな言葉は微塵も表に出すことができない。
「転校するときバタバタしちゃっててちゃんと挨拶出来なかったけど俺、榎本さんにはずっとお礼を言いたかったんだ」
「はっ、はぁ? 別に、あんたからお礼言われる覚えなんてないけど?」
(はぁ、もうなんで素直になれないんだろわたし)
そして、内心とは裏腹にまたしても悪態をついてしまう美沙希。しかし、そんな彼女の態度に一切不快感を示さず、秋人は穏やかに続けた。
「そんなことないよ。榎本さんは、俺が前の高校で嫌がらせを受けていたときも、いつも味方でいてくれたし、話しかけてくれてた」
「別に、あんたのためなんかじゃ……」
「わかってるよ、でもすごく嬉しかった。ずっとそれを伝えられなかったことを後悔してたんだ」
(うぅ。もう、そこまで言われたら何も言い返せないじゃない……)
美沙希はあまりの照れくささで顔が真っ赤になって、いつもの憎まれ口も発せなくなってしまう。
しばらくの間、秋人はすっかりしおらしくなってしまった美沙希を見守っていたのだが、廊下になぜか義妹の凛香の姿を発見する。
(まずい、こんなところを見られたら誤解される……!)
「榎本さん、もう1回隠れて!」
「えっ、ちょっ……!」
秋人は咄嗟に美沙希を引っ張ると、またしても体が密接してしまう。しかも今度はお互い向かい合うような格好となっているため、彼女の豊満な胸や、肉付きのいい絶対領域の太ももが、秋人の体に密着してしまうのだった。
(やっ、ヤバい……)
とろけてしまうような柔らかい感触と戦いながら、秋人は何とか凛香がいなくなるのをやり過ごす――
◇
「~~~!!!」
(やばいやばい、ヤバかった。わたし秋人とあんなにくっついちゃった……!)
その後、あまりの恥ずかしさからその場を逃げてきてしまった美沙希はしゃがみ込むと、ひとりで見悶えていた。
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