第2話 「毒舌の氷姫」の好感度をあげてしまう
美麗はいつものようにクールで強気な態度を貫いていたが、内心では恐怖に駆られていた。
先日、顔も名前も知らない男子生徒が告白……というより強引に自分と付き合えと命令して来た。彼は3年生の先輩のようだった。
美麗は非常に整った顔立ちをしておりスタイルもいい。そのうえ太ももやお尻と言った男性が好む部位は豊満で魅力的だ。そのためか以前から知らない男子生徒に告白されるといった出来事は多々あったのだ。
しかし、ここまで傲慢な男は初めてだったし、仕返しに襲い掛かってくるとは思わなかった。
殴られる……そう思い目を閉じた次の瞬間。思っていた衝撃が彼女の顔に当たることはなかった。
「自分勝手な上に女子生徒に手を上げるとか、最低な男だな」
1人の男子生徒が、襲い掛かって来た先輩の拳を受け止めたからだ。
(今日転校してきた、柏木 秋人くん……)
「てめぇ、俺の邪魔すんじゃねぇよ!」
先輩の男子生徒は今度は標的を秋人に変え、彼の顔面に殴りかかった。しかし、またも秋人は拳を受け止めると、カウンターの拳を先輩男子の腹にくらわせた。
「ぐぁっ……!」
彼はうずくまり、攻撃を受けた個所をおさえながらも秋人を睨みつけてきた。
「こんなことして、ただで済むと思うなよ……」
「あら、暴行を受けたとでも学校に報告するつもり? このまえ俺は器の大きい男だとか豪語していたくせに、やっぱり小さい男ね」
先輩男子が秋人に暴行を受けたと教師に報告するのではないかと考えた美麗は、それを防ぐため挑発をかけた。
「そもそも、あなたから殴りかかってきたのだから彼のは正当防衛だと思うけれど」
「そっ、そんなことするわけねぇだろ……とにかく、今回は見逃してやるよ」
そう負け惜しみを言うと、その男子生徒は逃げるように昇降口を出て行った。
「大丈夫だったか?」
秋人が美麗に話しかけてくる。
「えぇ……あなたのおかげで。今日転校してきた柏木 秋人くんよね。わたしは黒崎 美麗よ。その……助けてくれて、ありがとう」
「大したことはしてないよ、無事ならよかった。それじゃあ、帰り気を付けてね」
そういうと秋人は上履きを靴にはき替え、昇降口を出て行った。
美麗は気が付くとそこに立ち尽くしていた。
今まで美麗に近づいて来る男はみな、下心を丸出しにした人間ばかりだった。しかし、秋人はこの機に乗じて連絡先を聞いて来たり、慰めるふりをして体を触って来たりすることなく、彼女の身を案ずる言葉をかけて去って行った。
しかも秋人は美麗を助けた側で、言ってしまえば貸しをひとつ作っているようなものだ。先程の先輩のような男だったら、間違えなく彼女に対してなにかを要求して来たことだろう。
(こんな男の人がいるんだ……ふふ、柏木 秋人くん)
他人に興味がなく、男嫌いで歯に衣着せぬ言葉でいくつもの告白を断っていることから毒舌の氷姫などと呼ばれている黒崎 美麗。
そんなクールビューティーの彼女が、口元を揺るめて去り行く秋人の背中を見つめていた。
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