第5話 氷姫の氷はかなり溶け始めている
秋人が転校をしてから1週間近くの時が過ぎた。
転校生に対する興味と言うのも一過性のようで、秋人が人と関わろうとしない態度を貫いていると彼に対して話しかけてくる生徒も大幅に減ってきていた。
しかし、依然として秋人に話しかけてくる生徒も存在する。そのうちの1人は、あの毒舌の氷姫と呼ばれている黒崎 美麗である。
「……おはよう。今日も会ったわね」
「あぁ、そうだな」
なぜか秋人は、登校してすぐ美麗に校門や昇降口で遭遇することが多かった。今日は駐輪所で自転車を停めていると、彼女は彼の隣に自転車を停めて来たのだ。
それから秋人と美麗は2人で教室へと向かう。とはいえ同じクラスに同じ歩調で向かうからたまたま一緒にいるというだけで、仲睦まじい会話をするわけではない。
(特に話すこともないし、黒崎さんも気まずい思いをしてるかもだから登校時間変えた方がいいかな……)
そう思う秋人は登校時間を変えることを考えているが……。
(どっ、どうしよう……今日も秋人くんの登校時間を狙って苦手な早起きしたのに、全然会話を切り出せないじゃない……もう~~わたしのバカバカっ、いくじなし!)
一方でクールビューティーな黒崎 美麗がこんな葛藤をしていることなど秋人だけでなく、学校中の誰も思いはしないことだろう。
結局大した会話をすることもなく昇降口についてしまい、このままではいつもと変わらず終わってしまうと思った美麗は秋人に話しかけることにした。
この一週間秋人と美麗は何も言葉を交わさずただ一緒にクラスまで向かうということがあったのである。
「ねぇ、柏木くん……連絡先交換しましょう」
「うっ、うん。いいけど……」
美麗はスマートフォンを起動させ、チャットアプリを開いてこちらに向けてくる。
(どうしよう……黒崎さん、やっぱり気をつかって声かけてきたのかな)
(やった! やっと言えた……!)
と、いまだに戸惑っている秋人とは対照的に美麗は歓喜しているが、それを素直に表に出すことはできなかった。
「この前は助けてもらって、その……借りがあるし。お礼をしたいからまた連絡するわね」
チャットアプリでアカウントを登録すると、美麗はそう言って足早に教室へと向かってしまう。
(お礼なんていいのに……)
そう思っている秋人は気がつけるわけもなかった。頬が真っ赤に染まって耳が熱いことを隠すために美麗がその場を去ったことなど。
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