第13話 秋人は徐々に学校中から認識され始める

 不良たちから橋本 充を助けた後、秋人は警察からの事情聴取を終え、帰宅した。


(大事になってしまった……明日、俺のことがバレてないといいんだけど)


 警察が来たことから放課後の件は騒ぎとなり、学校中でも注目の的となっていた。とは言え現場には関係者以外が入れない状態となっていたため、実際にその場を目撃していた生徒は少なく、あくまでも噂として広がっているという形だ。


 おおかた不良生徒から暴力行為を受けていた1年生を、謎の陰キャ男子が助けたという認識で広まっている。


 目立ちたくない秋人としては非常に都合の悪い状況だった。


(けど、あの状況を見過ごすなんて絶対にできなかったしな……)


 大半の人間がそうするように、見て見ぬふりをしてやり過ごせば秋人はリスクを背負う必要もなかったかもしれない。しかし根が善人で、正義感の強い秋人はそれを見逃すことはできなかった。


(まぁ、あの男子生徒が無事だったしいいか。あの不良たちは退学になるだろうし、今後彼が仕返しを受けるなどの危険性は低いだろう)


 そう考え、秋人はベッドの上で目を閉じた。


 ◇


 今回の件を受け、秋人の見知らぬ場所で彼の正体を探ろうとするものたちが現れ始めていた。


 ひとりは美人生徒会長の海道かいどう 美琴みこと。今年で卒業の彼女は今、この学校の今後を任せられる時期生徒会長候補を探していた。


 生徒会の人間の中から選出するのが定石だが、彼女は今後を任せるのに適した人物はその中に居ないと考えていた。


 現在の生徒会に善意や正義感で行動する人間は非常に少なく、ほとんどの生徒が受験に影響する内申点のために最低限仕事をこなしているような状態。しかしそれも一概に間違えとは言えない為、美琴はそれを黙認していた。


 この生徒会はほとんど、ハイスペックな生徒会長である美琴の活躍で成り立っていると言っても過言ではない。


 そんな彼女は、危険を恐れず不良から1年生を助けたという男子生徒の存在を知った。しかも彼はその善行を驕ることもなく、自分の名前を公にすることを断っているという。


 彼が時期生徒会長に最適な人物かどうかはわからない。しかし、美人生徒会長は彼に可能性を感じ、正体を探り始めたのだった――




 そしてもう1人、ここにも謎の陰キャの正体を探る人物が……。


「雪花先輩、生徒会と教師陣を当たったんですけど、謎の陰キャの正体全然わかりませんでした」


 新聞部1年生の滝沢たきざわ 浩介こうすけは、この部活の部長である雪花 碧に調査結果を報告していた。


 そう、秋人と同じクラスであるボクっ娘の雪花 碧だ。彼女は2年生にして新聞部の部長なのである。現在この部活は碧と浩介の2人しか所属していない。


「というか、先輩も遊んでないで手伝ってくださいよ!」


 碧は部室の椅子でぐた~っとくつろいで文庫本を読んでいた。


「いや~実はボク、謎の陰キャの正体に心当たりがあるんだよね」


「えっ、じゃあなんで俺にこんな回りくどい調査させたんですか!」


「まずは正確な証拠を集めることから始めるのが調査の定石だよ、助手クン」


 碧はまるで今彼女が読んでいるミステリー小説の探偵のようなセリフを口にする。


「まぁ、別にいいですけど……それで、その心当たりって誰なんですか?」


 碧にいいように使われながらも、浩介はまんざらでもなかったりする。美人な先輩と2人きりで過ごせる放課後というのは、男子高校生にとって非常に魅力的なものなのだ。


 碧はぐたーっとした態勢から起き上がり、制服の上から羽織ったパーカーを整えると、スカートから伸びる白く長い脚を組んで言った。


「助手クン、今から柏木 秋人って生徒を調べてよ」 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る