第14話 榎本 美沙希と再会する
秋人が橋本 充を不良から助けた次の日、登校するとやはり学校ではその件が話題になっていた。
「ねぇ、柏木君。あなた、先日謎の陰キャが一年生を不良から助けたって噂知ってるかしら?」
例によってまたしても駐輪場で鉢合わせたクールビューティーの黒崎 美麗からそんなことを問いかけられる。
「ええと、少しだけ噂を聞いたかな」
なんと答えるのが正解か……一瞬の間に頭の中で考えた結果、秋人はそんな返答をした。
いつも放課後になると即帰宅するぼっちの秋人が、翌日の朝までに噂を聞くと言うのはおかしい。しかし秋人には義妹の凛香がいる。もしその点を聞かれたら義妹から聞いたと答えるつもりだった。
しかし美麗はそれ以上追求することなく、次の会話を切り出した。
「ところで柏木君。あなた、前に私のこと、その……助けてくれたわよね?」
「うん……」
「あのときあなたは相当強かったし、見ず知らずのわたしを助けてくれた。正直この学校で不良から一年生を助けられる生徒なんて、あなたしかいないとわたしは考えてるんだけど」
かなり疑われていた。
「いやまさか、昨日はさっさと帰って寝てたよ」
そんな会話で教室までやり過ごすと、美麗とは一度別れて自分の席に向かった。やはり教室でも、昨日の件が話題になっているようだ。
そして前の席のギャルもまた、美麗と同じように俺に件の話を振って来た。
「ねっ、ねっ、昨日の放課後の謎の陰キャって誰だと思う?」
秋人は机に突っ伏したまま、寝たふりをしてやり過ごすことにした。
しかし、篠川 真希は秋人の頬をツンツンと指先でつついて攻撃をしてくる。
「やっ、やめ……」
「やっぱ起きてんじゃん。てかあんた、ボディータッチされるの弱すぎ」
「うっ、うるさい……」
そんな風にからかわれながらも、秋人はなんとか朝をやり過ごす。
しかし昼休み、異変が起こり始めた。
「昨日の放課後、校舎裏に行った生徒が居たら話を聞かせてほしいのだが」
黒髪のショートヘアに吊り上がり気味の瞳をした美人が、数人の生徒を引き連れて秋人の教室へとやってきた。生徒会長の海道 美琴だ。
(校舎裏って、昨日の件についてだよな……なんで生徒会長まで。なんかわからんが逃げよう)
秋人は美琴が入って来た方とは逆の扉から、教室を脱出しようと試みる。しかし今度はそちらの扉から出た瞬間、ひとりの男子生徒が話しかけて来た。
「あの~すいません。柏木 秋人先輩って今いますか?」
新聞部の一年生である滝沢 浩介だ。雪花 碧の指示通り調査を始めたのだろう。
「いやー、今はいないですね」
むろん、そんなことを知らない秋人はなんとなく危険を察し、そう答えるとその場を離れるが……。
「ふふっ、助手クン。今のが転校生クン、柏木 秋人だよ」
「ええっ、マジっすか!?」
そんな会話が背後から聞こえてくる。
(まずい……)
と、秋人が危機を感じた瞬間。
「こっち」
横の非常通路からふいに手を引かれた。
(えっ……なんで彼女がここにいるんだ?)
その人物の顔を見て秋人は驚く。なぜならそれは、彼を助けた人物が転校前の高校にいるはずの榎本 美沙希だったからである。
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