第8話 マウントを取ってくる性格最悪な男子がざまぁされる
「隣いい? 転校生クン」
体育の授業中、体育館の隅でぼーっとしていた秋人の隣にやってきたのは同じクラスの
色素が薄いグレーアッシュのショートヘア。いつも気だるげな雰囲気をした、タレ目の美人である。寒くなったのか、現在は体操着の上に灰色のパーカーを羽織っている。
「雪花さん……どうぞ」
秋人がそう言うと、碧は少し驚いたように口元を緩める。
(会話をするのは初めてだが、なんとも読めないな……)
「へぇ、ボクの名前把握してるんだ」
(そして……ボクっ娘だ)
それに碧は普段クラスで誰かと会話をしているところをほとんど見ないため、秋人は少し意外だった。
「嬉しいね。ボク、転校生クンのことはずっと気になってたんだよ」
「こんな、いかにも陰キャな冴えない転校生の何が気になるのか、俺には理解できないな……」
「うーん、例えばさ……」
と、碧はふいに腕を伸ばして来たかと思うと、秋人の二の腕を浮かんでくる。
「ひぁっ」
(ちょっ、急に触らないで……)
秋人は体操着で半袖だったため、肌を直に触られて余計くすぐったかった。
「やっぱり、そうとう鍛えてるよね。ボク、不思議だったんだよ。転校生クンがどうしてずっと実力を隠してるのかがさ」
「……まさか、何かの間違えだろう。俺は今回のバスケも、他の授業でも精一杯を尽くしているよ」
「ふふっ、そうかもね」
碧は不敵に微笑む。まるで秋人が嘘をついているのをすべて見透かしているとでもいうように。
「それよりさ、せっかくボクたち初めて会話したわけだし、これから仲良くしようよ。転校生クンとボク、きっと気が合うと思うんだ」
と、秋人と碧が会話を交していたとき、1人の男子生徒が会話を遮るように唐突に現れた。
「へぇ~、雪花ちゃんってそんなに喋るんだ。だったらこんなつまんないやつより俺と話そうぜ」
その男子生徒、
「雪花ちゃん、今日の試合でこの陰キャの動き見てたかよ。ろくにドリブルも出来ないでさ、まじだせーんだよ。それに比べて俺の活躍見た? いや~自分でも今日のシュートには痺れちまったわ」
雄大は秋人の体をドンっと押すと、強引に碧との間に入り込んできた。そして、いかに秋人が無能か、そしていかに自分かカッコいいかということを力説し始める。
秋人は改めて、今日の試合で目立たなくてよかったと思った。こういうマウントを取りたがるやつに目を付けられて粘着されるのが一番面倒なのだ。
しかし、碧は雄大の言葉には一切耳を傾けず、まるで彼がそこに居ることに気が付いていないかのように再び近づいて来ると、秋人の腕をとって歩き始めた。
「ちょっと喉乾いた。転校生クン、自販機まで付き合って」
「はっ? おい、待てよ。俺を無視すんなよ!」
雄大は完全に自分を無視されたことに対して呆気にとられつつ、声を荒げる。
「えと、雪花さん……彼はほっといていいの?」
秋人は雄大に聞こえない程度の声で碧に問いかける。
「ボク、興味があるのは転校生クンみたいな人だけだからさ~。口でベラベラと自分の有能さを誇張してひけらかすヤツとかホント無理だね」
「ちょっ……」
雪花は雄大に聞こえるような声で、彼をおとしめるような言葉を続ける。しかも雄大に直接話すことはなく、あくまでも秋人と話しているという形で。
「てめぇ……ずっと俺のこと無視してんじゃねぇよ!」
と、大変な状況になっている中、さらに2人の女子生徒がその場に姿を見せる。
「面白い話してるじゃない。柏木くんの方が、そこのマウント取りたがりのクズよりよっぽど強いってのには同意ね」
「てか、あんたが陰キャとか馬鹿にしてる秋人の方が、アタシはあんたよりよっぽとカッコいいと思うけど?」
そこに現れたのは、黒崎 美麗と篠川 真希だった。
「なっ……」
(なんでクラスツートップの美女がこんな陰キャの肩を持つんだよ。しかも、この俺をコケにしやがって……)
雄大はプライドを傷つけられてその場で膝をつくが、もう彼女たちは彼のことなど興味がないとばかりに秋人をつれてその場を去ってしまう。
心を折られ、雄大はもう何かを言い返す力すらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。